#13 【選択】わがままお嬢様は婚約者!?
文字数 4,231文字
初ライブの成功から数日。
「人が被ってもいいからユニットを組もう」という小鳥の提案から、様々な組み合わせによるユニットやソロでの曲が誕生した。
――グラスオーヴィの店頭。
身軽な剣士に鎧を身に纏うアーマーナイト、ローブを着た魔法使いから様々なモンスターまで長蛇の列に並んでいた。
うわぁ!人間とモンスターが仲良く並んでる!ありえねぇ!……でも、なんだか平和だなぁ
その姿は平和そのもの。
誰が争そうものか、誰が荒そうものか、悪事を企む者はいなかった。
一方店内は……
****
店内。
ジャミ子、ミノル、小鳥によるライブが行われていた。
ユニット名は異世界ガール。
異世界人ではなく、異世界(現実世界)を夢見る女の子のユニット。…という設定。
曲名は「帰りたぁい」。前かがみになって手をぶらぶらだらーんとした振り付けの脱力感全開の曲。
♪帰りたぁ〜い 帰りたぁ〜い
♪魔法もなぁ〜い 戦いもなぁ〜い
♪ダンジョンはないけど 冒険したぁ〜い
♪でも!
♪帰りたぁ~い 帰れなぁ~い 帰り方わかんなぁ~い
はわわ、どうしよう~!ここはどこ?わたしはだれ?教えて、神様!(セリフ)
♪大丈夫よ~ まだ知らない世界は~ たくさんあるの~
♪ああ帰りたぁ~い けど帰れなぁ~い 何もわかんなぁ~い
そこのお嬢さん。僕は通りすがりのイケメン☆スナイパー。相席でもいいかな?
あら、綺麗な女だなんて嬉しいわねぇ!イイ男じゃなぁ〜い?
うう、抱きつかれた…あ、あぁ、ありがとう。うん。
ところで…僕の事を知っているかい?
あぁ答えるのはまだ早い。もちろん知っているはずさそうだろう?
ぐっ…まぁいい。僕はイケメン、と名乗っておこう。画面の前の君もイケメン=僕と認識したまえ。ただの男ではないのだ。地の文で男と書かれては困るんでね。
男…う”う”ん。イケメンはカメラ目線で爽やかにウィンクすると、画面の前のあなたに「美しい!」と言われるのを期待してポーズをとった。
なかなか優秀な地の文ではないか。褒美としてサインをあげよう。
フッ。やはり僕は美しい!
……コホン。実はここに来たのは初めてなんだが、美しい女性達のオーナーになってやろうと思ってな。男がいないなんてもったいないじゃないか。
オーナーならもういるわよ。カジノの女王、グラーディアの女神、そしてこのお店のオーナー。ほら、今歌っているのがリサちゃんよ。
これが代表曲「丸裸でいいじゃない」よ!ユニットは「スケベボディー」!
はいこれ、ライブの曲名とユニットの名前を書いた紙。いわゆるセトリよ。
ええそうよ。スケベレディはリサちゃんとヒナちゃん。スタイルが良くてキケンでアダルトなふ・た・り・よ♥
純情可憐な乙女、ノノちゃんと小鳥ちゃんよ❤︎
セクシー女王と純情乙女はノノちゃん、小鳥ちゃん、リサちゃん❤︎
そうなのか…
な、なぁ、「このタコ!」という曲は何が起きるんだ?合いの手とはなんだ?
あぁ、これはアタシがメモしたんだけど…合いの手っていうのは……
♪こんなのこんなの絶対いいわけない 聞いてよ聞いてよみんな私の声を
お、おい、そんな大声で……
…ん?周りも同時に言ったのか…?
今のが合いの手よ!次はアタシと一緒に大きな声で叫んでみましょう?
画面の前のアナタも一緒にね♪
♪タコでタコで何が悪い? お前の生き様言ってみろ!
♪そりゃタコって言われりゃそうかもしれないけれどあたしだって乙女じゃあ!(早口)
♪斬りまく斬りまく斬りまくれ!じいさんばあさん真っ二つ!ウォイ!(早口)
(おかしい…おかしいぞ…!なぜ誰も気付かない!髪を振り回して暴言吐いただけじゃないか!こんなのが歌であってたまるか!なんなんだこれはあああああああ!)
オアーッwwwオアーッwwwオアーッwww
ヘイ!ビギンッ!
いやーいい汗かいた!最高のライブだったぜ!!
さっそく物販…おおおおお!なんだこの素晴らしいアイテムは!
うちわ!タオル!ペンライト!リストバンド!缶バッチ!
お宝じゃないか!!全部いただこう!いくらだ!?
おっ。初めまして。これからよろしくな!
全部だと…56000ゴールドだな。
ほ、本物!?まっ…眩しくて見えない…!貴女のタコになりたい……!
ふぅ。休憩休憩。元の格好だけどジャミ子だってバレないよね。
よし、まかない食べよーっと。
あのね、お客さんなんだけど、せっかく作った料理をマズイって言ってくる人がいるの…
どんな人だろう…トカゲのモンスターかな?筋肉モリモリの大男かな?兜で顔見えない武士みたいな人かな?それともどっかの王様!?
ジャックが探すと、黒髪の小さな女の子と紳士のようなおじいさんがいた。
ジャックは2人に近付く。
アイザワ、他の頼んで。マズイのなんて食べたくない。
(アイザワ?アイザワって…相沢?現実から来た人かな?)
【アイザワ】
失礼な態度、お許し下さい…先程歌っていた方ですね?
こちらは紗桜家の三女ゆめお嬢様でございます。
わたくしはゆめお嬢様のボディーガード兼執事をしております。アイザワと申します。
…待って。どうしてハンバーグ知ってるの?
じゃあ学校は?色鉛筆は?牛乳は?
あなたもしかして…
――
ジャック、ゆめ、ゴワス、ゴッツァンは、同じ席で座ることになった。
(はあ…ついうっかり言っちゃったよ…口は災いの元だ…
でもこの子も学校って言ったし、2人とも現実から来たのかな?)
あ、あの〜オレの顔に何かついてる?
…なんちゃって…
まぁ、まずは自己紹介からしましょうよ。アタシは――
何よ〜!言いなさいよ〜!運命の女の子がいたなんて聞いてないわよ~?
アタシはこの子の愛のメッセンジャーゴワスよ!ゆめちゃんよろしく!
何でも相談して♥
まさかとは思いますが……お嬢様との婚約を破棄なさるおつもりで?
でもお嬢様でしょう?すごいお金かかるんじゃない?彼は普通の剣士よ?
(だ……誰なんだあああああ!?思い出せジャック!この子は一体誰だ!いつ会った!?
学校は違う!家族も違う!友達も違う!リスナーは…………ないない!!あったら嬉しいけど!!)
あらこの子照れてるじゃない!かわいいわ〜❤︎
ジャック、やるじゃない♥
わからないのは無理もありません。
お嬢様は日本からこちらへ来たあなたの親族ですが、恥ずかしさからずっと影で見ていたと伺っております。
こちらで目覚めてからは、飛空艇で世界中を旅するギルド「世界の空」のギルドマスター
シエル様とも関係があることがわかり、「紗桜家三女」として迎えられました。
残念ながらわたくしはこちらの人間。ジャック様やゆめ様の言うあちらの世界の事はわかりかねますが、シエル様のご指示からボディーガード兼ゆめ様のお世話をさせて頂いているのです。
(そういえば小さい頃…いつも誰かに見られてたような…)
あるわよねそういうこと!
男からすれば覚えていない、気付いてすらいない事でも女の子はちゃんと覚えているのよ!これこそ青春だわ~!
悠哉君、だよね。ずっと見てました。いい子にするから、私と一緒に暮らしてほしいの。
日本に帰る必要なんてないよ。ここでずっとそばにいてくれればいいの。
ゆめとの婚約、そして異世界での生活か現実世界に帰るか、迫られ動揺するジャック。
せめて誰も、この会話を聞いていないことを願う。
しかし、グラスオーヴィの少女達の中でただ1人、最初から最後まで聞いてしまった少女がいた。
それは、ジャックへの想いを密かに抱いていた女子高生。
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