16話 ドゥーンの過去とソフィーの涙
文字数 5,414文字
アクスビット。
ソフィーは、アクスビットの入り口にある町の案内板を見ていた。
この町、ほんとに大きいんだ…ええと今いるところは……
この地図はテキトーだからねー。昔のものだし。えーと、黄色い丸があるところが今いるとこだね!
ええとね、黒い線が壁なんだけど、壁の向こうは町の外なんだ。一歩でも出ると強いモンスターがうろついてるんだよ。
そういえば強いモンスターが出るって言ってた…。でもすごいね。この地図、昔のなんでしょう?今より大きい町だったんだね。
この町はね、"目の前にあるモノ"に一回滅ぼされてるんだ。その地図の時は強いモンスターもいなくて平和だったんだけどね。
ドロシーでいいわ。
この地図、"他の事"まで書いてあるみたい。誰が書いたのかしらね?
ここに来た人はみんな言うよ。綺麗な町だ、強い武器がいっぱいだ、美味しい料理が食べられる、平和な町だ……。
でもみんな知らないんだ…この町はいつでも狙われてる事を…
この町はね、昔帝国によって滅ぼされたの。
当時、町の人間はパニックになったけれど、手を取り合って町から逃げ出すことができた。けれど帝国にはモンスターを召喚するミミックがいた。
人間の真似をするモンスターよ。帝国には、帝国の絶対的な力を人工的に組み込まれたミミックがいてね、グロテスクなモンスターを召喚する力を持っているの。
……町の外に出た人達は驚いた。
町の外にもあったはずの民家が壊されて、気持ちの悪いモンスターがそこら中をうろついている。
もう死ぬしかないのか。そう覚悟して町の中へ戻った。すると1人の女が言った。
「この町の地下には財宝の伝説がある。これから1年毎に1億の財宝を渡しに行く。」
……その約束をした瞬間、ミミックは無言のまま姿を消して、町を襲うことは無くなった。アクスビットには町の外をうろつくモンスターと、壊れた家と、燃え盛る炎、傷つき生き絶えた人だけが残された。
ちなみに、その財宝は実在していてね。地図でいうとこの赤い丸のところに、井戸があるの。
ほんとだ、赤い丸がある…
じゃあ、井戸の地下にあるってこと?
そうよ。井戸の地下は海底洞窟に繋がっているの。そこに財宝はある。
そして、ブラックローズ騎士団、元団長が入っていった場所でもあるの。
ライカが言っていたでしょう。「貴女の母親はアクスビットにいる、正確な位置まではわからない」。
ライカはこの事をわかっていたけれど、信じたくなかったのかもしれないわね。だって、貴女の母親は……
ソフィーは、ドロシーの言葉を聞くと大きく口を開け、ドロシーの服の袖を震える手で引っ張り、泣きながら呟いた。
冒険者ギルドでじゃんけんをしていたはずの男達が、自分の船の甲板で大の字で仰向けになって寝ていた。
よせやい、ユー……いや、先輩に惚れちゃいますよ……
手を取り合って今にも唇と唇が重なり合いそうな2人。
甲板の上でホモ疑惑が浮上した男達の出会いはどのようなものなのか。
――10月下旬。
五智谷(ごちや)駅西口駅前。ハロウィンの衣装を着た若者で賑やかな夜のこと。
その日はとても冷えていた。
『あのおっさん何のコスプレ?蛮族?坊主?キャハハ!』
『うるせえ俺はまだ25だよ!
…ったく、いくら肌が濃いからってこんな格好させられるなんて…会社にも蛮族って言われたぞ…何のコスプレかなんて俺も知らねえっつの…覚えてろよクソ…』
『それにしてもギャルって声でけーよなー。
あー寒い。凍えそうだ…。母ちゃん…オラ寒いよ…。』
その時、ドゥーンは後ろから子供のような声で話しかけられる。
ドゥーンは子供と思って振り向き、手に持っていたバスケットからキャンディーを取り出した。
あまりの顔に、ドゥーンはキャンディーを落としてしまった。
『ははははは!どうですか先輩!僕の衣装!!びっくりしたでしょ!
あ、キャンディー落としましたよ。はいどうぞ。』
『やだなぁ〜そりゃそうですよ〜!あ、ちょっと待って下さい?清村(しむら)先輩ですよね?清村航平(しむらこうへい)さんですよね?』
【ドゥーン/清村航平(しむらこうへい】
『え?あ、あぁ、そうだけど……?』
【パンザレス/黒岩剛毅(くろいわごうき)】
『あ〜こんな格好じゃわからないかな〜。僕、黒岩です!黒岩剛毅(くろいわごうき)です!ほら、昨日の飲み会の幹事をやらされた……』
『あぁ!君か!!あ〜びっくりした〜……本物かと思ったよ……!』
『いやいや本物なんているわけないですよ〜!あ、さては飲んでます?飲んでるなら飲みに行きましょう!飲んでなくても飲みに行きましょう!』
『え!?今から!?
ゲッ!もう11時過ぎてるじゃん!終電間に合うかなぁ〜……』
『あ〜ダメですよ〜?こうして会ったからには、飲みに行くの決定〜!』
『酔っ払うの早いですね先輩…ビール2杯しか飲んでないじゃないですか…』
『あのねぇ!俺は弱いの!わかる!?それなのに君は〜』
『いいさ君は嫁さんいるだろう?昨日の飲み会で言ってたじゃないか…俺なんてもう25なのに彼女すら出来たことないんだぞ!?どうなってんだ日本!!』
『いやいや日本のせいにしちゃダメですって。
というか〜昨日のはその場のノリで言っただけで〜…』
『あぁん!?君は大罪を犯したようだな!覚悟はいいか後輩!』
『ちょっそんなジョッキ飲めませんて!たったすけて〜!』
『俺だってさぁ!頑張ってるんだよこれでもぉ!このキュウリもさぁ、頑張ってんだよぉ……』
『先輩、食いもの粗末にしたら怒りますよ?泣くか食べるかどっちかにして下さい?』
『まぁ、先輩も大変なんすね。その涙に免じて怒らないであげますよ。僕って優しい。うんうん。』
『大体さぁ、さっきだってギャルにキャハハハって笑われたんだぞ?ど〜〜〜せあんなギャルでもしっかり彼氏作ってホイホイやってるんだ…ってことは俺はギャル以下だ…いやギャルが悪いって言ってるわけじゃない…だけどさぁ…だけどさあああああああ…………ねぇ聞いてる!?』
『もうキュウリでいい…キュウリになりたい…わ〜いタコわさもあるよ〜…あはは…』
『そんなことばっかり言ってると、神隠しに遭いますよ?』
『照れ隠し?かわいい子の?かわいいっていえば新人の大倉ちゃんかわいいよなぁ〜。彼氏いんのかな?』
『いやいや照れ隠しじゃなくて神隠しですって。ほら、最近五智谷市で相次いでるっていう失踪事件あるじゃないですか。』
『あのねぇ君、そんなこと起きるなら俺はゲームの世界にでも行ってギャルとキュウリでパーティーしたいよ。もちろん会場はタコわさとビールが染み込んだヴァージンロォード……。yeah。』
『キュウリでパーティってなんですか…そんなゲーム聞いたことないですよ…そのバージンロード、すごい臭いしそうだし…』
『聞いたことない?ダメだねぇ〜新人は〜。そんなんだから受付の女の子と連絡先交換できないんだよ〜。
…………あ。』
『僕は大倉さんの連絡先持ってます。
どうしたんです?急に立ち上がって?』
『はいはい、トイレなら奥へまっすぐですよ。突き当たりには厨房があるので間違って入ったらダメですよ。』
『あ〜〜彼女ほしい〜〜。あ、店員さんこんばんわ~。
え?ハロウィンですよハロウィン。そうそう。あはは!』
『彼女ほしいって言いながらトイレ行く人初めて見た…。大丈夫かなぁ…。
それにしてもおもしろいなぁ清村先輩!次も誘ってみようかな。』
『…………遅いなぁ先輩。大丈夫かなぁ。ちょっと見てくるか…』
パンザレスが席を立とうとしたその瞬間、誰かが呟いた。
『その必要はありませんよ。あなたはパンザレス、彼はドゥーン。これが貴方達2人の新たな名前です…。』
『目の前が真っ暗に!?どうなってんだ…!?うわああああああああ!』
『そうです!声が聞こえたと思ったらこの船に乗っていた!やっぱり神隠しは本当だったんですよ!ここは異世界だ!!』
『夢じゃないですって!
前から五智谷市には失踪事件があったんです!その行き先は異世界!誰も見たことのない、ゲームのような世界だったんです!とにかく、こうなったからには生き残りましょう!きっとキュウリのパーティもありますよ!』
『声が聞こえた時、僕らは名前をつけられたんです!僕はパンザレス!あなたはドゥーンと!きっとこれは地道に頑張ってきたご褒美なのかもしれない!さぁドゥーンさん、スキルを使ってみて下さい!』
『あ、これもなんとなく何か言われたのを覚えてるんです。きっと誰かが教えてくれたんです。いいですか?スキルっていうのは…………』
君が「名前的にパンダに育てられたことにしよう」と言ったんだったな…だんだん「一人称も変えよう」となって、帝国では異世界人を捕まえる者がいると聞いて……
驚きましたよね。あのライカという女の子、僕らと同じ現実から来た子ですよ。ということは僕らの他にもいるんです。あの日あの夜突然こちらに来てしまった僕らと同じ人達が…
……パンザレス、ミーはあの子を支えてあげようと思う。きっと中学生、高校生だ。親御さんも心配してるさ。
ドゥーン、ボクもそう思っていたところだ。ライカという子が元の世界に帰るその時まで見届けてあげよう。
男2人、大の字になって仰向けになり、空を見上げて拳を上げた。
「約束だ。」と声を揃えて。
****
アクスビット。市場(水色の丸)。
シルキー、メラニーは話を終え、アクアと合流していた。
あのお店で売っているものは新鮮なお魚です!とっても美味しいんですよ!ほらほら、あのお店もあのお店もお魚ですっ!
そういえば、お宝の伝説があるって言ってたけど本当なの?
もちろんです!遥か昔、この町にはお宝があったと聞きます。この辺りの海の底には金銀財宝が眠ってるんですよ!
ほら、あそこのお店はティアラとか王冠とか真珠とか!
それはもちろんそうですけど、見てるだけで楽しくなりませんか?他の町からの品物も並ぶんですよ!
あああ!あんなところにフィールのペンダントが!クラスタのフライパンが!タブレットが!
すると、アクスビットの入り口の方からドロシー、ソフィーがやってきた。
2人とも!……あれ?ソフィーちゃん、どうしたの?顔暗いよ?
全員集合よ。これからの目的地が決まったわ。ライカは?
そう…この広い町から探し出すのは大変ね…。ドッペルのギルド施設に行きましょう。必要な物を準備して行くわ。
私のお母さんを助けてほしいの…!お願い…!お願いします!!
この子のお母さん、有名な騎士団の人でね。アクスビットの井戸の中にいるようなの。
……っ!
海底の洞窟でチョコにされているの!!お母さんがチョコにされて彷徨っているの!!30年間ずっと!!
――ついに判明したソフィーの母の真実。
メラニー、シルキーは驚き、一行はライカを探すためドッペルのギルド施設を目指す。
しかし、その中でただ1人、今まで見せたことのない表情でソフィーを見つめる少女がいた。
(……ふーん…あのヒト、まだいたんだ……やっぱりチョコちゃんの言う通りだね……)
冒険者ギルドの少女、アクア。
彼女の瞳には何が写っているのか?チョコとの関係は?
そして、井戸から繋がる海底の洞窟には何が待っているのか?
ゲノンムルグ城に戻ったチョコはただ静かに、空を見上げ笑っていた。
アークーアーちゃーん♪ふふふ♪昔みたいに、ぜーんぶ食べちゃえ…♪
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