22話 もう一度。
文字数 4,861文字
ゴワスの出したゲートによって、帝国の研究所から「グラーディア」へ飛ばされたローラン、メルトン、オズマ。
多くの金持ちが豪遊するカジノが有名なこの町では、もう1つ有名な酒場があった。
それはかつて、突然現れた少年、少女、そして酒場で働いていた少女がいた人気の高い酒場。その名もグラスオーヴィ。
かつては賑やかで、笑いの絶えない楽しい酒場だったが、
今はもう、見る影もなかった。
もういいんだ…グスッ…もう”あいつ”はいないんだから…!この店も閉めるんだ…!
ソニアちゃん、そんな事言ったって仕方ないでしょ?あの日引き止めないで見送るんだって言ったのは誰?
うああああああああああああああああああああああ!やっぱり斬らせてくれええええええええええええ!
慌ただしい3人の少女。
すると、物置き部屋からドスン!バタン!と音がした。
****
グラスオーヴィ。1階。
ローラン、メルトン、オズマは3人の少女に連れられ、
テーブル席へ案内された。
――なるほどね。グラーディアなら知ってるわ。
世界中の金持ちが集まるんでしょう?一度行ってみたかったの。
オズマくん落ち着いて。
せっかく紅茶を出してもらったんだからちゃんと飲みましょう?
…うん、良い香り。
そんな事言ってられるか!!どうしてそんなに落ち着いていられるんだ!!
そんなに大声出したらみんなびっくりするでしょう?
ごめんなさいね、ナナちゃん。
【ナナ・ニャルキット】
大丈夫だけど心配にゃ…獣人さん、元気出してにゃ……
はぁ…困ったわねぇ…どうして”あの人”、こんな事を…
ははは…あいつがいない、こいつもいない…あははははは…
ええっ…オズマくんより重症な女の子いるじゃない…。
アタシの知ってるグラスオーヴィとは違うわ。どうしたのよ…?
うちのお店、3人の異世界人がいてほんとはもっと賑やかだったにゃ。
みんなで笑ったりライブで歌ったりしてたにゃ。それなのに”もう1人”いなくなっちゃって、みんな元気ないにゃ…
【ソニア・オーヴィ】
こんな所に何しに来たのか知らないが、まぁゆっくりしていくといい。私は腹を切る。後は頼んだぞナナ……
アタシ達、本当は帝国の研究所にいたの。
帝国兵に連れてかれちゃってね、そこでオズマくん、それからメルトンくんと出会ったんだけど…多くの命が奪われた。
悪意のない帝国兵、命の恩人、帝国に殺された異世界人もいたわ。
どうしようもない絶望だった…。
でもね、ソーマくんっていう異世界人、それに星乃ハルっていう異世界人がいてね、みんな諦めるもんかって前に進んでた。オズマくんもその1人。
帰り方もわからないまま研究所の中を走っていたけれど、みんなの背中を追いかけてるうちにアタシもがんばらなきゃって思った……。
ソーマと別れる前に何も言えなかった…聞きたいこと、話したいこといっぱいあったんだ……こんな別れ方、絶対に許さない……!!
死んだわけじゃないわ。ただ「現実世界」へ帰っただけ。
帰っただけ!?何言ってるんだよ!もうソーマとは会えないんだぞ!!
これからも戦えるのに無理矢理転移させられたんだ!!
全部ゴワスのせいだ!!!
あの人の善意があったからここに来れた!あの人が敵じゃなかったから研究所を脱出できた!!ソーマくん、翔くん、琥珀ちゃん、轟鬼くん、アタシ達3人みんな助けられたの!!!
オズマくんも本当はわかってるんでしょう!?あのままあそこにいれば、また皇帝がやってくる可能性だってあった!!そうなればもう全滅してたかもしれない!!みんな殺されてたかもしれないの!!!
【ゴッツァン】
ゴワ”ス”は”どこ”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!
どこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
わ、わかったから顔近い顔近い!アンタも落ち着いてよ!?
ゴッツァン…彼はゴワスのパートナーだ。おもしろい格好をしているだろう?いつもこのグラスオーヴィに来てくれて、店を盛り上げてくれていたんだ。
聞かせてくれ。本当にゴワスと会ったのか?
ゴワスっちがここを出ていった時、みんなびっくりしたにゃ……
『ナナちゃん、ちょっとお願いがあるんだけどいい?アタシのパートナーの事、しばらく面倒見ててほしいんだけど……。』
『彼、寂しがり屋だから心配なのよ。
じゃあ、任せたからね♪』
――あの人が心配にゃ……!今どこにいるにゃ!?何してるにゃ!?教えてにゃ!!
ご、ごめんなさいね…思わず涙が出ちゃった……。
わかった、今まで起きたことを全て話す。彼は今……!
意を決し、
震える手で今まで起きた事を話すローラン。
研究所にいた事、ソーマ、琥珀、翔、轟鬼、ハルの事、ゴワスが現れた事、ゴワスから聞いたヴェイルノートの事、ゲートの事、ゴワスは元々ゲノン研究所の人間だった事、
そして、ゴワスはこれから、研究所に残ったアストリア、ヴェイルノート、ハルと共に皇帝を倒しに行く事。
衝撃の事実が語られ、一同は困惑した。
どうして何も言ってくれなかったんだ…!ゴワス……!!
あああああああああああああああああああああああああああああ!!!
【ゆめ】
"彼"が居なくなってからわかったの。
私のスキルがあればまだチャンスはある。
スキル?
それってまさか、ソーマ君と同じ不思議な力……!?
じゃあアナタは異世界人!?
ソーマと同じ…!?どんな力があるんだ!?それがあれば何とかなるのか!?
勝手に居なくなろうだなんて許さねぇ……!どんな時だって一緒だったんだぞ……!帝国の皇帝を倒しに行く?俺を抜いて勝手に?ふざけんじゃねぇぞ……!地獄でも何でも行ってやるよ……!!
親友ナメてんじゃねぇぞゴラァ!!!
****
ゲノン帝国。
研究所。
ヴェイルノート、ゴワス、ハル、アストリアは、「繋がりの間」のゲートを壊す事に成功。
研究所とゲノンムルグ城を結ぶ丸いチューブ状の連絡通路を歩いていた。
……この連絡通路を使えば、研究所からゲノンムルグ城に行ける。
それにしてもおばあちゃん、結局残っちゃったわね。無理しなくていいのよ?
言ったはずだよ?アタシのやるべき事はまだ終わっちゃいないんだ。子供達だけ先に帰したまでさ。
安心しな、これでも中学生のアイドルと夫の剣豪を持つ最強のバーサーカーなのさ。簡単にやられるもんか。
"このお話"はこの世界と現実世界の繋がりを知るのが目的のはず。繋がりの答えはゲートです。
アタシは欲張りでね。目的は達成してるけどまだ終われないんだよ。
ついでにこの世界の闇を叩っ斬ってやろうってんだ。損はしないはずだよ?
それより、アストリア皇女は着いてきてよかったのかい?
私は父上……皇帝のいるゲノンムルグ城に戻らなくてはなりません。もう少し進めば転移の魔法陣があります。
なるほどね。そこまで行けば元々いた部屋までワープできるってわけかい。
まぁ元々ゲノン帝国の人間なら兵士に追いかけられる事もないか。
そうとも限りません。
皇女の言った通り、私の裏切りを皇帝が知っているとすれば、研究所とゲノンムルグ城にいる全ての兵士を操り、私達を消しに来るでしょう。
はぁ〜イヤだねぇ……
周りの人間を味方としても見ていない奴がボスなんてやるかい?普通じゃないよ。
4人は連絡通路の真ん中に差し掛かった。
ふと、ゴワスは何かに気付く。
それは、研究所側の連絡通路の入り口に立つ少年の姿だった。
ヴェイルノートは、その少年を見て驚く。
彼はまさか……!
ハヤトさん……!?なぜあのような姿に……!?何があったのですか!?
ヴェイルノート…あの子はもう生きてはいないんだよ……皇帝にやられたんだね……
全速力で走る4人。
無事にゲノンムルグ城側の連絡通路の入り口に着くことに成功。
ハヤトを見つめる。
待ちな……!
まさかあの子……研究所を吹っ飛ばす気じゃないだろうね……!?
研究所を!?
いけません!ハヤトさん、あなたはどうなるんですか!!!
叫ぶヴェイルノート。
笑顔を浮かべるハヤト。
次の瞬間、ハヤトは炎の魔法を発動。
凄まじい轟音と共に研究所は大爆発を起こし、連絡通路も壊れ、そして…………。
…………悪いけどアタシ、皇帝を許せそうにないよ…………
放っておいたら被害は広まるだろうね。帝国に乗り込む人間も、帝国に操られた人間も、皇帝にとってはいつでも操れるオモチャに過ぎないんだ。
進むよ!!立ち止まるわけにはいかないんだ!本当の悪夢を終わらせるんだろう?ヴェイルノート……!!!
****
白いカーテン。見覚えのある天井。
薬の匂い。白衣を着た女性。
ここは病院、か……
俺は……現実世界に戻ったのか……
『轟鬼さん……!
あなたのパンチ、あなたの叫ぶ姿、とてもかっこよかったですよ……!
たとえ日本に帰っても、悪い噂があろうとも、絶対に負けないで下さい……!!!』
ヴェイルノートの言葉が脳裏に焼きついて離れない…
俺は本当に戻ってきちまったのか……?
本当にこれで終わりなのか……?
くそっ……!何がこれで終わりだよ……!
こんな形で戻ってきたってちっとも嬉しくねぇよ……!
俺達は助けられたんだ……!
まだ終われねぇ……!
終わりたくねぇよ……!!
あなたの闇の力はもう消えてしまった。仮に戻ったとして、何の役に立ちますか?ただ何もできず死ぬかもしれない。それでもいいのですか?
だから何だ!!このまま放っておけば死ぬかもしれない、そんな奴らに救われておいて何もしないなんてあり得ねぇ!!
当たり前だ!!!
このまま普通の生活に戻るくらいなら二度と日本に戻れなくていい!!
俺の言葉を聞かなかった事を後悔させてやる…!!!
悔しいからだよ…!!死なせたくねぇから諦めたくねぇんだ!!!
それによ…ヴェイルノート、ゴワス、アストリア、それにローラン、メルトン、オズマ…
あいつらすげぇおもしろい奴らなんだ!!きっといつか、俺の知ってる学校も、海も、ゲーセンも、全部見せてやりてぇ!!
あいつらが好きなんだ!!!
【????】
………大丈夫、私が力を貸しましょう。今再び、不思議な不思議な異世界へ……。
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