１８話 グラリオ・男の誓い！
文字数 6,232文字
前回のあらすじ。
テイル＝プロミーズの国境である、高くそびえる壁の前に着いたルト、ココ、ロキ、アルベルト、グラリオ、サーニャ。
ロキの発言から、
楓と桜を捕らえたのは帝国の幹部の１人スカーレットであること、現実世界でジムに通っていたグラリオに手紙を送っていたのもスカーレットであること、そして帝国の皇帝の姉がスカーレットであることがわかった。
＊＊＊＊
テイル城。
牢屋。
スカーレットは、楓と桜に会っていた。
”あの人”？あぁ、あいつに会ったのね？
どう？暑苦しかったでしょう？ふふ♪
まぁまぁ、落ち着いて？
あなた達をここに連れてきたのはあたしじゃないし。あ、ステーキでも食べる？
まぁ、とにかく大人しくしててよ。
大丈夫、”あたしは”処刑したりしないから。
そうよ？本来、この世界にいる幹部以外の日本人はみんな捕まえて殺すの。そうすると、”アレ”が生まれるからね。
あそうだ、２匹の妖狐とニャルシー、それから王子様…何人かがこの国に向かってるらしいから、期待してみたら？じゃあね～♪
ガチャ バタン
――中庭。
スカーレットが牢屋から中庭に移動すると、大勢の兵士達と赤髪の青年がいた。
気のせいだろうか、中庭一帯は男達の熱気でムワッとしている。
スカーレットが「はぁ…」とため息をつくと、数人の兵士がスカーレットに気付いた。
スカーレットは右手をひらひらと仰いで反応する。
すると、赤髪の青年が力強くジャンプし…
スカーレットの目の前の地面に向かってパンチを繰り出し、叫んだ。
その瞬間、スカーレットと青年の周りに強い衝撃波が発生。
城壁のレンガがいくつも崩れ落ち、窓ガラスはパリパリパリパリガシャン！と次々に割れ、なぜか大勢の兵士達の歓声が巻き起こる。
まさに拍手喝采。赤髪の青年は満面の笑みでマッスルポーズをする。
しかし、スカーレットはキレていた。
【大文字タケル】
ははは！照れなくてもいいじゃないか！！
ほら、男は丸出しって言うだろ？俺の胸の先っちょなんていつも丸出しだぞ！気にするな！！
はいはい。そんなの魔法でも何でも同じだと思うけど、あんたと話してると暑いし疲れるからいいわ。
それよりあんたの探してる男、ヴェイルノートにやられたはずだけど？
大文字の名に恥じないよう、悔いのない人生を送りたいんだ俺は！！！
それよりどういう事だ！？”あいつ”も俺達と同じ幹部だろ！？どうしてそんな事になったんだ！！
知らないわよ。
なんなら、ヴェイルノートにやられたはずなのにどういうわけかここへ向かってるみたいだから、余計分からないわ。マッチョの人ってみんなタフなの？
さすがあいつだ！簡単にくたばるような奴じゃないからな！ジムでのあいつもそうだった！
よっしゃあ！！！
呆れるスカーレット。
すると、すずねがやってきた。
すると大文字タケルは、両手を広げ声を大にして叫んだ。
その場で力強く力を溜めると、大の字になって走り出し、窓ガラスを突き破り大空へ飛び立ってしまった。
ガシャアアアン！
＊＊＊＊
一方、ここはテイル＝プロミーズの国境。
白いレンガでできた壁が国全体を覆っていて、東西南北４つの入り口からしか国に入る事ができない。ルト達は、大勢の兵士で埋め尽くされた南の入り口にいた。
無理そうだね…ここは兵士と戦って進むしかないようだ。
でもグラリオさん、大丈夫かな…！
私はもう将軍に戻る気はないさ。
遠慮なく戦えるぞ！うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！
ココはわらわの後ろにおるのじゃ！桜花で吹っ飛ばしてくれる！
じゃが、国民は大丈夫なのか？
その点は問題ないよ。
ウチの国は帝国関係者が来た時、地下の収容施設に避難できるようになってるんだ。
技師の町「マギアルクラフト」の技師達と同盟を組んでるから、建物を派手に壊しても問題ないよ。またすぐに建て直せるから。
グラリオ、アルベルト、ロキが先頭を走り、城に向かって走るルト達。
大勢の兵士達も武器を構え、走り出す。
グラリオは力を溜め……
目の前に向かって全力パンチを繰り出した。
すると、大きな衝撃波が発生し十数人の兵士が吹き飛んだ。
アルベルトは両手に力を溜め、手の上に闇の塊を召喚。
そのまま手を握り、黒くなった手で兵士達をなぎ倒していく。
ロキは槍を構え、ピョンピョン飛び回りながら槍を振り回し兵士達を一掃する。
兵士達との戦いは順調。
ルト達は兵士達を倒し、大きな広場に着いた。
目の前には大きな堀があり、その向こうにテイル城がそびえる。
よく見ると兵士達はニヤニヤと笑っている。
グラリオは何かに気付き、大きく叫んだ。
その瞬間、力強い声と共にグラリオの真上から大文字タケルが拳を挙げたまま落下。
ルト達はジャンプし、広場から離れることに成功し、
グラリオはすぐに大文字タケルへと強力なパンチを繰り出した。
俺は幹部、大文字タケル！よく来たなお前達！！
こいつは俺の仲間だ！安心しろ、一撃で沈めてやる！！！
タケルは片手でグラリオにパンチを繰り出しながら、もう片手の筋肉を膨張させ、バキバキ！ボキボキ！と音を鳴らしどんどん大きくしていく。
グラリオも負けじとパンチを繰り出し、ルト達に向かって叫ぶ。
その瞬間、タケルは両手の筋肉を膨張。
人間の手よりも遥かに大きく、血管がうねうねと動く両腕を広げ、力を溜めてグラリオにパンチを繰り出した。
グラリオは大の字になって全力でガードする。
しかし、その力は受け止められず、テイル城が半壊。
グラリオもダメージを受けた。
グラリオ、タケル。
圧巻のクロスカウンター。
強い衝撃波が生まれ、ルト達はもちろん兵士達も吹き飛ばされそうになる。
＊＊＊＊
どれほどの時間が経ったのだろう。
気が付けば、民家や武器屋、冒険者ギルドの建物は砕け散り、跡形も無くなってしまった。
テイル城もまた、１階から６階まであったはずが２階までしかない。
大勢の兵士達も瓦礫が当たったのかピクリとも動かず、立ち上がる者はいない。
そして、ルト達は……。
広場には、２人の男が立っていた。
大文字タケルはほぼ無傷。まるでモンスターのような両腕もそのまま。
しかし、グラリオは身体中から血を流している。
なぜそんな事をする？
ほら、この腕を見てくれよ！この力、この熱さ、最高だ！！！
くっ……！
だからオレはお前を仲間と認めたくないんだ！
その腕は何だ！？帝国の力を手に入れたんだろう！？純粋に強くなるためならなぜそんなものに頼った！！自分の力だけでいいだろう！！
あぁ、スキルか？スカーレットから聞いたぞ！
お前のはたしか物を消すスキルだよな？俺にもくれよグラリオ！！血が騒ぐ！！！
（なぜ変わってしまったんだ…！タケルはこういう奴ではなかったはず…！
まさかタケル……ヴェイルノートに操られているのか……！？）
見ろよ、俺達の拳のぶつかり合いでうちの兵士は誰１人立っていない……。さすがだなグラリオ。
だが、まだ足りない。ゲームしないか？
この国は中央にテイル城、南から反時計回りに人間の住むエリア、妖狐の住むエリア、悪魔の住むエリア、アンデットの住むエリア……こういう風に種族に分かれたエリアがある。
そこで、各エリアに１人ずつ、テイル城の橋を架ける鍵を持つ帝国の強豪達がいる。もうわかるよな？
すると、スカーレットが現れた。
あっそういえば、タケルと一緒にジムにいたゴラゴランっていう男の記憶、ないんでしょう？
じゃあじゃあ、こういうのはどう？このゲームをクリアして、テイル城まで来れたら失った記憶を元に戻してあげる。異世界人の２人を助け出すチャンスもあげちゃう。あたし達に勝てたらね？
その代わり……
あたしはね、どの異世界人がこの世界のどこにいるのかわかるの。そしたらタケルを連れてって、簡単にヤっちゃうんだから❤︎
いいわよね？タケル？
その瞬間、グラリオの脳裏は何かを思い出す。
それは、グラリオ、タケル、そして名前の思い出せない誰かの３人で並んで座っていた、いつかの記憶。
気が付けば、グラリオは拳を強く握りしめていた。
そして、変わってしまったタケルを元に戻す事を誓うのだった。
果たして、ルト達はゲームをクリアし、鍵を集めテイル城に潜入できるのか？
大文字タケルを救い、お菓子屋の姉妹楓と桜を救う事ができるのか？
そして、
鬼の三姉妹しずく、すずね、ふぶきは敵として再び現れるのか？
各エリアで待ち受ける新たな敵とは？
まだ見ぬ大文字タケルとスカーレットの実力とは？
大文字タケル、楓、桜とかつてのお菓子屋の生活を取り戻す戦いが今、幕を開ける。
