#28 【亀裂】ジャックの後悔とコータローの裏切り
文字数 5,359文字
前回のあらすじ。
メイを説得するため、最初に部屋を出ていった勇輝。
ピリカは部屋に残ったジャック組、シャルロット組にスピーカーで話しかける。
ウチは幹部の上の組織って言ったでしょ?実はジャック君の知ってる人も同じメンバーだったりするんだよねー♪
ほら、今もジャック君を見てる。
ジャック君のすぐ近くにいる。
なるほど、私達を騙すつもりなのね。ジャック、耳を貸すだけ無駄よ。
ん〜……
そうだね、じゃあ信じてもらうためにもジャック君にしかわからない事、教えてあげるよ!
――一方、勇輝はメイを探している途中井戸に落ちそうになり……。
突然現れた謎の男、九重タイガに助けられる。
しかし。
オレの妹を監禁した犯人!
ゲノン帝国幹部の上の組織のメンバー、
****
アーリー城。
1階。部屋。
ジャック、ミノル、さくらは部屋を出ていき、
シャルロット、コータロー、ビットが部屋に残っていた。
スピーカーは壊れている。
コータローくん落ち着いて!
スピーカーはもう壊れてるよ!!
心配?
心配どころじゃねーよ!!
あいつ、何で"あんな事"言ったんだ!!
あいつのせいでこんなことになったんだぞ!!
……オレはピリカを許せねぇ。
さすがに無いと思うが、もしも、もしもだ。
もし"あの話"がオレ達を混乱させるためのデタラメで、全部嘘っぱちなら…………。
このアーリー城をブッ潰してでも帝国の幹部の上層部とやらを殺す。
ピリカだけじゃねぇ。
本当にオレ達の中に裏切り者がいるならそいつもタダじゃおかねぇ。
皆殺しだ。
……口が悪かったのは謝る。
けどな、仲間を傷つけられて黙っていられる奴なんてこの場にはいないはずだぞ。
そうだろ?ビット。
無理もないか。
この城に侵入できたオレ達の中に裏切り者がいて、そいつに殺されるかもしれない。オレだって正直怖えよ。戦わなくていいなら戦いたくない。
コータローくん、その辺にしてあげてよ。「仲間を疑ったまま進むなんて嫌だ」、それはキミも思ってるだろう?
もうここには用は無いんだし、そろそろ僕達も出発しようよ。
と言っても、このままこの部屋を出て3階まで行くのはちょっとしんどい。
僕の「鍵」で行けばあっという間に…………
問題が2つ出てきたね。
1つは、何かの力で僕の鍵に制限がかかっていて直接操縦室まで行けそうにない。
たぶん、お姫様が僕を必要としてたのは「ギャンブルキー」のように転移するためだったと思うんだけど……。
これじゃあ重要な扉を開けることしかできないなぁ。3階まで行くのも普通に歩いて行くしかなさそうだ。
おいおい、いきなりトラブルかよ〜?しっかりしてくれよな〜?
ごめんごめん。
「ダンジョンと敵地にトラブルはつきもの」ってね。まさか本当になるとは思ってなかったけど……。
僕の大事な鍵、無くしちゃったみたいなんだ。このお城の宝箱と扉を開ける事はできるけど、このお城から出る事ができない。
つまり……。
おい、まさかオレ達……
アーリー城に閉じ込められたってのか!?
……恐らく、無くしたんじゃなくて盗られたのかもしれないね。裏切り者に。
このお城の扉を開けて外に出れたとしても兵士に囲まれてる。逃げてこのお城の中にいても兵士がたくさんいる。
逃げ道はないね。
……戻る道が無いのなら、進むしかないでしょう。コータロー、ビット、行くわよ。
行くって操縦室にか!?
まずジャック達と合流して状況を説明しないと――
問題ないわ。
私達は私達の役目を果たしましょう。
操縦室に行けば…………
すごいね!楽器を演奏して敵を眠らせるなんて、DJってすご……
まさかあなたが裏切り者……!?
やめて……来ないで……!
****
1階。
五知谷学の部屋。
学は誰かに怯えながら冷や汗をかき、両手を上げて焦っていた。
お前が僕の上の組織だなんて知らなかったんだ!
だから頼む!命だけは助けてくれええええええええええ!!
お、お願いだ!何でもする!何でもするから助けてくれ!!な?な!?
"誰か"の足にしがみつき、命乞いをする学。
"誰か"は数枚の写真を見せる。
え……?
この写真に写っているのは我々の仲間……?
全員上層部の人間なのか!?
な、何故だ……?
何故僕はこいつら全員を知っている……!?
!
わ、悪かった!!今のは失言だ言葉に気をつける!!!
……わ、わかった……。
今度こそ侵入者を捕らえる!
いや、殺す!皆殺しだ!!必ず皆殺しにしてやる!!
僕はやってみせるぞ!!!
ははは……はははは……!
はははははははははははは!
****
アーリー城。
1階。廊下。
ジャック、ミノル、さくらは、
ピリカから言われた「ジャックにしかわからない話」によって会話はなく、ひたすら無言で歩いていた。
(どうしましょう……。
あんなお話聞いてしまっては、会話なんてできません……。何とかしないと……。
あっ……。)
ええっとその、私達の姿は誰にも見えていないんですよね……?
そうだよ。ミラージュの効果があるから兵士には気付かれない。
自分から触れたら気付かれるから気をつけてね。
ビクビクと怯えるさくら。
廊下には何人もの兵士が歩き、話し、見張っている。
本当か?この城で何が起きている?
学様にご報告せねば。
さくらちゃん。
周りの人には僕らの声も聞こえていないけれど、あまり強く話しかけると……
侵入者の魔法の仕業か?
各員、直ちに警備を強化しろ!!
さくらさん、鍵を閉めて。一度休憩しよう。
ジャック君、大丈夫かい?
(やっぱり会話ができる状態ではありません……。
どうしてピリカという人は"あのようなお話"を……。)
下を向き、ピリカの言った言葉を思い出すさくら。
ジャックしかわからない事。
それはジャックが出会った少女、いや、ジャックに恋をした少女の話だった。
『ん〜……
そうだね、じゃあ信じてもらうためにもジャック君にしかわからない事、教えてあげるよ!』
『ねぇジャック君。
グラスオーヴィっていう酒場でジャミ子っていう女の子として働いてたんでしょ?』
『それがどうしたってんだ!
ジャミ子の格好ならオレ達も知ってるぞ!』
『現実世界に帰る条件をクリアした異世界人、知ってるよね?
アレ、本当に帰ったと思う?』
『あ〜他の奴らにも教えてあげるよ。
コータロー、パイナップル頭の藤崎ってヤツ、それからミノル、そしてジャック。
この4人は異世界人。
武器も魔法も使えない異世界人には2つの特徴がある。』
『1つはスキル。
手から火を出すとか乗り物に乗るとか、魔法みたいな不思議な力がある。』
『もう1つは「現実世界に帰る条件がある」。
これは1人1人違って、クリアするまでの時間期限はないけど、クリアすれば本当に現実世界へ帰ることができるの。』
『"人を好きになる"っていう条件を知らずにジャック君を好きになって、グラスオーヴィのメイドとジャック君に見送られて消えていった異世界人、たしか「小鳥」っていう名前だったっけ?そうだったよね?』
『あはは!いいねその顔!たまんないよ!
ねぇねぇ、どう?小鳥っていう子についてどう思う?本当に生きてるのかなぁ?もしかしたら~、グラスオーヴィで消えた後~、ウチと同じ"裏切り者"に捕まって~、』
『あはは!"あいつ"と同じ事言ってる!
ねぇ、何?よく聞こえないなぁ〜?』
『……何?お前に用ないんだけど。
今ジャック君と話してるの。邪魔しないでくれる?』
『てめぇ……
黙って聞いてりゃひでーことばっか言いやがって……!容赦しねぇぞクソガキ!!!』
『そんなわけねーよ!
ジャック、耳を貸すな!!こいつが言ってる事は全部嘘だ!どうせ「オレ達の中の誰かがやった」って言うつもりだ!!』
『せいかーい♪
ウチは何にもしてないよ?やったのはジャック君とグラスオーヴィで出会った"あの人"……』
その瞬間、コータローは部屋にあった椅子を持ち上げ天井のスピーカーへと投げる。
しかし。
『ジャック!?
おい何でだよ!こいつが言ってるのは全部デタラメなんだ!信じるなよ!?』
『さぁ?ウチ何もしてないし。
この中にいる裏切り者に聞けばいいんじゃない?』
『ちょっと待って。
あなたさっき「ジャック君とグラスオーヴィで出会った"あの人"」って言ったはずよ。
私はウエノでジャックと会った。
さくらも同じよ。』
『オレも相棒も違うぞ!ウエノの冒険者ギルドで会ったんだ!』
『アレは
「ジャック君とグラスオーヴィで出会った"あの人"……かもしれないし、今ここにいる誰かかもしれないし、帝国の幹部の手下かもしれないね」って言うはずだったの。
人の話最後まで聞かないとダメだよ〜?
お・バ・カ・さん♪』
『でも~、その子の事は裏切り者次第なんだよね〜♪
その子が今どこにいるか、
生きてるか死んでるか、
どんな状況か、返してもらえるのか、
全部裏切り者だけが決めるの♪』
『あはは!残念でした!
あははははは!あはははははははははははははは!』
その瞬間、ついに怒りが達したコータローが我慢できず再び椅子をスピーカーに投げる。
そして、見事にスピーカーに命中。
スピーカーは壊れ、何の音も聞こえなくなってしまった。
『ジャック!大丈夫だ!!
オレ達がなんとかしてやる!!
あいつの言った事なんて忘れて――』
『……ここからはオレ1人で行く。
小鳥ちゃんは必ず助け出す。みんなはここにいていい。』
『みなさん!
後で必ず会いましょう!!
もみじちゃんの救出とジャックさんの事は任せて下さい!!』
ボクだって仲間だもん。
グラスオーヴィで一緒に笑って過ごした仲間だもん。
本当に帰っていないなら、帝国に捕まっているなら、ボク達で助け出そう?
私も協力します!
小鳥さん、という方はジャックさんのお友達なんでしょう?でしたら、私にとってもお友達です!一緒に行きましょう!
でもオレ、スピーカーが壊れて手掛かりが聞けなくなったのに焦って彼を殴って……!心配してくれてるのわかってたのに……!オレ、最低だ……!!
そんなことありませんよ、ジャックさん。
あなたが焦っているのはわかっています。だからこそ力になりたいんです。
コータローさんもきっとわかってくれていますよ。
泣かないで、大丈夫。ね?
ジャック君、間違っても小鳥ちゃんの事を自分のせいになんてしちゃダメだよ。小鳥ちゃんはそんな事望んでない。必ず助けて、ぎゅって抱きしめてあげよう?
ジャック君も小鳥ちゃんの事好きだったんでしょう?
ふふん♪
スピーカーは壊されちゃったけど、カメラで見てるしあっちの声は聞こえてるんだよねー♪
それにしても"あの子"、
本当はウチの仲間でジャック君は敵なのに、よく"あんな嘘"つけるねぇ♪
さすが小鳥ちゃんを捕まえた張本人。
こわいこわーい♪
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