17話 絶望
文字数 3,181文字
黒い炎を全身に纏う轟鬼。
周りには轟鬼の炎の柱が天井を焦がし、1階への大きな穴以外に逃げ場はない。
その瞬間、轟鬼は無言でソーマを攻撃。
炎の光線がソーマの頬ギリギリを通過した。
その間わずか1秒。
ソーマは拳を握りながら思い出す。
それは、数年前のこと。
雪の降る日。
――現在。
咆哮を上げ、笑う轟鬼。
ソーマはさらに拳を握る。
………そんなことないさ。さっきは「めちゃくちゃにした」と言ったがそれはオレがあんたを知らなかったからだ。
オレの知らなかったあんたの姿が、この球に写ってる。本当のあんたはこんな風に思ってたんだな。
翔の言う通り、オレ達は一切攻撃しない。
その瞬間、今度はソーマの顔に向かって炎の光線が発射。
ソーマはギリギリで回避した。
轟鬼は大きな瓦礫を拳で吹き飛ばす。
黒い炎を纏った瓦礫は容赦なくソーマ達を襲う。
3人は大きな瓦礫を間一髪のところで避ける。
轟鬼に向かって叫びながらソーマを心配する翔。
ソーマはうつ伏せになり、虚ろな目で床に転がる赤い球を眺めていた。
赤い球には轟鬼が写っている。
はは、いよいよ不良だ…これじゃ面接なんて受かるわけねぇよな……大体俺が帰って何になる?どこに行っても避けられるだけだ…俺には帰る場所なんてないんだよ……』
いつの間にか、ソーマの目には涙が溢れていた。
血まみれのまま立ち上がるソーマ。
琥珀は倒れているが怪我はない。瓦礫はソーマだけに当たったようだ。
ソーマは上を見上げる。
立ち昇る炎の柱、1つの方向に飛んでゆく瓦礫や炎、そして……
翔の悲鳴と轟音。その衝撃。
ソーマは足を引きずりながら轟鬼のいる方へ歩く。
やがて、目の前に轟鬼が立ち塞がった。
轟鬼は変わらず、拳を構えて笑っている。
両手を広げ、笑顔になるソーマ。
しかし、轟鬼の拳がソーマの腹部にぶち当たる。
その時、ソーマは轟鬼の腕を掴み、スキルを発動。
3秒間時を止め、持っていた赤い球を轟鬼の額にコツンと当てた。
頭を抱え、苦しそうにもがく轟鬼。
ソーマは力尽き、手を前に出したまま倒れてしまった。
眩い光に包まれる迎賓の間。
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どれくらいの時間が経ったのだろう。
コツコツと足音が聞こえる。