9話 悲しみの誓い
文字数 3,661文字
僕は勉強が好きだ。
父さんのような弁護士になるのが夢だ。
僕は勉強が好きだ。
父さんも母さんも笑ってくれる。
僕は勉強が好きだ。
僕は知ってる。夜、父さんが母さんをぶったり蹴ったりしてること。
僕がテストで良い点を取ると父さんは何もしないこと。
僕が母さんを守るんだ。
僕は…………
――
ローラン、メルトン、オズマ、ソーマは唖然としていた。
それは一瞬の出来事。
ハヤトの体を黒い槍が貫いた。
皇帝は手に持った槍を床に立て、ハヤトの体を見つめる。
ソーマは急に叫びだし、ブラッドネメシスを構え皇帝に振りかぶる。
しかし、見えない壁に弾かれた。
”DV”と言ってね、父親が母親に、暴力を振るっていたんだ。
しかしハヤト君は気付く。自分がテストで良い点を取れば、不思議と父親は穏やかなまま。
”大好きな母親を守るには勉強するしかない”。彼は実にがんばった。必死に母親を守ろうと努力した。
彼の父親も、守ろうとした母親も、勉強した事も、笑った時間も、泣いた時間も、全てが無駄!
この世界でやった事も無駄だ!
何も変わらない、無駄な存在!それが相原隼人!バカな――
皇帝は、槍にハヤトが串刺しになったまま、どこかに消えてしまった。
ハヤトの死によって、全員の心は深い傷を負った。
――
1階。ローランの仲間の研究員達がいる部屋。
突如ひび割れたカプセルの中から、謎の少女が出てきた。
少女は何も言わず、体の周りを浮く何かを部屋の至るところに飛ばしている。
兵士をじっと見つめるミミックの少女。
ミミックの周りを浮く何かが、ゆっくりと兵士を囲む。
――地下2階。
ローラン達は、慌てて走る兵士達とすれ違いながら警報鳴り響く廊下を走っていた。
全員は全力で走り、閉まりかけたシャッターをくぐり、先へ先へと進んでいった。
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……まただ。ただ唖然と見ているだけ。
止めることも助けることもできない。
アタシはまた……
1階。いくつかのカプセルが割れ、研究所の中を通るパイプが壊され、部屋のいたるところに落ちていた。
ローラン達のすぐ目の前には、うつ伏せに倒れている白衣を着た人間と体が真っ二つに斬れている兵士がいた。
ローランはゆっくりと前に歩きだす。
見覚えのある白衣を見て、自分の人違いを望みながら倒れている人を仰向けにするローラン。
しかし、そうでない事がわかると優しく手を握る。
その時、ソーマは気付いてしまった。
ローランは倒れている研究員の下半身を見ようとしていない。
研究員もまた、兵士と同じように体が切断され、下半身が無くなっていたのだ。
ソーマを揺さぶるローランに、ソーマは目をつぶり、首を横に振った。
しかし、ローランは諦めようとしない。
ソーマは、いや、ソーマも、限界だった。
メルトンは、ローランの元へ行くと、ローランの頰を優しく撫で、ぎゅっと抱きしめた。
メルトンの炎は優しく燃え、それでもしっかりとローランを包み込んだ。
ソーマ、オズマ、メルトン、そしてローランは、研究所からの脱出ではなくハヤト、研究員の命を奪った帝国と戦うことを決心するのだった。