第三十四話、挟み撃ち
文字数 2,015文字
ドルフは、北のレマルクの軍を無視して、西のリボルの陣に兵を進めた。ドワーフたちは緩やかな隊列を組み、西のリボルの軍に迫った。
リボルの軍は補強した石垣から、ドワーフの軍に向けて矢を放った。ドワーフは斧を顔の前に掲げ矢を防ぎながら近づく。身につけている鎧はばらばらで、隙間が多く、矢は少し、ドワーフの体に突き刺さっていた。
歩兵の指揮を執るスタミンが言った。石垣越しに上から槍で突いていく。ドワーフは槍を斧で払う。ハンマーをもったドワーフの兵が石垣に近づいてくる。槍を兜で受け流しながら、石垣にハンマーを打ち付ける。石垣が削れていく。
ドワーフの背後から馬蹄の音が響く。北にいたレマルクの騎馬隊がドワーフの軍の背後に近づいてきていた。
ドルフは命じた。
ムコソルは五百ほど兵を連れ、レマルクの騎馬隊の前に立ちはだかった。
三百の騎馬隊とぶつかる。
レマルクはドワーフの兵の間を少し駆け、左に抜けた。
斧を振り回すためか、ドワーフの兵は密集しておらず、中を割りやすかった。ドワーフの強さも、フエネ平原にいたドワーフより一段落ちているように感じた。
レマルクは、歩兵を千人ほど前に進めた。三分の二以上新兵と退役兵がしめている。その中にサロベル湖の漁師であるプレドがいた。
歩兵の指揮をしている男が言った。
プレドは槍を手に震えながら前に進んだ。異常なほどの熱気があった。それでも震えは止まらなかった。少し離れたところにドワーフの軍がいる。騎馬隊の攻撃を受けて、ばらついている。これはチャンスなのではないだろうかと、プレドは思ったが、歩兵のあゆみはずいぶん遅かった。
じりじりと近づいていく。喚声が上がり前に進む力が強くなった。前の方いる兵が我慢できず走り出した。
止まらない。全体が動き出す。音がする。金属、叫び、水の音、プレドに近づいてくる。
出したことのないような声がプレドの喉から出た。後ろから押されるように前に出る。死体を踏みつける。たすけて、というような声を聞いたような気がする。前にいる人間の数が減った。ドワーフがいる。斧を持ったドワーフがいる。
止まらない。前にいた人間が、横に倒れる。腹を斧でさかれている。ドワーフがしっかりプレドを見ている。次は俺。プレドは声を上げた。突いた。ドワーフは槍を兜で受けた。軽い音を出し槍はそれた。ドワーフが目の前に、斧を振りかぶり、プレドの腹に肩がぶつかるぐらいの距離にいる。プレドは体をひねった。叫び声が漏れる。
転がる。地面。頭に軽い衝撃を受けた。兜が飛んだ。ドワーフの斧がプレドの兜をはね飛ばした。ドワーフは斧を振りかぶった。地面に転がるプレドは両手を前に、目をつむる。
何も起きない。
目を開ける。ドワーフの喉に槍が刺さっていた。
ゴプリがいた。プレドと少し話をした老兵。ドワーフの喉に槍を刺したのだ。
ゴプリは刺さった槍を抜いた。ドワーフが倒れた。
プレドは礼を言おうとしたが、言葉がまるで出てこなかった。
ゴプリは槍を片手に、ひょええええ、と奇妙なかけ声をだしながら、よたよたとドワーフに向かった。槍先を地面すれすれに構え、斧を持つドワーフの腕と腕の間をすり抜けるように槍を突き上げる。ドワーフのひげ、あごの下辺りに槍が刺さる。少し押し込み回す、引き抜くとドワーフは血を吐き散らし倒れた。
ドワーフがゴプリ目がけ突っ込んできた。ゴプリは石突きでドワーフの膝頭を突き転ばせ、首の後ろを槍で突いた。長斧を振り回し向かってくるドワーフがいた。ゴプリは槍先で軽くあわせながら、大ぶりになったところ、ドワーフの右側に倒れ込むようにしながら脇の下を突いた。持ち上げるように深く突くと心臓に達したのか動かなくなった。ゴプリは瞬く間に三人のドワーフを倒した。
プレドは唖然とした。
歩兵とレマルクの騎馬隊によってムコソルの兵は数を減らしていた。
ドルフはムコソルの軍を攻撃する歩兵に対応するようベリジに指示を出した。
ベリジは三百ほど引き連れ、ムコソルの部隊を攻める歩兵に向かった。人間側は歩兵を二つに分けベリジの部隊に対応した。ベリジは先頭に立ち、長めの戦鎚を振り回した。ぶつかると人間側の歩兵は大きく崩れた。
歩兵の指揮官が命じた。逃げるように大きく下がる。
追い打ちをしようとベリジは前に出るが、ドワーフの足の遅さのせいで追いつけない。人間側の被害は少なかった。
ベリジの部隊に対して、レマルクは騎馬隊を絡ませ足を止めさせた。その間、人間の歩兵は体勢を立て直した。