第八十二話、牧場跡、ドワーフ
文字数 2,120文字
リボル率いるバリイ領軍二千は国軍率いるペックスの指揮下に入った。プロフェンはリボルの下へ合流し、騎馬隊を任され、百騎ほどに増えた。東にいたモディオルの兵も合流し六千ほどになった。
モディオルが言った。
ペックスとモディオルは、馬上からドワーフが立てこもっている牧場跡を見ていた。
牧場跡の石垣を崩し、守りを固めていた。
国境のある争いではない。火種を消すか取り除かない限り終わらない、ある種の内乱のような状態である。
バリイ領の兵から見ると、ギリム山周辺の森を燃やした国軍は嫌われても仕方が無い。
何度も考えたが、やはりそれしか思いつかなかった。
モディオルは牧場跡を見た。岩を積み、守りを固めている。
平坦な牧草地、千人程度では守りにくく、六千の兵にとっては動きやすい。
その日は兵を休ませた。
次の日の朝、ペックスは、北側から兵を進ませた。バリイ領軍は遅れて西側から兵を進めた。
一キロほど離れたところに、矢盾をたて、拠点を作った。ドワーフ側に動きはない。
牧場跡の中には、溝や防壁の跡があった。ドワーフはそれらを壊し埋めていた。深い溝や中途半端に高い防壁は、背が低く、手足の短いドワーフにとっては都合が悪かった。
リボルが立てこもっていたときより、二回りほど小さくなっていた。石と土で低いが分厚い壁を作り、周りに少し浅い溝を掘っていた。
ペックスは弓矢隊を前に出し、矢を放った。矢は放物線を描き、ドワーフの陣に降り注いだ。
ドワーフは気にした様子もなく、矢がドワーフの鎧兜にはね返される音が響いた。
普通は少し慌てるものだ。指揮官が声を荒げ、兵に指示を出し、時には落ち着かせる。陣地に矢が飛んでくるという状況はそういうものだ。
モディオルが自分の兜を叩いた。軽い音がした。
六千の人間の兵の中で、まともな鎧兜を着ている兵は、千人も満たない。
モディオルがいやそうな顔をした。
ペックスは歩兵を進めた。国軍を二つに分け、ドワーフから見て、北と東から進軍させた。バリイ領の兵は、西側から進軍させた。北西東、三方から攻めた。
人間の兵が近づくと、ドワーフの陣から、クロスボウの矢が飛んできた。盾で防ぐ。矢を防ぐための大きな木の盾を先頭集団に持たせている。ドワーフは、滑車を使わねば引けないような弦を二本の指で易々と引いた。放たれる。木の盾に突き刺さる。盾の隙間をぬい、人に当たると深くめりこんだ。
壁の所々に穴が空いており、その穴から槍が飛び出してきた。人間の兵は盾で槍を防いだ。ドワーフの兵は壁の上から、クロスボウで人間を狙う。人間は盾を上にも重ね、矢を防ぐ。ドワーフは武器を斧槍に持ち替え、上から盾を叩きつける。盾が割れる。割れたところを、矢で狙う。
盾を持った兵の間をぬい、槍を持った人間の兵が前に出る。槍の刃先にもう一つ、下向きの刃がついている。鎌槍である。それを壁の上にいるドワーフに打ち付ける。何度かすると鎌槍の鎌の部分が、ドワーフの鎧に引っかかる。引く。力比べになる。一人の力ではドワーフには勝てないが、四、五人でそれをやる。ドワーフは力が強いが、背が低い分踏ん張りがきかない。防壁の上から引きずり落とす。
壁の下に落ちたドワーフを、鎌槍で叩く。それを助けようと降りてきたドワーフも叩く。
血が流れる。