第八十二話、牧場跡、ドワーフ

文字数 2,120文字

 リボル率いるバリイ領軍二千は国軍率いるペックスの指揮下に入った。プロフェンはリボルの下へ合流し、騎馬隊を任され、百騎ほどに増えた。東にいたモディオルの兵も合流し六千ほどになった。

 


「千百ぐらいですか。相手が人間であれば、どうとでもなる数字ですが、ドワーフとなると、話が変わってきますね」


 モディオルが言った。

 ペックスとモディオルは、馬上からドワーフが立てこもっている牧場跡を見ていた。


「ああ、正直頭が痛いよ。奴らからしたら、守りを固めて、二万の援軍を待てばいいわけだからな」


 牧場跡の石垣を崩し、守りを固めていた。


「実際のところ二万も来ないでしょうが、ドワーフなら、二、三千来ただけで、戦況がひっくり返ってしまうでしょうね」


「どこまでやれば勝ちなのか、それもわからん」


「二、三割減らせば、普通は降伏してきますが、ドワーフは違うようですね」


「フエネ平原に立てこもっていた奴らは、三分の二以上減らしても降伏しなかった。あげくの果てに、残った兵を逃がして、指揮官が残って死んだ。攻める側としてはやっかいこの上ない」


「消耗するだけで、終わりが見えないですね」


 国境のある争いではない。火種を消すか取り除かない限り終わらない、ある種の内乱のような状態である。


「援軍を来られないようにして、囲んじまえば、和平に応じると思っていたんだがね」


「ドワーフですからね。その辺は何か違うのでしょう」


「終わったことを考えても仕方ないか」


「そうですね。バリイ領の兵はどうですか。うまくやっていけそうですか」


「指揮官は、何とか話が通じそうな男であったが、兵はな、国軍はどうにも評判が悪い」


「森を燃やしましたからね」


 バリイ領の兵から見ると、ギリム山周辺の森を燃やした国軍は嫌われても仕方が無い。


「私はそれしか思いつかなかった」


 何度も考えたが、やはりそれしか思いつかなかった。


「何とか協力し合うしかないでしょう。もはやバリイ領だけの戦ではありませんから」


「そうだな、ここまでやっておいて、負けましたってわけにはいかない」


「それで、どうやって勝ちますか」


 モディオルは牧場跡を見た。岩を積み、守りを固めている。


「必ずしも、攻めにくい場所じゃない。力攻めで潰すしかないだろう」


 平坦な牧草地、千人程度では守りにくく、六千の兵にとっては動きやすい。


「相当犠牲が出ますね」


「援軍が来る前に片を付けないと、後は政治的な動きに期待しよう」 


 その日は兵を休ませた。








 次の日の朝、ペックスは、北側から兵を進ませた。バリイ領軍は遅れて西側から兵を進めた。

 一キロほど離れたところに、矢盾をたて、拠点を作った。ドワーフ側に動きはない。

 牧場跡の中には、溝や防壁の跡があった。ドワーフはそれらを壊し埋めていた。深い溝や中途半端に高い防壁は、背が低く、手足の短いドワーフにとっては都合が悪かった。

 リボルが立てこもっていたときより、二回りほど小さくなっていた。石と土で低いが分厚い壁を作り、周りに少し浅い溝を掘っていた。

 ペックスは弓矢隊を前に出し、矢を放った。矢は放物線を描き、ドワーフの陣に降り注いだ。

 ドワーフは気にした様子もなく、矢がドワーフの鎧兜にはね返される音が響いた。


「動揺した様子もないな」


 普通は少し慌てるものだ。指揮官が声を荒げ、兵に指示を出し、時には落ち着かせる。陣地に矢が飛んでくるという状況はそういうものだ。


「鎧兜に自信があるんでしょう」


 モディオルが自分の兜を叩いた。軽い音がした。


「ミスリルではないとは言え、ほとんどの兵が鋼の鎧兜を着ているからな」


 六千の人間の兵の中で、まともな鎧兜を着ている兵は、千人も満たない。


「あれと戦わなくちゃならないんですね」


 モディオルがいやそうな顔をした。


「バリイ領の連中はよくやったよ」



 ペックスは歩兵を進めた。国軍を二つに分け、ドワーフから見て、北と東から進軍させた。バリイ領の兵は、西側から進軍させた。北西東、三方から攻めた。

 人間の兵が近づくと、ドワーフの陣から、クロスボウの矢が飛んできた。盾で防ぐ。矢を防ぐための大きな木の盾を先頭集団に持たせている。ドワーフは、滑車を使わねば引けないような弦を二本の指で易々と引いた。放たれる。木の盾に突き刺さる。盾の隙間をぬい、人に当たると深くめりこんだ。

 壁の所々に穴が空いており、その穴から槍が飛び出してきた。人間の兵は盾で槍を防いだ。ドワーフの兵は壁の上から、クロスボウで人間を狙う。人間は盾を上にも重ね、矢を防ぐ。ドワーフは武器を斧槍に持ち替え、上から盾を叩きつける。盾が割れる。割れたところを、矢で狙う。

 盾を持った兵の間をぬい、槍を持った人間の兵が前に出る。槍の刃先にもう一つ、下向きの刃がついている。鎌槍である。それを壁の上にいるドワーフに打ち付ける。何度かすると鎌槍の鎌の部分が、ドワーフの鎧に引っかかる。引く。力比べになる。一人の力ではドワーフには勝てないが、四、五人でそれをやる。ドワーフは力が強いが、背が低い分踏ん張りがきかない。防壁の上から引きずり落とす。

 壁の下に落ちたドワーフを、鎌槍で叩く。それを助けようと降りてきたドワーフも叩く。

 血が流れる。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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