第七十七話、雷

文字数 1,622文字

 プロフェンは騎馬隊五十を率い先行していた。夜、雨が降っているため視界はきわめて悪い。あまり速度は出せなかった。ドワーフを見たという場所に近づいていた。

 雷がなった。

 雷の光のおかげで、何か見えた。

 速度を落とした。

 細々としたものが散乱している。荷のようだ。

 一カ所に荷を積み上げている。その後で何かが動いた。

「散会しろ!」


 プロフェンは命じた。

 矢がかすめた。

 一騎、乗り手が吹き飛んだ。石の塊が当たった。


「待ち伏せか」


 矢の射程距離外に兵を集める。

 箱やら板やらを集め、バリケードにしているようだ。人数はわからないがドワーフの姿が見えた。


「回りを警戒しろ!」


 プロフェンは辺りを見渡した。雨と暗闇で視界は悪く、音もあまり聞き取れなかった。

 バリケードの先を見る。雨と暗闇でなにも見えない。

 おそらくしんがりだ。

 兵を一部残して、残りの兵は、北へ移動してドワーフの援軍と合流する気だろう。

 しんがりの兵を、迂回して追いかけたいところだが、極端に視界が悪い。一方のドワーフは夜目が利く。伏兵でもいれば、こちらが全滅しかねない。

 どうする。

 ドワーフの足だ。仮に伏兵があったとして、突破することは難しくない。逃げているドワーフにまとわりついて後続の歩兵が来るまで足止めに専念すれば、勝機はある。

 手綱を握った。

 西の空が光った。雷鳴。草地の中、横に広がるようにドワーフ達がこちらに近づいてきている様子が一瞬見えた。


「向かってくるのか」


 罠を疑った。

 プロフェンはさらに距離を取り、辺りを警戒しながら、歩兵の到着を待った。

 ベネドが率いる歩兵隊が到着し、バリケードまで進んだが、ドワーフはいなかった。周辺を捜索したが、ドワーフはどこにもおらず、北へ続く、濡れた足跡だけが残されていた。








 朝日が昇るころになると、雨はやんでいた。東の空には太陽と、燃え続ける森があった。


「無事に逃げのびたようだな」


 ダレムが言った。

 北の方角へ向かっていた松明が、帰って行った。逃げたドワーフの捜索をあきらめたのだろう。

 砦には身動きの取れない、けが人と、ドロワーフが残っていた。


「なぜ残ったのだ」


 ドロワーフは、ハンマーを抱え、石壁を背に座っていた。


「なんとなくな」


「命令を聞かん奴だ」


「今に始まったことじゃないだろ」


「わかっているとは思うが、降伏はせんぞ」


「ああ」


 少しうれしそうな表情を浮かべた。

 日差しに雨が蒸発し、もやが出ていた。








「雨がやんでしまったな」


 ドルフは東の空を見ながら言った。


「ええ、残念なことに」


 森は、まだ燃えていた。


「今朝、鳩がきた。フエネ平原の兵が、ハイゼイツの軍と合流した」


 通信用の鳩小屋を付近にあらかじめ、隠していくつか作ってある。


「はい」


「ダレムとドロワーフは砦に残ったそうだ」


「怪我をして動けなくなった兵を、置いていけなかったのでしょう」


「かといって、降伏すれば士気に関わる」
「そうですな」

「できの悪い息子で、昔っから放浪癖があった」


「陛下も似たようなもんでしたよ」


「ふん、違いない。ソロンや他の連中とずいぶん好き勝手やっていた」


「私は、その頃から陛下の尻ぬぐいをさせられていました」


「そんなこともあったような気がするな」


「ええ」


「最後は、帰ってきてくれた」


「ええ、陛下のために、帰ってきてくれました」


「優しい子だ」
「ええ」

「人の、心配ばかりしてられんな」


「こちらはこちらで大変です」


 牧場跡の北、十キロほど先に、国軍三千五百が陣を敷いていた。その左には、リボル率いるバリイ軍がいた。


「どうしたものか」


 牧場跡を改造し防備を固めているが、やはり守りにくい。

「すぐには攻めてこないでしょう」


「降伏の使者を送ってくるかな」


「おそらく」


「さっさと、参ったと言いたいね」


 そうすれば、ダレムとドロワーフを救えるかもしれない。

「それができれば苦労はしません」


「やるしかないのか」


「やるしかないですね」


「だよな」


 ドルフはため息をついた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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