第二十三話、膠着

文字数 2,301文字

(どうなってんだろうなぁ。戦いは)


 サロベル湖の漁師であるプレドは、人手が足りなくなったサロベルの町の守備兵になっていた。兜と槍を渡され、時々調練を受け、町の入り口に立たされていた。

 兵隊になることは母親に反対されたが、漁師では生きていけないことを説明して納得してもらった。父親を病で亡くし、十三の頃から漁に出ていた。年々湖の魚は減っている。いくらがんばったところで、それどころか、がんばればがんばるほど、魚はとれなくなる。まだ小さな妹がいる。このまま漁師を続けていても、生活が成り立たなくなることは目に見えていた。ろくな教育を受けていないプレドには選択できる仕事などさほど無かった。

 フエナ平原のドワーフとの戦いは、勝っているとも負けているとも、はっきりしない情報しか入ってこなかった。








「押せ押せ!」


 重装歩兵隊を指揮するザレクスが指示を出した。

 重装歩兵隊とドワーフの兵は柵のそばで押し合っていた。重装歩兵隊に対抗し、ドワーフの兵も盾を持っていた。体がすっぽり入る木製の盾だ。武器も斧ではなく、長めの槍に変えている。

 重装歩兵隊は盾で押し合いながら、槍を差し込んでいく。力ではドワーフに負けているものの、上背と練度に差があるため、少し押し込んでいた。

 時々ドロワーフが一暴れし、重装歩兵の隊列に穴を開け、そこから押し返えしてくる。

 騎馬隊は盾を持ったドワーフの横っ腹を攻撃しようとしたが、長槍を突き出され近づけない。ザレクスは、騎馬隊に対応している盾持ちのドワーフ目がけ、副隊長のベネドが率いる軽装歩兵隊を突入させた。


「いくぞ!」


 副隊長のベネドが兵を突撃させる。鎌槍を持っている。ドワーフの持つ盾を鎌槍で引っかけ、引きはがすようにしながら、斬り込んでいく。

 ドワーフの陣から、騎馬隊と軽装歩兵目がけ矢が飛んでくる。ドワーフはクロスボウを使っている。通常は滑車やレバーを使い弦を引くのだが、ドワーフは腕の力だけで易々と引いた。数は少ないものの高威力の矢が連続で打ち出される。騎馬隊や軽装歩兵隊が倒れていく。


「ちっ、距離を取るぞ」


 プロフェンは騎馬隊を下げた。

 ザレクスも軽装歩兵隊を下がらせた。軽装歩兵隊をかばうように重装歩兵隊を横に出す。手薄になった部分をドワーフの盾持ち部隊がしゃにむに攻め込む。ザレクスは全体を下がらせる。ドワーフの盾持ち部隊は一定の距離前に出るとぴたりと止まった。

 一度距離を取った騎馬隊は、ドワーフを攻めるそぶりをしながらも、柵を壊そうと縄を投げ柵を引き抜こうとしたが、頑丈に作られているため、引き抜けなかった。油をまき火をつけたがこれもすぐに消し止められた。

 傭兵や民兵を中心とした歩兵に何度かドワーフの陣を攻めさせたが、士気も練度も低く、すぐにあきらめて帰ってきた。

 両軍疲弊しながら数を減らしつつあった。








「芳しくないな」


 リボルは言った。少しやせ、目がくぼんでいる。テントの中、副司令官のレマルク、プロフェン、重装歩兵隊の隊長ザレクスと副隊長のベネドがいた。テーブルの上には地図があった。


「こうも守られると、さすがに手が出ませんな」


 副司令官のレマルクが言った。


「まるで死んだカメだ。いくらつついても出てこない」


「盾持ちがやっかいですな。重装歩兵隊のまねをしているのでしょうか。ザレクス殿、奴らの動きどう見ますか」


「手強いです。ただでさえ固いドワーフが盾を持っています。密集隊形での押し合いなら、こちらに、まだ分がありますが、時々でてくる赤毛のドワーフがやっかいです。ドロワーフとかいう傭兵らしいですが、あいつが出てくると、盾が何枚か割られます。隊列を崩され、そこから押し返してきて一定以上押し返すと元の位置に戻ります。柵から引きはがそうと、何度か誘ってみましたが、必ず止まりますね」


「最初に突出したことに相当懲りたと言うことか」


「ただ、槍を持っているドワーフはさほど恐くはありません。精度も悪く、体重も乗っていません。腕の力だけで突いているのでしょう」


「なるほど、斧と違って不得手なようだな」


「しかし、槍を持たれると騎馬隊は近づけません。逆に斧なら容易なのですが」


 プロフェンは悔しそうな顔をした。プロフェンは元は牧童だった。馬を使って羊を柵の中に誘導しているところを見たネボルが騎馬隊に誘った。プロフェンにとって亡くなったネボルは師のような存在であった。

「矢もいいタイミングでうってきますね。盾をはがそうとしているところでうたれると、兵の動きが止まります」


 副隊長のベネドが言った。


「敵の盾持ちを避けて柵にあたれないのか」


「重装歩兵隊の足では難しいです。何度かドワーフの兵を迂回しようとしましたが先回りされてしまいました」


「そうか」


「柵に近づいて見てみましたが、あの柵はよくできていますな、要所要所を石の壁にしており、壊れても、そこを支点にすぐ補修できるようにしているようです」

「エルリムから持ってきた石か。さすがに石壁なんて今の装備では壊せんな」


 ドワーフは、エルリムからもってきた石を使い、壁にしていた。


「木材をそれほど備蓄しているとは思えません。壊し続ければいずれは尽きるでしょう」


「傭兵と民兵の士気が低いな。全く役にたたん」


 何度か柵を攻めさせたが、腰が引けていた。その辺のところをドワーフにも見切られている。


「仕方ありません。寄せ集めと食い詰めです。略奪の機会もありませんし士気は上がらないでしょう。いないよりましと思うしかありませんな」


「あまり時間はかけられんぞ。ドワーフの援軍が来るかもしれん」


 ギリム山のドワーフの動きと今後の戦略を話し解散した。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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