第三十五話、バナックの失敗

文字数 1,274文字

 ドワーフはハンマーで石垣を崩そうとしていた。元オオカミよけの石垣は、人にとってはさほど高くなく、ドワーフにとっては乗り越えにくい高さであった。人間は石垣の上から、槍を上に持ち上げ、ドワーフを突き、殴打する。ドワーフはそれに耐え、石垣を崩そうとする。


「叩け! 突け! 奴らを内側に入れるな!」


 スタミンは槍でドワーフを突きながら言った。スタミンは身長二メートルはある大男である。怪力のドワーフといえど、その突きに、まともに当たれば吹き飛んだ。


「おら!」


 槍を手に馬に乗ったバナックが、傭兵団の騎馬隊をつれ、ドワーフ軍の北側から、突撃を繰り返していた。数としては百騎程度、装備も馬の大きさもばらつきがあった。


「バナック、深追いしすぎるな!」


 リボルは声を上げた。リボルも騎馬隊を出していたが、目的はドワーフの軍の牽制である。攻めるそぶりを見せ勢いをそぐつもりであった。バナックは少し突っ込みすぎていた。

 聞こえていないのか、バナックは無茶な突撃を繰り返していた。リボルは伝令をだし、騎馬隊を下げるよう命じた。


「小うるさい蠅がいるな、オラノフ、かたづけてくれないか」


 ドルフは言った。


「はっ」


 命じられたドワーフは薙刀を手に兵を百人ほど引き連れバナックの騎馬隊へ向かった。

 オラノフは人間の軍で指揮官としてつとめていたことがある。世代が変わった国王と折り合いが悪くなりやめた。何人かドワーフの兵がオラノフについてきたため、オラノフの部隊は動きに統一感があった。

 オラノフはドワーフの緩やかな隊列の中、兵を紛れ込ませるように進み、突撃してきたバナックの騎馬隊の前に立ち、薙刀で馬の足を切り落とした。オラノフの兵が一斉に騎馬隊に襲いかかる。


「くそ!」


 バナックの騎馬隊の動きが止まる。ドワーフに取り囲まれる。脱出しようと、兵をまとめ、外に出ようとする。


「間抜けめ!」


 スタミンは兵を連れ、石垣を乗り越え、バナック達がいる方角へ走った。バナックの騎馬隊はドワーフに囲まれ馬を斬られ数を減らしていた。


「どけい!」


 スタミンは槍を振るった。ドワーフの兜を叩き突き倒しながら、前に進む。

 バナックはスタミンに気づき、スタミンが向かってきている方角へ兵を引き連れ移動した。バナックの馬はすでに斬り殺されており他の兵も同じような状態だった。

 リボルは騎馬隊に命じて、バナックの騎馬隊救出に向かわせた。何度か突撃を繰り返し、ドワーフを散らし逃げ道を作る。

 バナックは這々の体でスタミンに合流し、騎馬隊が作った逃げ道を通り抜け、石垣の中に退却した。バナックの騎馬隊は半数以上討ち取られ、馬は三分の一しか生き残らなかった。救出に向かったスタミンの兵も、二十人ほど討ち取られた。


「あ、ありがとうございます。助かりました」


「間抜けめ。功を焦りおって、己がやったことをよく見てみろ」


 バナックは仲間の傭兵の様子を見た。傷を負った自分の仲間がいた。助けにいったスタミンの歩兵も傷を負っていた。当然ながら、帰ってこなかった者もいる。


「すまない」


 バナックはこぶしを握りしめうなだれた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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