第十二話、エルリム陥落
文字数 2,513文字
人間側の兵は土嚢が積み上げられている場所まで下がった。大盾部隊がドワーフの兵を押している間に、周辺の建物と建物の間に土嚢を積み上げていた。
北と東と西、三本の道があり、その先には人間の兵と土嚢があった。途中の家屋には補強を施し、中に入りにくいようにしている。屋内には兵を忍ばせてた。
ドワーフの兵は北と東と西どちらかに前進しても挟み撃ちに遭うことになる。
三方からクロスボウの矢がドワーフの兵めがけ飛んだ。長弓とは違い直線の威力は強い。その分装填に時間がかかるが人数でカバーした。
ドワーフは頭を下げ武器を顔の前に矢をふさぐ。ミスリルの鎧とはいえ三方から矢が飛んでくると、さすがに鎧の隙間に入り込む。倒れるドワーフの兵も出てきた。建物の上からも矢を放っている。ドワーフは人間が持っていた大盾を使い身を守った。
背後から喊声が上がった。
人間の兵百人ほどが、町の別の門から出撃し、南の壁に集まるドワーフの背後を取ろうとした。傭兵団である。装備もばらばらで、士気も信用性も低いため、ドワーフに対する牽制として使った。ドワーフの兵五十がそれに対応すると、傭兵団は逃げて距離を取った。声を上げ時々攻めるそぶりを見せた。
ダリムが斧槍部隊を率い東の道を進んだ。何もしなければ、四方から攻撃を受けることになる。東に行けば東の石壁を攻めているドワーフの兵もいる。そう考え、ダリムは行動した。残りの兵は壁の近くにとどまった。
狭い路地を走った。二、三人しか横に並べない。先頭を走るダリムは斧槍を振り回し矢をたたき落とした。土嚢の高さはドワーフの身長より高かった。背の低いドワーフにとっては乗り越えるのは少し難しい高さだった。ダリムが土嚢に近づくと人間の兵は武器を槍に持ち替えた。乗り越えようとした瞬間、槍で突き刺さそうとしていることは容易に想像できた。
ダリムは一歩手前で立ち止まり、斧槍を振り上げ振り下ろした。切れた。麻袋に土を入れ積み上げた土嚢の壁を、一閃、地面近くまで切った。麻袋から土がこぼれる。手首を返し、跳ね上げる。麻袋と中の土が飛ぶ。積み上げられた土嚢をはぎ取るように斧槍を振りまわす。じょじょに土嚢が削られ低くなっていく。
「突け突け突け!」
指揮官が命じた。
人間の兵が身を乗り出しダリムめがけ槍で突いた。兜と鎧ではじき、斧槍で突き上げる。土嚢を吹き飛ばし、斧槍は人間の兵の胸元に突き刺さった。
「ひっ」
悲鳴が上がった。
少しひるんだところを、ダリムは低くなった土嚢に斧槍を突き刺すように斜めに立てかけ、その上を器用に移動し、土嚢の上にあがった。槍が数本ダリムを突いた。こぶしを固め籠手でたたき落とす、左腕の内側を槍で突かれ、少し顔をしかめた。飛び降り、落ちている人間の槍を拾う。手当たり次第に突く。喉を突いた。顔を突いた。槍はすぐ折れた。別の槍を取る。後に続くドワーフの兵がダリムの斧槍の上を移動し、土嚢を乗り越えてくる。
後続のドワーフは、土嚢に立てかけてあった斧槍をダリムに返し、積み上げてある土嚢をどかし通りやすくした。
ダリムが斧槍を振るう。突き、たたき込んだ。狭い路地であるためなかなか前に進まない。
何人かのドワーフが、石壁に設置されていた木の台をのぼり、石壁伝いに攻撃しようと試みた。人間側は何カ所かの台をつぶし、石壁に兵を配置し、それを防いだ。
南の石壁付近にいるドワーフに対しては、西からは矢を放ち、北側からは兵を前進させ押しつぶそうと試みた。
フロスが指示を出した。
人間側の士気は高い。町を守るという使命感が強くあった。
北側からくる兵の圧力が増す。南の壁のドワーフは徐々に押しつぶされ、左右に広がっていく。西からは矢が打ち込まれている。背後から傭兵団が、矢を射かけ、挑発している。
人が飛んでいた。
回転しながら屋根の上に落ちた。
奇妙なうなり声がした。また飛んだ。
兵が、フロスに報告しに来た。
ドロワーフは人間の兵めがけハンマーを振るっていた。
町の中央にある五階建ての役場から、町の様子が一望できた。
町長のクレカプレは五階の町長室から外を眺めながら言った。役場は臨時の病院になっており、負傷者が続々と運ばれてきていた。役場には様々な報告が上がってきている。南の壁が破られたものの善戦しているという報告を受けたばかりだった。東の通りをドワーフたちが進軍しているのが見える。先頭に立つドワーフが奇妙な叫び声を上げながら、ハンマーで人間をはね飛ばし、あるいは叩きつぶしている。土嚢が積み上げられていれば、それをハンマーで横殴りに崩した。まっすぐに、町の中央にある役場に向かっている。
クレカプレは町民の避難計画を握りしめた。
司令官のフロスは矢継ぎ早に指示を出した。
町に入り込んだ二百のドワーフが、暴れ回っていた。ドロワーフに扉を破られた直後、指揮を執っていた司令官がハンマーで潰された。責任感が強い男だったため、自ら槍を持ってドロワーフを止めようとした。それが致命的だった。指揮が乱れ、大盾部隊の配置が間に合わず、数による押さえ込みが間に合わなかった。もしそこで時間が稼げれば、門に援軍を出し、町の外にいる傭兵隊を、東に回し、背後をおそわせ力をそぐことができた。
町の至る所で戦闘が行われていた。乱戦になると、個々の戦いにおいて力の差がある人間には不利だった。
南の壁にいるドワーフ達はドロワーフが中に入ったことを聞き攻勢に転じた。斧を振り回し、前に進んでくる。
ダリム率いる斧槍部隊も、東の門から入ってきたドワーフと合流し暴れ回っていた。
戦況が著しく傾いてきていることをフロスは感じ取っていた。
フロスは町に残っている住民の避難を命じた。