第三十話、妥協戦

文字数 2,057文字

 ソロン一行は、ドルフの陣に二日ほど滞在した。

 帰り際、親書の返信を渡された。


「これは、私が領主に渡さなきゃならないと言うことなのだな」


 ソロンは顔をしかめた。


「ああ、頼んだぞ」


「いい加減元の生活に戻りたいものだ」


「あきらめろ。おまえは肩までどっぷりつかっている」


「どちらかの味方をする気は無いぞ。私はエルフだからな」


「ああ、それでいい。それだからこそ、おまえさんに見届けて欲しいんだ」


 ドルフは笑った。








 道中、三人は馬に乗り、領主の元へ進んだ。


「ドルフ王の目的は何なんでしょうか」


 ヘセントが言った。滞在中、ヘセントは何度かドルフと話をしていた。ドルフはいやそうな顔をしながらも、応対していた。


「さあな」


 ソロンはそう言いながらも、およその見当はついていた。おそらく、アリゾム山をねらっているのだろう。昔、ドワーフの鉱夫に、アリゾム山にミスリルの鉱脈があると聞いたことがある。ギリム山のドワーフが戦をしてまで手に入れたいものと言えば、鉱山しかない。ソロンはそう考えていたが言わなかった。人の味方でもないのだ。


「アリゾム山じゃないですかね」


 シャベルトが言った。


「なぜ、そう思う」


 ソロンは少し驚いた。


「ミスリルですよ。アリゾム山のミスリル目的じゃないですか」


「アリゾム山に、聞いたことがないですが」


「なぜ、アリゾム山にミスリルが埋まっていると思うのだ」


 ソロンは問うた。


「水ですよ。あの辺りは水がいいんです。シロカニやセンベイトカゲなんてのも住んでますからね。水がきれいなんですよ。ミスリルには強力な浄化作用があります。昔から水のきれいなところにはミスリルが取れるって言うでしょ」


「なるほど、よい答えだ」


 ヘセントは笑みを浮かべた。


「では、ドワーフの軍は、このまま南西に、アリゾム山を攻めると言うことですか。失われるギリム山の代わりにしようと、フエネ平原の兵は陽動ということでしょうか」


「さぁな、それはおぬしら人間が考えることだ」


「急ぎましょう」


 ヘセントは馬の腹を蹴った。








 フエネ平原。


「なぜ、奴らを攻めないのですか」


 プロフェンは幕舎でザレクスに言った。


「この人数ではどうしようもない」


 ザレクスは言った。重装歩兵隊の大隊長であるザレクスは、フエネ平原に残るドワーフ討伐の指揮を任されている。


「しかし、奴ら、こうしている間にも、陣地の強化を行っています」


 ドワーフの兵は、地面を掘り土嚢を木の柵の内側に積み上げ、囲いの守りを強固にしていた。


「わかっている。だが、あの柵を壊し、ドワーフを倒せるだけの兵力は無い」


「いなければ集めればいい。民兵でも傭兵でも集めればいいのです」


「ただの民兵に手に負える相手ではない。数に頼って攻撃すれば犠牲が増えるだけだ」


「このままでは、奴らの思うつぼでは、ギリム山には、まだまだドワーフがいます。奴らと合流すれば手がつけられません」


「その場合は、我々はオラム砦に引き、そこで対応するしかない」


「そんなことになれば、リボル様が挟み撃ちになるではないですか」


 リボルの軍は、南にいるドワーフの軍へ向かって南下している。


「そうなるな」


「では、そうなる前になんとしても奴らを倒さなければ」


「わかってはいるが、どうしようもない。リボル様からも無理に攻めるなと命令を受けている」


「しかし、このままでは」


「もし、ギリム山の援軍が来るなら、もっと早く来ているでしょう。二千のドワーフの兵が南に移動しています。フエネ平原のドワーフは陽動の可能性が高い。リボル様はそう考えたのではないですか」


 副隊長のベネトが言った。


「しかし」


 プロフェンはしばらくごね幕舎から出て行った。








「やれやれ、元気なのはいいことだが」


「我々にぶつけられても困りますね」


「だが、プロフェン殿の言っていることは正しい。このまま攻めなければ、先はないぞ」


「ええ、わかってますよ。ですが、無理なもんは無理なんですよ」


「援軍はどうだ」


「領主様にお願いしましたが、これ以上は難しいようです。リボル様がかなり厳しく兵を集めたようで、まともな兵力は残っていません」


「数をそろえたところで、あのドワーフに通用するとは思えん。ある程度の練度と装備がなければ民の数が減るだけだ」


「戦争ですからね、ある程度は仕方ないとしても、この戦争には、人間側にメリットがなさ過ぎます」


「勝ったところで、得るものは無いからな。今いるドワーフの兵を一掃したとしても、ギリム山のドワーフは丸々残っている」


「どこで妥協するか、そういう戦争になっているのかもしれませんね」


 ベネトはため息をついた。







 領主のイグリットは金策に走っていた。


「リボルめ、金を使いすぎだ」


 武具、兵糧、兵、すべて金がかかる。蓄えていた金はあっという間に底をついた。


「イグリット様、商人を一人連れてきました」


「おお、そうか。すぐに行く」


 イグリットは、応接室に向かった。

 五十代前後の白髪の男がいた。最近少し羽振りがいい商人とイグリットは聞いている。


「カネス商会のルモントです」


 男は名乗った。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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