第八十七話、撤退

文字数 1,282文字

 アリゾム山山頂は未だ落ちていなかった。狭い一本道はカプタルが一人で死体を積み上げ、堀のある斜面は四十人ほどのドワーフが交代で守っていた。その斜面で、ダナトリルの兵はじりじりと近づきながら、矢を放っていた。

 攻めあぐねているダナトリルの軍の背後の山林にドワーフがあらわれたという報告があった。


「これでは挟み撃ちではないか」


 ダナトリルは不満げな顔をした。


「前方のドワーフは五十人もいません。背後の斜面に兵を配置しております。十分対応可能です」


 背後の斜面に五百ほどの兵を配置している。


「ふむ、そうか」


「アリゾム山山岳部隊の司令官ファバリン様がいらっしゃいました」

 兵が報告した。


「ファバリン? 確か怪我で動けなかったはずでは」


「左胸を刺されたとか聞いているぞ」


「いかがなさいますか」


「怪我を押してきたとなると、さすがに追い返すわけにもいかないだろう。それに情報も欲しい」


 ダナトリルはファバリンを営舎に通した。胸元に包帯が見え、顔色は悪く、息苦しそうであった。


「すぐに、撤退してください。ドワーフが二百、下の山林に迫ってきています。私の部隊が押さえていますが、長くは持ちません。奴らが来る前に撤退してください」


 ファバリンはかすれた声で話した。エンペドに命じて、煙玉や弓を使いドワーフを足止めしている。


「心配せずとも、斜面に兵を配置している。砦跡の兵を蹴散らし、この人数で守りを固めれば問題ない」


「ドワーフを甘く見すぎています。足を止めて正面からぶつかれば、止められません。現に、あなたがたは砦跡のドワーフすら倒せていない」


「それは、奴らにとって守りやすい地形であるからだろう。どちらにしろ時間の問題だ」


「その時間が無いのです。奴らが山林を抜ければ、止めるすべはなくなります。下から上に崖に追いやられるように押しつぶされます。その前に撤退してください」


「上を取っているのだ。逆にドワーフどもを押しつぶしてやれば良い」


 ダナトリルは二人のやり取りを困ったような顔をしてみていた。


「大変です!」

 兵が飛び込んできた


「どうした」


「食糧が燃えています」


「なに! どういうことだ!」


「ド、ドワーフがそんなところまで来たのか」


 ダナトリルは青ざめた。


「いえ、それが、火を付けたのはアリゾム山山岳部隊です」


「なんだと!」


「どういうことだ!」


 モーバブはファバリンに詰め寄った。


「奴らに食糧を取られてしまうと困りますから、燃やしました」


 ファバリンは悪びれた様子もなく答えた。


「裏切ったのか」

「ご冗談を、あなた方の命を救いたいだけですよ」


 笑った。


「ふざけるな! 兵糧を燃やすことがなぜ私たちの命を救うことになる」


「兵糧がなければ戦えないでしょう」


「それが、目的か」


 モーバブはファバリンをにらみつけた。


「確かに、これでは戦えぬ。食糧を燃やされたのではな」


「しかし」


「ペックス様からの伝令が来ました」

 別の兵があらわれ言った。


「おそらく、撤退の指示でしょう。速やかに撤退の準備を」


「山賊が!」


 モーバブは言った。

 ファバリンは肩をすくめた。

 ダナトリルは兵を山のふもとまで下げた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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