第三十二話、アリゾム山の頭
文字数 2,360文字
ソロンはバリイ領領主であるイグリットにドルフ王からの返書を手渡した。領主の執務室である。
イグリットはソロンから返書を受け取り、封を開けその場で見た。
イグリットは返書を部下に渡した。
ソロンはヘセントに目を向けた。
ヘセントは、ドルフ王との会談の様子、噴火の話、ドワーフの兵の様子などを述べ、ドワーフの目的が、アリゾム山ではないかという、シャベルトの推察を述べた。
昔は山賊が多かったという知識ぐらいしか無かった。
シャベルトは言った。
昔、フエネ平原北部に森林地帯があった。暖を取るための薪や炭の材料として切りとられ、北風を遮っていた森林地帯は無くなった。肥沃な大地は、風にはぎ取られやせ細ってしまった。所々に湿地帯があり、夏は地面がひび割れるように乾燥し、冬になれば一面の枯れ野原、遮るものが無い北の風が吹き荒れる。屈強なドワーフといえど住みやすい環境とは言えない。それに比べれば、山に住むドワーフが別の山に移り住む、自然な発想のように思えた。
ソロンは問うた。
イグリットは口を濁した。
イグリットは、ソロンとシャベルトに改めて礼を言い、謝礼金を渡した。シャベルトはうれしそうに受け取り、ソロンは黙って受け取った。今後ともドワーフとの使者として間に立って欲しいと、ソロンに頼んだ。ソロンは渋々とだが引き受けた。ソロンとシャベルトは領主の館の一室にしばらく泊まることになった。
人がいなくなった部屋でイグリットは地図を見つめていた。手元には強めの酒があった。
それですむなら、という気持ちがあった。そう思わせることがドワーフの狙いだろうということもわかっていた。精強なドワーフの兵、領地全体が危ないのではと思わせておいて、アリゾム山という、人間にとってはあまり重要ではない土地を奪う。こちらとしてはそれですむならと言う気持ちが湧いてしまうのは仕方が無いことだ。
奪われてからなら、それですんだのかもしれない。それですんだとあきらめがつくかもしれない。だが、まだ奪われていないのだ。しかも、ミスリルの鉱脈があるかもしれないという。奪われていないものを、すんなりと。
アリゾム山山岳部隊司令官のファバリンが言った。アリゾム山の砦の司令室で、主立った者が集まっていた。
ざわついた。
デノタスが言った。
副司令官のエンペドが言った。
エンペドが言った。
ファバリンは眉をひそめた。
エンペドは横目でファバリンを見た。
山岳部隊は百五十人程度しかいない。