第四十二話、災害対策

文字数 1,478文字

「やはり食糧が足りなくなるのは目に見えているな」


 ソロン達は領主の館の一室を借り、ギリム山噴火の被害とその対策をさぐっていた。


「冬に噴火してもですか、それならそれほど影響は出ないのではないですか」


 ヘセントは言った。


「ギリム山周辺には農地が多い。火山が噴火したところで、農作業など恐くてできないだろ。火山灰の被害も深刻だ。量にも寄るが火山灰が何十センチも積もると、土壌に深刻な被害が出ると言う話もある」


 数年間まともに作物が育たないという話もある。ソロンは暗い顔をした。


「長期間噴火すると、バリイ領だけではなく、この付近一帯に影響が出るかもしれませんね」


「ああ、その通りだ。噴火している間は、火山灰が長期間空を覆うことになる。そうなると、日が当たらなくなり気温も下がる。植物の生育は著しく悪くなる。そうなってくると、この辺り一帯の農地が不作となり、食料の輸入も難しくなってくる」


「厳しいですね」


 ヘセントは顔をゆがめた。ヘセントは騎士ではあるが貧しい家の出だ。食うものが無い、きつさをよく知っている。


「夏場に噴火などされたら目も当てられませんね。次の冬越せませんよ」


 シャベルトは言った。


「噴火の、直接的な被害も馬鹿にできん」


「空に吹き出した炎の煙が山から下りてくることもあるそうですね。十キロ程度被害があるとか」


「忌々しいが村と町を焼き払ったドルフの判断は正しい」


「エルバ村とエルリムですか」


「そうだ。あの辺り一帯はどうやったって、噴火の被害を受ける。小さな村なら何とでもなるが、エルリムぐらいの町になると、いつ起こるかわからない噴火のために避難するというのは難しい。今のうちに住人を強制的に退去させ、帰る場所を無くし、避難場所を用意するのは正しい判断だ」


「しかし多数の兵が死にました。避難するなら、もっと別の方法があったはずです」


 ヘセントは言った。


「かもしれんな、いや、そうなのだろう。すまん。配慮のない言葉になってしまった」


 ソロンは頭を下げた。


「いえ、わかっていただければいいのです」


 ヘセントは少し戸惑った。エルフという種族は、気位が高いと聞いていた。素直に謝るとは思っていなかった。


「しかしまぁ、もうすぐ噴火するかもしれないから町を捨てろと言われても、なかなか難しかったのかもしれませんね」


 シャベルトは言った。


「言ってしまっていたら、アリゾム山を狙うことも難しくなるだろうしな。どちらにしろ身勝手な行動だ」


「まぁ、起こっちゃったことはどうしようもないですよ」


 シャベルトは肩をすくめた。


「そうだな、せめていつ噴火するかでもわかればいいのだがな」


「自然現象ですからね。難しいんじゃないですか。でも、どうしてドワーフはギリム山が噴火するとわかったのでしょう」


「山の中、鉱山にすんでいるからなのでは、何かしらの前兆が感じられたのではないでしょうか」


「なるほど、なるほど、確かにそうだ。それはいい考えかもしれん」


 ソロンは頷いた。


「なにがです」


「いつ噴火するか、どの程度の規模なのか。それがわからない限り対策のたてようがない」


「そりゃまぁ、そうです」


 それがわからないから困っているんだ。シャベルトはそう思った。


「なら、ドワーフに聞いてみればいい。何か知っているだろう」


「まさか、行く気ですか」



「ああ、わからんことは観察しないとな。生き物と一緒だ」


「どっちです。まさかギリム山?」


「ああ、ドルフに聞いてもいいが、専門家ではないだろう。現場に行けば何かわかるかもしれん」


「マジですか」


 ヘセントは情けない声を出した。


「マジだ」


 ソロンは立ち上がった。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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