第十五話、アリゾム山
文字数 1,068文字
聞いていたのとは違うではないか。ドレント家の三男であるズッケルは二日酔いで痛む頭と執拗な吐きげを感じながらも、アリゾム山の木々が生い茂る斜面を歩いていた。アリゾム山はエルリムから離れた南西にある山である。
ズッケルと同じ新入隊員のブータルトが言った。
ズッケルもそう聞いていた。確かに緩かった。新入隊員入隊祝いだと称し、隊員全員で朝の三時まで飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ、ずいぶん楽しい部隊に配属されたと、寮に帰って眠っていたら、朝五時にたたき起こされ、訓練だと言われた。
二日酔いと寝不足でへろへろな状態で、重さ二十キロの背嚢を背負い、山の道なき道を、延々と歩かされた。話が違うと言いたくなっても仕方がない。
先輩の隊員がズッケルと同じく脂汗をかきながら言った。
隊長のデノタスは振り返って言った。
一番酒を飲んでいたはずだ。
先輩隊員は吐いた。
トレビプト国、王都トレビム、国王の直轄地は、王都トレビムとその周辺、あとは、飛び地がいくつかあった。各領主からの税があるものの、自由に使える金では無い。主たる産業も無く、海にも接していないため、経済的にはあまり恵まれていなかった。ただ、さすがに人の数は多かった。
トレビム郊外に塀の高い屋敷があった。
漁師のプレドは、知り合いを見つけ声をかけた。プレドは字が読めなかった。
「ああ、バリイの領主様が兵を募集しているんだよ。ドワーフが攻めてきたとかで、戦争になっているそうだ」
その話なら、プレドも聞いたことがあった。ギリム山のドワーフが町を燃やしたとか。
プレドは思案下につぶやいた。