第六話、開戦
文字数 1,033文字
エルバ村の近くのギリム山に住む、ドワーフのために、毎年祭りが開催されていた。毎年多くのドワーフがエールを求め集まり、村を潤わせた。ところがである。いつもは祭りの一週間前にもなれば、そわそわとした様子で麓に降りてくる山のドワーフが一人も降りてこなかった。
エールの蒸留も終わり、祭りが開催されても、ドワーフたちは村に降りてこなかった。来たとしても、観光客か傭兵のドワーフだけだった。山に何かあったのかと、エルバ村のもの達は心配した。
農作物の収穫も一通り終えた頃、鎧に身を固めたギリム山に住むドワーフの一団が、バリイの領主に面会を求めた。ドワーフの使者はその場で宣戦布告を行った。領主は事情を聞いたが、ドワーフたちは王命であるとそれ以上のことは何も答えなかった。
翌週、鎧に身を固め戦斧や長柄武器を持ったドワーフの軍勢が現れ、麓のエルバ村を焼いた。
「なぜだ。なぜこんなことをする」
村人は逃げながら、火を放つドワーフをなじった。ドワーフは何も言わなかった。
村から避難した人々の多くは、その近くのエルリムへ逃げた。
バリイの領主は、五百の兵を出した。指揮官は丘の上に陣取った。ドワーフの兵は三百ほど、丘の下に集まった。五十人ほどのドワーフが丘の斜面を登ってきたため、人間側は、百人の兵を出した。ドワーフの軍五十とぶつかったがあえなく敗退した。何度か小競り合いを繰り返し、人間側は戦線を少し下げ、開けた川沿いまで下がった。
そこで柵を作り、守りを固めた。川をまたいだ場所に現れたドワーフに対して、指揮官は矢で応戦した。ドワーフの軍は両刃の斧を顔の前にかざし、川をゆっくりと渡ってきた。矢は斧にはじかれるか、ドワーフのミスリル合金の鎧にはじかれた。
しばらく川を進んでいたドワーフは足を止めた。川が存外深いことに気づいた。水量も多い、このまま前に進めば背の低いドワーフは川の水に流されかねないことに気づいた。ドワーフはゆっくりと後退した。
人間の兵は歓声を上げた。
ドワーフたちはしばらく、川沿いを歩き、渡れそうな浅瀬を探した。いくつか橋はあったが、すでに人間側は先回りし焼き落としていた。かなり迂回しなければ川を渡るのは難しそうだった。ドワーフの兵は姿を消した。しばらくすると森の中から音が聞こえた。斧で木を切る音がした。
人間の兵達は顔を見合わせた。
しばらくすると、森の中から木と蔓で筏を作ったドワーフの兵達が現れた。
対岸にいたはずの人間の兵はすでにいなかった。