第二話、一年前、秋

文字数 1,296文字

 一年ほどさかのぼり秋、潮風が吹いていた。

「少し穀物の値が上がっているな」


 カネス商会の商会長であるルモントは、港町フネイルの、商人組合会報誌を読みながらつぶやいた。

「ええ、今年の収穫はそれほど悪くはないはずなんですか、少し上がってますね」


 秘書のメリヤが言った。

 カネス商会は主に穀物を商っているが、頼まれれば、武器でも何でも仕入れた。馬車一台から始め、二十年かけ港町フネイルに店を出した。とはいえ。


「今月も厳しいな」


 ルモントは眉をしかめた。店の賃貸料や人件費、店を大きくしようと、少し手を広げすぎた。空き馬車が何台かあった。

「ええ、このまま上がり続けると、仕入れ費がかさんで、三ヶ月後には倒産です」


「そんなにまずいのか」


「はい、そうです」


「困ったな、なんで上がってるんだ。盗賊でも出たのかな」


 街道に盗賊が出れば、輸送のコストが上がり、穀物の値が上がる。


「そういう話は聞いていませんが」


「だよな、盗賊が出れば、もうちょっとわかりやすく数字に出る。金は少し下がっているな」


「鉄鋼やミスリルなどは逆に少し上がってますね」


「誰かが、ちょっとずつ買い占めてるってことは無いかな。手持ちの金を売って、穀物を買い占めているとか」


「なんのためです」


「うちを、つぶすため、とか」 


「うちを潰すのに、そんな手間いりませんよ。指で押せば根こそぎ倒れますよ。ちょんです」


「そうか、そうだよな。ちょっと、調べてくれないか」


「なにをですか」


「穀物を誰が買い占めているか。聞き慣れない商会とか、最近羽振りのいい奴とか、不自然なカネの流れ、流通がどこかで止まっているとか」


「わかりました。それとなく探ってみます」


「うん、頼んだよ」


「なにがあると、思います」


「もうけ話かな」





 一ヶ月経った。

 穀物の値段はやはり少しずつ上がり、金が下がっていた。メリアの調べによると複数の商会が、値段を気にせず穀物を買っていた。鉄鋼ミスリルなどは値が上がっていた。武具は、まだ値段は上がっていないが、在庫が減り始めていた。特に高級品であるドワーフ製の武具が手薄だった。


「会長、ワイシヒル商会から手紙が届いています。例の商会です」


 秘書のメリアが封書を手渡した。ワイシヒル商会は穀物を買っていた商会の一つである。面識は無い。


「来たか」


 ルモントは封書を開け、中の便せんを読んだ。

「ちょっと、出かけてくる。店の方は任せた」


 ルモントはコートと帽子を取った。


「あの」


「うん?」


「私も行きましょうか」


 メリアは心配そうな顔をした。


「いや、大丈夫だよ」


 ルモントは寒そうに店の外に出た。





 手紙に書いてあった場所に行くと、馬車がいた。人っ子一人いない野原である。

 ルモントが馬車に乗り込むと、ドアが閉められ、外から鍵がかけられた。

 光がほとんど入らない馬車の中で、メリアを連れてくればよかったと、ルモントは思った。ああ見えて、メリアはかなり強い。熊族の獣人で、ルモントの財布を狙った三人の強盗を、素手で、のしたことがある。

 一時間ほど揺られ、馬車は止まった。

 外に出ると、一軒の家があった。

 中に入ると、背の低い小太りの男がいた。

 ドワーフだった。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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