第七十三話、アリゾム山の攻防三
文字数 2,047文字
スプデイルは盾兵で足止めしたドワーフの左右に槍隊を進めた。
ノードマンは指示を出した。
ヘレクスは兵を何人か連れ、右の槍兵に対応した。
ノードマンは左の槍兵に向かい、残った兵は正面の盾兵に対応した。矢がドワーフの背を射っている。ヘレクスが多少背後を気にしている。
二百五十対八十、正面に盾兵、左右に槍、背後に弓矢を放つ山岳兵およそ七十、ドワーフは全面を囲まれいる。
ノードマンは槍隊に近づき斧を振るう。槍が跳ね上げられ折れるものもある。そのまま体を丸めて前に出る。横殴りに斧を振る。人間の兵の腕が飛ぶ。他のドワーフも兜を前に近づいていく。
急ぐことはない。つつき殴られゆっくりと、ドワーフは近づいてくる。人間は後ずさる。圧倒的に優位なはずなのだ。完璧に囲んでいる。ドワーフは気にしない。囲まれているなら、斧を振り回しやすいじゃないか。そう、考える生き物なのである。
まずは様子見だ。とゴプリは小声で言った。
ゴプリとプレドはドワーフから見て左の槍隊にいた。
ゴプリは何人かのドワーフを指さした。その中にはノードマンも入っている。
プレドは槍を構え、少し右に移動する。音。血しぶきが飛んでいる。贓物が飛んでいる。恐怖が膨らんでくる。足が止まる。後ろを見る。背後に師がいる。槍を握りしめる。前に出る。味方がまばらに、視界が徐々に広がっていく。
ドワーフが見える。
斧。
師の言葉。
突く。
防具の隙間、引っかかるように、少しだけ刺さった。
押す。体をそらすように押し込む。足は進まない。
槍の刃先が、するりとドワーフの骨を削り肉の中へ入り込む。抜ける。ドワーフの太い腕を槍の刃先が抜けた。
プレドは槍を抜こうとする。
動かない。ドワーフが槍を握っていた。
前に引っ張られる。
プレドは前に倒れ込む。
目の前にいるドワーフが斧を振りかぶっている。
ゴプリが横にいた。
ゴプリの槍がドワーフの喉を深く突き刺していた。
ドワーフの斧が力なく落ちた。
オラノフ達は東に進んでいた。かすかにだが戦闘の音が聞こえる。
ゴキシンは不安げな表情をした。
オラノフは言った。
人間の兵二百五十を見つけたと聞いている。
罠を避けるため、足場の悪い道を選んでいた。
オラノフは、額の汗をぬぐいながら、なぎなたを杖代わりにゆっくり下った。
オラノフは問うた。
ゴキシンは長年アリゾム山で間者として働いてきた。五十年という歳月、ここアリゾム山で人と共に過ごしてきた。人間を敵と割り切れていないことを自覚していた。
やろうと、思えばできたかもしれない。ゴキシンがドワーフを裏切り、アリゾム山にミスリル鉱山があると、人間側に伝えていたら、人間はアリゾム山の守りを固め、戦は起こらなかったかもしれない。だが、やらなかったのだ。
「いえ、悪いのはドワーフです。こたびの戦、ドワーフに正義はありません。ですが、戦争は善悪で起こるものではありません。備えがなければ起こりやすくなり、備えがあれば起こりぬくくなります。人間側に備えがあれば、ドワーフは別の道を選んだかもしれません」
少し笑った。
歩みを早めた。