第六十五話、牧場跡、敗走

文字数 2,064文字

 三キロほど離れた北西の丘に逃げることにした。しんがりは置かなかった。追い打ちを避けるため兵を置いていく場合があるが、相手は足の遅いドワーフである。追いつかれる心配は無い。問題は、ドワーフが雇った騎馬隊である。騎馬隊に頭を押さえられると、足が止まりドワーフに追いつかれる。

 

「騎馬隊出るぞ! バナックついてこい」


 ドワーフが雇った傭兵、マヨネゲルが率いる騎馬隊の攻撃を騎馬隊で引き受けるつもりだった。

 リボルが率いる騎馬隊が出た後、五十騎ほどのバナックの騎馬隊が、牧場跡から飛び出て、そのまま西の方角へと走った。


「おい! どこへいく!」


 リボルは声を上げた。


「すいません。命あっての物種なんで!」


 バナックは大声で返した。

 失礼しやす! と、西に駆けていった。








「別方向へ行く騎馬隊がいますね」


 マヨネゲルの部下が言った。


「おそらく傭兵だろう。負けを見越して、いち早く逃げたのだろうな」


「どうします」


「放っておけ、こちらは、その分たっぷり稼がせて貰おう」


 手柄を上げれば、さらにミスリルの武具を提供するとドワーフは約束してくれた。このままドワーフと共に戦い、兵の数を増やし、ミスリルの武具を身につければ、一国一城の主とは行かなくとも、領地の一つや二つ、手に入れることができるかもしれない。貴族の三男坊として、傭兵稼業に身を落とし、くすぶり続けていたマヨネゲルは、そう思い始めていた。


「来るぞ」


 マヨネゲル率いる騎馬隊が北側に回り込もうとしていた。リボルはそれを阻止するため騎馬隊を率い北に向かった。マヨネゲルの騎馬隊とすれ違った。リボルの騎馬隊は槍で突いたがミスリルの鎧にはじかれた。距離を取った。リボルの兵が何人かやられた。


「騎兵は極力相手にするな、歩兵の足止めに専念しろ!」


 マヨネゲルはリボルの騎馬隊に背を向け、北西に逃げる歩兵に向かった。

 逃げる歩兵の先に回り込み、なでるように剣を振るった。切り飛ばされ歩兵の足が止まる。

 ミスリルの武器はおもしろいようによく切れた。力の強いドワーフなら、鋼だろうとミスリルだろうと大差は無いだろうが、ドワーフに比べ非力な人間にとっては、この切れ味と軽さは魅力的であった。

 逃げていく歩兵はいくつかの部隊に別れて移動した。

 騎馬隊に的を絞らせないように分散させたのだ。

 マヨネゲルは一番足の遅い集団を狙った。

 スタミンが率いていた歩兵隊は、けが人が多く、遅れていた。マヨネゲルの騎馬隊がまとわりつくと、さらに足が遅くなった。すれ違うだけでも、足が止まった。背後にドワーフが迫ってきている。

 リボルの騎馬隊がスタミンの歩兵を守るように動いた。

 マヨネゲルはリボルの相手をせず、歩兵だけを狙った。どこか一カ所を止めれば波のように動きが滞った。

 スタミンが率いている歩兵隊が、槍を手に、マヨネゲルの騎兵に向かった。


「逆切れか?」


 マヨネゲルは、スタミンの意図がわからず、歩兵から少し距離を取ろうとした。

 後ろを振り向くと、逃げていたはずの歩兵が戻ってきていた。戻ってきていたと言うより、向かってきていた。マヨネゲルの方に一斉に向かってきていた。


「なに」


 いつの間にか囲まれていた。

 逃げていたはずの歩兵が輪を縮めるように槍をこちらに向けている。


「最初から、騎馬隊を狙っていたのか」


 マヨネゲルは驚いた。ドワーフにやられ敗走すると見せかけ、いや、現に敗走していたのだろう。そのついでに、やっかいな騎馬隊を討つ、そう考えたのか。


「くそ」


 ドワーフと合流、いや難しい。突っ切れる兵力ではない。待っていてはやられる。何とか逃げる場所をと、辺りを見渡す。一カ所、南西に兵が少ない箇所があった。

 マヨネゲルは馬首をそちらに向けようとした。

 馬群が見えた。南西、歩兵が左右に開き、五十騎ほどの騎馬隊が乱入してきた。

 西へ逃げたはずのバナックの騎馬隊である。


「くそ! 奴らまで」


 逃げた振りをして戻ってきたのだ。

 マヨネゲルは、バナックの騎馬隊に向かった。潰して突っ切ろうと考えた。

 バナックの騎馬隊もマヨネゲルの騎馬隊に向かっている。バナックの騎馬隊の方が速度がある。

 ぶつかる。

 バナックの騎馬隊は馬ごとぶつかるように騎手に飛びついた。何人かは成功する。白兵戦に持ち込む。


「りゃああああ!」


 バナックもマヨネゲルに飛びつく。二人はもつれ馬から落ちた。転がる。

 マヨネゲルはこぶしを固めバナックを殴りつける。バナックの頬に当たり、横に倒れる。


「ふざけやがって」


 ミスリルの剣を構える。

 バナックは背を向け逃げようとするが足元がふらついている。

 マヨネゲルが斬りかかろうとする。

 背後に馬蹄。

 振り返る。

 騎馬隊、先頭にリボル、槍を掲げていた。リボルは、近づき、槍を振る。マヨネゲルの顔、横っ面をはたくように振り抜いた。

 澄んだ高い音、面ぽおがひしゃげる。倒れる。マヨネゲルは生きている。意識がもうろうとして立ち上がれない。


「さすがミスリル、頑丈だ」


 リボルは、反転し、馬で踏みつぶした。

 マヨネゲルは死んだ。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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