第十四話、寄り道

文字数 1,503文字

 シャベルトは寄り道をしていた。


「早く行きましょう」


 ヘセントは、何度目だろうか。道ばたでしゃがみ込むシャベルトに言った。二人はシャベルトの師であるソロンに会うため、グリオム山をのぼっている道中である。


「しかし、なかなか見られないのだよネズミ蠅取り蜘蛛が巣を作っているところなんて、この子達は、動物の死骸に巣を作るというとても珍しい性質を持っているんだ。そのためにネズミを毒で殺して、そこに糸で巣を作って蠅を捕るんだ。おかしいと思わないかい。ネズミを捕れるのにネズミは食べないで蠅を食べるって、おかしいと思わない? 思うよね。人間だったら、豚を育てて、殺して、寄ってくる蠅を食うようなもんだよ。変だよね。効率悪いと思うよね。気になるよね。変だよね」


 シャベルトはヘセントに顔も向けず、ネズミの死体に糸を張る蜘蛛を見ながら話した。

 おまえが一番変だと、ヘセントは正直に思った。


「おっ、ネズミの開いた口を利用して巣を張ってるな。腐臭が一番きついからかな。口の中にまで糸を張ってるぞ。ほほう」


 熱心に見つめた。


「いや、ほほうじゃなくて、ドワーフが攻めてきた理由を知るため、ソロンさんに会うんじゃなかったんですか」


 ヘセントは言った。


「しかし、なかなか見られるものではないのだよ」


 シャベルトは背を向けたまま言った。

 説得しようと、息を吸った時、ヘセントはシャベルトの頭上に乗っているノコギリリスのパン吉と目が合った。パン吉は、こうなっちまったら、もうだめだよ。そんな仕草をした。


 


 ギリム山、ドワーフ王の部屋で、ドワーフの王ドラムと、腹心のムコソルが話をしていた。

「閣下、エルリムの町を落としました」


「そうか、犠牲は」


「ドワーフの兵が八十人ほど」


「して、人間側は」


「四百は下らぬかと」


「どういう結果であれ、あまり喜べんな」
「負けるよりは、よろしいのでは」
「そりゃそうだ。しかしまぁ、正直言って、沸き立つものはある」
「それだけですか」
「どうだ人間ども、これがドワーフの力だ! とでも言えばいいのか」
「ええ、それでよろしいかと」

「人間はわしらのことをなめておるな。エールさえ与えておけば言うことを聞く陽気なおじさんだとな」


「あながち、見当違いだとはいえませんが」


「まぁ、そういう面もある。わしもエールが好きだ。皆で陽気に騒ぐのもな。だが、なめられるのは好きじゃない」


「誰でもそうです」


 扉が開いた。


「父上! 何をなさっているのですか!」


「やっときたか」


「ロワノフ様、勝手に入られては困りますよ」


 ロワノフはドルフの長男である。


「だまれ、ムコソル! おまえがいながらなぜ止めん! 父上、なぜ、軍を動かしたのです。そのようなことを、なぜなさるのです」


「もう、決めたことだ」


「今からでも遅くありません。人間側と話し合いの機会を持ってください。きっと、わかってくれます」


「人に頭を下げよと、なめられるのは好きじゃない」


「そのような些細なことをこだわっている場合ですか! 我ら山のドワーフの命がかかっているのです! どうか、お考えを改めてください」


「困ったものだ。どうしたものかの」


「ご自由に」


「ふむ、衛兵を呼べ」


「なっ」


 二名の衛兵が部屋に入ってきた。


「このものを牢屋に入れろ」


 二名の衛兵は戸惑った顔をした。


「父上、なぜです。ご再考を、違うやり方があるはずです」


「聞こえなかったのかロワノフを引っ捕らえて牢屋に入れろ」


 二名の衛兵は困った顔をした。


「王の命令ですよ。従いなさい」


 ムコソルが言った。

 二名の衛兵は戸惑いながらも王子であるロワノフをつれ牢屋に入れた。

「あと何人か、牢に入れておかなくてはな」


 王は筆をとった。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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