第二十九話、国軍

文字数 1,776文字

 王都トレビム、軍事顧問ペックスの部屋、古い書物が部屋の隅に積み上げられている。二人の男がいた。


「ドワーフですか」


 モディオルが言った。モディオルは軍人である。


「そうだ。君に行ってもらいたい」


 トレビプト国の軍事顧問であるペックスが言った。ペックスは二十年ほど前、トレビプトに傭兵団の団長として流れ着き、十年ほど前から軍事顧問として、この国の軍の強化と一部指揮を任せられている。

「行けと言われれば行きますが、どのぐらいの兵をつけてくれるんですか」


「千二百、騎馬隊二百に歩兵四百、後は傭兵だ」


 ペックスは申し訳なさそうに言った。


「ドワーフ相手にですか」


 モディオルは困ったような顔をした。ギリム山のドワーフは二万いると聞いている。


「無理なのはわかっている。国としては体面を保たなければならない。領主から援軍を請われ、出しませんというわけにはいかない。だからといって、十分な兵を雇えるほどの金はない。だからこの数だ」


 ペックスは兵の数を増やすよう要請はしたが受け入れられなかった。


「どうしてドワーフはバリイ領に攻め入ったんです」


「確実な情報ではないが、やつらの住処であるギリム山がもうすぐ噴火するそうだ。新たな住処を求めてお引っ越しというわけだ」


「同情しますが、人にとっては迷惑な話ですね」


「そうだな、国が本腰を入れられないのも、その辺りに原因がある。避難場所を求めてのことであれば、話し合いの余地があるのではと思っている」


「確かにそれはその通りですね。しかしペックス様は、そうは思っていないのですね」


「話し合いで解決してくれればありがたいが、国や領主がドワーフのために長期間金を出すとは思えない。そのことをドワーフたちも理解している可能性がある」


「飢えた難民にならぐらいなら、余力があるうちに戦争して奪い取ろう。そんなところですか」


「そうだ。領地を切り取った後で交渉、そのように考えているのかもしれない」


「割と理にかなってますね」


「ドワーフは戦略的に正しいのだよ。生き残るために必死になって考えている」


「人間側の対応はどうなんですかね」


「後手に回っている。判断も遅いし、危機感も薄い、国と大領主との間の溝も深い。近隣諸国の動きもある。もし内乱が広がれば、それに乗じて攻めてくる可能性がある。そのため兵の数を温存しておいた方がいい。と考えているものが多い。最大数で、すみやかに潰してしまった方がいいのだが、保険を求めたがる政治家は、その辺りのことを理解してくれないのだ」


「その辺の事情は、わからなくはありませんが、ドワーフの強さはご存じでしょう。いくら何でもその兵力ではどうしようもありませんよ。噴火の情報が正しければ、奴らには後がない。数で劣っている上、ドワーフは強い」


「ドワーフの傭兵を雇い人間の兵と戦わせてみた。一対一では話にならない。二対一でも厳しい。三対一でようやく互角、実戦でミスリル合金の鎧に身を固めたドワーフとなると、五対一でも難しいだろう」


 力が強い、技が巧みというだけではなく、人とドワーフ、戦士としての覚悟の差のようなものを感じた。戦場となるとその覚悟の差はさらに開く。


「それがわかっていて、戦いに行けと、バリイ領でも五六千の兵を集めていますよ。千二百はちと少なすぎませんかね」


「兵を出した、という実績が欲しいだけなのだ。負けても勝っても言い訳ができるからな」


「言い訳のために兵を出すなんて、軍人にはわからない考え方ですね」


「私は少しわかるのだよ。残念な話だがね」


 ペックスは皮肉めいた笑みを浮かべた。長年、王の下、政治家と軍人の間に立って働いてきた。


「この兵力では、バリイの軍に合流するしかないですね」


「いや、北と南、フエネ平原に四百ほど、南に二千のドワーフがいる。その二つのドワーフの軍のギリム山からの援軍と兵糧を断って欲しい」


「ギリム山に残っているドワーフがどちらかに合流するのを防げと言うことですか」


「そうだ。お互い兵力を小出しにしているような状況だ。ドワーフの兵がさらに増えれば、勝つことがむつかしくなる」


「しかし、ギリム山には二万近くのドワーフが残っているんでしょう」


「その通りだ」


「とてもじゃないが太刀打ちできませんよ」


「奴らの動きを止めるだけでいい」


「千二百でですか」


「策がある。後で多少文句を言われるかもしれんがな」


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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