第十九話、悪態
文字数 2,814文字
重装歩兵部隊大隊長のザレクスは叫んだ。フエネ平原、一キロほど先にドワーフの陣がある。
副隊長のベネドが言った。
ドワーフを誘い出すため、ドワーフの悪口を叫ぶよう、指示を受けていた。ザレクスの言葉にあわせ、歩兵隊全員が同じようなことを叫んでいた。
「いいですか。ようく、聞いてくださいね。おーい、くそドワーフの、へちゃむくれ野郎! 短足! 短小! ちんこっぱなの、はなたれうんこ! 陰毛ひげの臆病者! ゴブリンの○○に××に▽▽して、※※※してろ! てめえのケツの穴に、◎◎を●●して、ごりごりの□□□してやろうか! お山に帰って、穴掘って、○○かいて、ふて寝してろ! てな感じでお願いします」
ザレクスは眉をひそめた。
ダレムは回りを見渡した。兵の顔色が変わっている。怒りに満ちていた。
人間は、こちらを丘の上から誘い出すため、煽っていた。最初の頃は、馬鹿だのあほだの、稚拙な悪口であったが、徐々に悪質になり、ひどく神経に障るようになっていた。
ドロワーフは人間の悪口に対して、なんとか言い返そうとしているが、うまく言葉が思い浮かばないようであった。
リボルは言った。
馬上にて、ドワーフの陣の様子をうかがっていた。
太い木材を組み合わせて作られている。地面に深く杭が打たれているように見える。
副司令官のレマルクは指示を出した。
ドロワーフが柵の外に出ていた。ハンマーを担いで、斜面を駆け下りていた。
ダレムはあっけにとられた。
ドロワーフは人間の軍に対して叫んだ。静まりかえる。
ダリムは命じた。
一人のドワーフが斜面を駆け下り叫んでいた。五、六人のドワーフが連れ戻そうとしている。
リボルは眉をひそめた。
五人のドワーフがドロワーフを連れ戻そうしたが、振り投げ飛ばされた。ドロワーフは人間の兵がいる方向に向かって歩きだした。
人間側の動きはない。
ザレクスは一人陣を出て叫ぶドロワーフを見ながら言った。
副隊長のベネドが言った。
人間側の兵の悪態が徐々に減り始めた。比例して、ドロワーフの声が平原に響く。
ドロワーフの声が平原に響く。
一騎、騎兵が飛び出した。
それにつられ、他の騎兵が数騎続く。ドロワーフ目がけ騎兵が駆ける。
やはり放ってはおけない。ダリムは兵を二百ほど連れて柵の外に出た。
メロシカムと呼ばれた隻腕のドワーフは言った。
レマルクは渋い顔をした。
重装歩兵隊二百が前に進んだ。百騎の騎兵も出た。
先行し飛び出た騎兵七騎が、ドロワーフの元にたどり着く。
ドロワーフはハンマーを後に構える。ダリム率いる斧槍隊はまだたどり着いていない。
先頭の騎兵が槍を脇に締め付け、体を右に傾け、ドロワーフにぶつかる。
ドロワーフは、頭を前に兜で槍を受ける。槍はドロワーフの兜に当たり兜を飛ばす。同時にハンマーを振るう。ハンマーは馬の足に当たる。折る。馬は前方につんのめり回転する。騎兵は投げ出される。後続の騎兵がドロワーフの頭めがけ槍を突き下ろす。ハンマーを盾に頭部を守る。他の後続の騎兵がすれ違いざまに槍を繰る。ハンマーで防ぐ。いくつか鎧に当たり、浅い傷を負った。騎兵がすれ違う際、騎手の足を、ドロワーフはつかんだ。そのまま片手で引き、地面にたたき潰す。
騎兵がドロワーフの背後に回り槍で突く。太ももの裏を突かれる。振り返り、ハンマーを振るう。
馬の首の、付け根当たりに当たる。馬が倒れる。騎手が落ちる。落ちた騎手をハンマーで叩きつぶした。
ドロワーフは四騎の騎兵に囲まれた。
一人の騎手が、くの字に曲がる。
横っ腹に斧槍が突き刺さっていた。ダリムがたどり着いた。他の斧槍部隊もドロワーフの元へたどり着き、残りの騎兵をかたづけた。
笑った。
ダリムはドロワーフを見た。太ももの傷は布で縛ってある。それ以外はたいした傷ではなさそうだった。
ハンマーを地面にたたきつけた。