第五十九話、戦準備

文字数 1,483文字

「援軍か」


 ファバリンは、総司令官であるリボルが五百の援軍を送ったという報告をマッチョムから受けた。


「ええ、ドワーフがアリゾム山に向かって移動したので、援軍を出してくれたようです」


 マッチョムは答えた。


「ありがたいが、山に慣れていない兵が来られても、足手まといになりかねないな」


 砦無き今、アリゾム山山岳部隊にとって有利な点は、見つかっていないことだけだ。山に不慣れな兵を入れれば、それだけ見つかるリスクが増えることになる。


「しかし、追い返すわけにもいかないでしょう。戦況によっては必要になるときも、あるやもしれません」


 副官であるエンペドが言った。


「しかし、どう使う。五百ぽっちじゃ、迂回して、ドワーフの背後を襲わせても、返り討ちに遭うだけだ」


「そう、見せかけるだけでも、効果はあるかもしれません」


「そうだな、糧道を断つことにもなるやもしれん。半数はドワーフの背後に立たせて、もう半数は、何か使い道ができるまで、どこかに置いておくか」


「それでよろしかと」


「なにか使い道があればいいのだがな」


 思案した。







 フエネ平原のザレクス陣ではリザードマンの陣形についていくつか試していた。リザードマンの尾打を活用するため、幅を広くとったり、斜陣なども試していた。ドワーフは砦の中に立てこもっているため、それらを試す機会はまだ無かった。


「また立てこもってしまいましたね」


 副官のベネドが言った。


「そうだな」


「悪口を言っておびき出しますか」


「勘弁してくれ、もうあんな汚い言葉は口にしたくない。そもそも、同じ手に引っかかるとは思えない。一枚一枚、防壁を剥いでいくしかないだろう」


 ザレクスはいやそうな顔をした。


「しかし、あまり時間はありませんよ。奴らの援軍が来た時点でこちらは圧倒的に不利になります」


 火はまだ燃えている。雨が降る気配はないが、どこかから迂回してくる可能性もある。


「そうだな、兵の数はこちらの方が多い。兵を三つに分けて、休みなく攻めさせろ」


「わかりました」

「しんどい戦いになりそうだな」


「奴らもそう思っていますよ」


「だといいんだが」


 ザレクスは、胸元にぶら下げている妻の肖像画が入っているロケットを触りながらつぶやいた。








 人間の兵が、アリゾム山のふもと、オラノフの部隊の背後に陣取ったと聞き、オラノフは百人ほど、兵を山とのふもとに残し、背後からの攻撃に備えた。残りの五百で、アリゾム山を攻めることにした。


「彼らは食糧をどうしているのでしょうか」


 オラノフはゴキシンに聞いた。

 燃え尽きた砦の中から、焦げた食糧が見つかった。人間は、ゴキシンが砦の食糧に毒を盛ったのではと考え、砦を食糧ごと燃やしたのではないかと、オラノフ達は推測した。


「所持しているものがあるでしょうが、彼らは山岳部隊です。冬なら別ですが、この時期なら、百五十人程度、一月や二月は山の食材で、すごすことができるでしょう」


「山を味方にしているということですか。こちらは、ちとまずいことになりそうです」


 短期決戦を考えていたため、食糧問題に不安があった。うまく食いつないでも二週間程度の食糧しかなった。

「私も、長年この山に暮らしていますから、食糧ならある程度は確保できますよ。山菜とかね」


 ゴキシンは少し笑った。


「山菜ですか。苦いのは、ちと苦手です」
「ほっほっ、好き嫌いはよくありませんぞ。私が腕によりを掛けて山菜料理をつくって差し上げます」

「ご馳走になる前に奴らを見つけたいものです」 


 辺りを見渡した。木々に覆われ、視界は極端に悪かった。

 オラノフは山の中で拠点をいくつか作りながら、斥候の兵を出した。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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