第四十一話、灰
文字数 1,447文字
マヨネゲル率いるドワーフが雇った騎馬隊は、逃げようとする兵を横から背後から押し倒すように串刺しにする。騎馬隊に矢を射ろうと弓兵が前に出ると、ドワーフがやってきて弓ごと人間をへし折る。連携ができていた。
指揮官は兵をまとめようと声を上げた。
ゴプリは顔をしかめた。全員が一斉に逃げれば分散して生き残れる確率が上がるが、少数で逃げれば確実に騎馬隊に狙われる。かといってとどまっていればドワーフに切り刻まれる。レマルクが率いていた騎馬隊は、ほとんど残っておらず、生き残ったものは皆逃げていた。
馬蹄がした。
鎧兜は着けず、小汚いなりをした馬に乗った男達が来た。槍を手に、布袋を腰にぶら下げている。バナックの騎馬隊である。
ドワーフ目がけて突っ込んだ。軽く槍を突き、横にそれるような形で、すぐに離脱した。何度か繰り返すと、ドワーフがばらけた。
ゆるくなったドワーフの陣形を破り歩兵が北に移動した。
機動性を重視したのか、それとも金がないのか。同じ傭兵同士、マヨネゲルは少し脅すような形で、バナックの騎馬隊の横を走った。バナックの騎馬隊は方向を変え避けた。マヨネゲルの騎馬隊が近づくとバナックの騎馬隊は離れた。それを何度か繰り返す。
マヨネゲルは騎馬隊を二十騎ほどバナックに対応させ、残り五十騎をつれ、北へ逃げる人間の歩兵の前方に回り込み、剣でなぎ払った。歩兵の速度が落ち、滞ったところを後ろから追いかけてきたドワーフが攻撃する。
二十騎の騎馬隊がバナックの騎馬隊を一定の距離あけながら追いかける。
バナックは一度、速度を上げてから、反転した。腰にぶら下げてある布袋に手を入れた。すれ違う瞬間、布袋から手を出し、手のひらに握っていたものを、馬に向け投げた。馬は驚き立ち止まり首を振った。灰である。バナックは布袋に入れた灰をすれ違いざま馬の顔に目がけ投げつけた。バナックの後続の兵も同じように、すれ違いざま灰を投げた。何頭かの馬の目に入り、竿立ちになる馬も出た。
マヨネゲルの部下が言った。
そんな高そうな鎧着やがって、何言ってやがるんだとバナックは思った。
バナックは灰を投げつけることを二三度行った。四度目は、身構え動きが遅くなった騎馬隊に対して、槍を下に低く構え、馬の足元を、すれ違いざまに切り払った。馬は馬鎧を身につけていたが、太もも付近に防具はなかった。
何頭か足を傷つけられ動けなくなる馬が出た。とどめを刺そうと槍を構えると、マヨネゲルが五十騎の騎馬隊を引き連れこちらに向かってきた。バナックは慌てて逃げた。
せっかくのミスリル鎧、軽く、槍刀をはじくミスリル鎧を無視するかのような灰による攻撃に、マヨネゲルは不快感を感じていた。
逃げるバナックを執拗に追いかけた。近づいてきたところで灰を投げつけようとすると、マヨネゲルは一度距離を取り、タイミングをずらしてから速度を上げ、横から突っ込んだ。バナックの騎馬隊が何騎かやられた。
バナックは西のリボルが立てこもる陣の方角へ逃げる。マヨネゲルは追いかける。近づくとリボルの陣から矢が飛んできた。マヨネゲルは、あきらめ引き返すが、すでにゴプリ達が属する歩兵部隊は逃げており、あらかた北の野営地に避難していた。