第七十八話、水
文字数 1,913文字
プロフェンは落ち込んでいた。濡れた馬を拭き飼い葉を与えた後である。
ベネドは言った。
ネルボ様の敵を討つと誓っておきながら、ドワーフが来ると、恐れたのだ。
追撃のチャンスを不意にしたのだ。
恐怖に駆られた。それが、影響していないとは言えない。
ベネドがあごで指した方角を見た。ザレクスがいた。
手元の何かを見ている。少しにやついている。
だからなんだと、プロフェンは思った。
ベネドは断言した。
「ええ、生きて帰ることが重要なのです。敵を倒すことが目的ではありません。確かにあなたは相手の策に引っかかった。そのことで、あなたの気持ちが傷ついているのかもしれません。ですが、あなたは兵を生きて連れ帰った。兵を失う可能性を回避したのです。それはあなたの気持ちよりも大切なことではないでしょうか」
ベネドは笑った。
プロフェンは少し離れたところにいるザレクスを再び見た。笑みを浮かべ手元のロケットを熱心に見つめている。
ひどく不安な気分になった。
ザレクスの父ジダトレは、北から来るハイゼイツ率いるドワーフの援軍相手に守りを固めていた。ハイゼイツの猛攻に少し押し込められていたが、何とか耐えていた。
西、アリゾム山に国軍は兵千を送った。
フエネ平原のドワーフの砦の攻撃は、少し待つように命じられた。
ドルフの元へ、国からの使者が来た。
ドルフは会うことにした。
前と同じ内容で、降伏を促していた。
断ると、今ならまだ助かる命がありますよと、使者はいった。
ドルフは激高し「命を惜しむドワーフの戦士などおらん!」と席を立った。
ドルフは追い詰められていた。
モディオルは目を細めた。風向きによって、煙が襲いかかってくる。
モディオルは、部下に案内された場所に移動した。
火に焼き尽くされ、炭となり倒れた木々の奥から、大量の水がしみ出していた。
首をかしげた。そこまで激しい雨ではなかった。
焼けている森の中から、南の草原に向けて、何本か川ができていた。水は灰色に濁り、炭化した木々が流れていた。
昨日の雨で、森に川ができるようなことはない。考えられるとしたら、ドワーフが、どこかで川の水をせき止めておいて、雨で増水したところで堰を切り、水を森に流した。
森は大量の煙を吹き出していた。
高台から、ガロムは森の様子を見ていた。まだ森は燃えている。だが、火が消えている場所があった。いくつかある川の水をせき止め、一度に堰を切った。水がどこに流れ込むか、賭のようなものであった。
ジクロはいった。
兵に道をかためさせ、物資を通すつもりだった。