第四十六話、二手

文字数 1,777文字

 ドワーフの陣営では軍議が行われていた。


「やはり、援軍と物資の補給はしばらくはあきらめた方が良さそうですね」


 ムコソルはいくつかの報告書を手に言った。


「いつまでも燃えているわけではないだろう」


「どうでしょう。ただの火事なら収まるでしょうが、人がやったことです。なかなか消えないかもしれません」


「消えそうになったら、人間が燃料をぶち込むということか。そのために残っているのか」


 千二百人の国軍は火をつけた後もその場所でとどまっている。


「我々の背後を突いてこないと言うことは、そういうことでしょうね」


「だが、火が安定したと判断したら、こちらに来るかもしれない。そうなると、また挟み撃ちだ」


「そうなりますね」

「国軍とは、どのような軍なのだ」


「人数は少ないですが、国軍はリボルの軍より精強です。騎馬隊二百に歩兵四百、あとは傭兵です。軍事顧問のペックスが作った部隊とか」


「ほう、そいつは楽しみだ」


 ベリジは笑った。


「今ある食糧なら、二週間、切り詰めれば三週間は戦えます」


 オラノフは言った。


「それだけあれば十分だろう。食糧が尽きる前に、一気に人間の軍を倒し、食糧を奪えばいい」


「できないわけではないが、簡単には落とせんだろう。その間に国軍に挟み込まれる恐れがある。やつらの援軍だって来るかもしれん」

「先に国軍を討つという手もありますよ」


「国軍は立てこもっているわけではない。こちらが向かえばおそらく逃げるだろう。それを追う足は我々にはない」


 傭兵の騎馬隊がいるが、そこまでの数はいない。


「奴らを無視して全軍でアリゾム山を落としてしまえばよろしいのでは」


 伸ばした白髪に、特徴的な上向いた口ひげの男が言った。


「グルミヌ殿、それでは、フエネ平原に残された兵が殺されます」


 全軍でアリゾム山に向かえば、リボルの軍がフエネ平原を北上し、東にいる国軍が西に、もともといたザレクスの軍と三方から攻撃されることになる。


「しかし、アリゾム山の兵の数はわずか百五十、力攻めで、すぐ落とせるのでは」


 グルミヌと呼ばれた男は、ギリム山の鉱物の流通を一手に引き受けている商人である。


「山攻めは数で落とせるものではありません。狭い山道を通ることになるので、数が多くてもあまり意味はありません。どうしても時間がかかるのです」


「なるほど、ままならぬものだな」


「やはり二手に分けるしか手はなさそうだな」


「この場に残る兵とアリゾム山と分けると言うことですか」


「そうだ。ぐずぐずしておれば状況は悪くなる。アリゾム山の防備も固められてしまう。食糧とて不安だ。兵を二手に分け、一方は牧場跡を攻め、一方はアリゾム山をとる。後は交渉で、どうにかするしかない」


「して、どう軍を分けるのですかな」


「アリゾム山にはオラノフに行ってもらう。あとは、牧場跡だ」


 ドルフは言った。


「時間との闘いですな。私たちが国軍に挟まれ全滅する前にオラノフ殿がアリゾム山をとって貰わねばなりません」
「かなり難しい戦になりそうですな」

 オラノフは顔をしかめた。


「なーに、挟まれるまえに牧場跡にこもっている人間どもをやっつければすむこと」

「私もアリゾム山に行きたいのですが」


「だめだ」


「そんな、なぜですか」


「信用できん」


 グルミヌは陰から表から、主戦派をたきつけていた男である。戦をせざるを得なかった原因の一つであった。信用できないと、思うのなら、戦場に連れてこなければいいのだが、グルミヌは鉱物の流通で財をもっている。装備品や食糧、その他諸々を出している。金を出しているのだから戦場に連れて行けと言われれば断りにくい。放っておくと裏で何を画策するかわからないという面もあり、連れてきた方がいいと判断した。ドルフにとっては、目の上のたんこぶのような存在であり、目の上のたんこぶは、目の上についているものでもある。


「それは残念です。では、私が長年にわたって、集めたアリゾム山の情報はすべてオラノフ殿に渡しましょう」


「よいのか」


「ええ、もちろん。勝って貰わなければなりませんからな」


「そうか。感謝する」


 ドルフは言葉と裏腹に苦々しい顔をした。

 長年集めた情報をあっさりと手放す。こういうことができるからやっかいなのだ。情報を握りつぶし味方の足を引っ張るような小物なら、こうはやっかいな存在にはならない。

 オラノフは礼を言い、資料を受け取った。



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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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