第五十話、アリゾム山の砦
文字数 1,653文字
夜、アリゾム山では酒宴が行われていた。
ブーイングが起こる。砦の広場で、酒樽と料理を広げアリゾム山山岳部隊およそ百五十人、全員が集まっていた。
再びブーイングが起こる。泣き真似をする者もいる。
喚声が上がった。
ファバリンは木で作った椀の酒を飲み干した。
他の者も酒樽に集まりお椀に酒をくみ飲んだ。
ズッケルは飲み干した。少し花の香りがする繊細な味だった。
ファバリンが点呼を行った。昼の手前である。朝方近くまで飲んだことをズッケルはかろうじて覚えていた。ズッケルはもうろうとしながら返事をした。ファバリンがたいまつに火をつけ立っていた。
ファバリンは火の付いたたいまつを砦の窓に投げいれた。油をまいていたのか火は燃え広がった。
あごが外れそうなぐらい驚いた。ほとんどのものが驚いた顔をした。
デノタスが言った。山菜採りのドワーフであるゴキシンの小屋に行くと、もぬけのからだった。きれいに何もなかった。
山の頂上、北は切り立った崖、道は一本しかなかった。守りやすい場所である。
「知られているからさ、どこに弱点があるのか、どうすれば壊せるのか。全部知られている。あのじいさん、五十年はこの山に住んでいた。ここにも出入りしていた。何か仕掛けが施されている可能性だってある。だから、攻められて、とられるぐらいなら燃やした方がいい。ここに籠もってたら逃げ場はないしな」
デノタスは目を細めた。砦には、それなりに思い出があった。
百五十人しかいない。相手はあのドワーフだ。
オラノフは空を見上げた。行軍の最中、アリゾム山の山頂から一筋の煙が見えた。
ゴキシンが言った。ゴキシンはグルミヌの手のもので、五十年にわたって、アリゾム山に潜入していた男である。案内役をかってでた。
煙の量は増えていった。
少しうれしそうな顔をした。
仕掛けがあると考えたのなら、普通はそれを探して無効化しようとする。
ゴキシンはオラノフの顔を見た。青みがかったひげに、強い眼光をしている。
オラノフは元は人間の国に仕えていた軍人である。
オラノフは少し笑った。