第六十七話、北西、アリゾム山、援軍

文字数 1,624文字

 牧場跡より北西の丘の上に、リボル達は陣を張った。ドワーフに囲まれるという重圧から解放されたおかげか、敗走したにもかかわらず、どの兵もほっとした表情をしていた。


「よくやったバナック」


 リボルはバナックの肩を掴みながら言った。


「ええ、まぁ」


「いや、見事な策だ。逃げるついでに騎馬隊を潰すとは、思いもつかなんだ」


 頭を押さえてくる騎馬隊を囲んで殲滅するという作戦を提案したのはバナックであった。


「いやいや、皆さんのおかげですよ」


 などと言いながらも、まんざらでもない表情を見せた。


「それに、ミスリルの騎馬隊相手に馬をぶつけ白兵戦に持ち込む。これもなかなかできることではない」


「そうですか。えへへ」


「相手の慢心、ミスリルの武具という慢心を利用した見事な策であった。何か褒美はいらないか。あまり、やれるようなものはないが、できる限り善処しよう」


「褒美ですか」


「あまり、無茶を言うでないぞ」


「なら、ミスリルの武具が欲しいですね。仲間の分も」


 顔色をうかがうように言った。

「ミスリルか」


 リボルは少し考えた。敗走中ということもあり、マヨネゲルの騎馬隊が身につけていたミスリルの武具をそれほど多く拾えたわけでは無い。防具に関しては捕虜にした騎兵の装備も含めて、三十領程度、武器に関してはもう少しあった。己の部下に使わせようと考えていた。


「いいだろう。お前の仲間の分も合わせ、ミスリルの武具を褒美として渡そう」


 バナックの仲間は二十人程度に減っている。全員に渡しても少し余る。

「えっ、いいんですか!」


 驚いた顔をした。貴重なものだ、いくら何でも全部は無理だろうと思っていた。


「ああ、その代わりこれからも存分に手柄を立ててくれ」


「はい!」


 バナックは勢いよく返事を返した。



「よろしいのですか。ミスリルの武具ですよ」


 しかも、ドワーフ製、売れば一財産作れるぐらいの価値がある。バナックが小躍りするような足取りで去った後、スタミンはリボルに話しかけた。

「よい、あれを見れば、兵の士気が上がる。今はそちらの方が大切だ」


「なるほど」


 手柄を立て、ミスリルの武具を身につけた傭兵、負けて逃げてきたバリイ領の兵士達にとってはわかりやすいメッセージになる。


「まだ終わってはおらん」


 拠点は奪われたとはいえ、兵の数も少なくない。なにより、ドワーフはミスリルの騎馬隊を失った。野戦に持ち込めばドワーフを騎馬隊で分断することもできる。場合によっては北のフエネ平原に援軍を送ることもできる。まだ終わっていないのだ。








 アリゾム山。


「で、どうだった」


「ありゃ、どうしようもなくかたいですね。落とした丸太を鎧で受けて跳ね返してましたよ」


 デノタスが言った。山中である。アリゾム山山岳部隊が集まり、デノタスの話を聞いていた。新兵は別だが、ベテランの山岳兵は山の斜面に溶け込むようにたたずんでいた。


「敵の大将はどうだった」


「全員で矢を射ましたが、ことごとく打ち落とされましたよ。あれは、めちゃくちゃ強いですね」


「かたい上に強いか」


「我々が勝っているのは逃げ足ぐらいですかね」


「山では一番大切なことだ」


 人より強い獣などいくらでもいる。


「負けなければいいのなら、それいいんですけどね」


「不服か」


「ええ、まぁ、どうせなら、勝ちたいですね」


 俺らの山ですしね。デノタスは付け加えた。


「そうだな、そりゃまぁ、そうだよなぁ」


 ファバリンは思案下につぶやいた。








「また、あの連中か」


 ハイゼイツは頭をかきむしった。道の真ん中に木が積み上げられていた。近づくと油の臭いがする。撤去しようと近づけば、どこからか火矢が放たれ燃やされる。そうなると土をかけ火を消さなければ近づけない。幾度となく繰り返されたことだ。フエネ平原に、援軍と物資を届けようとしていたハイゼイツの部隊は足止めをくらっていた。


「いい加減に姿をあらわさんか!」


 ハイゼイツは怒鳴った。

 岩の後ろから火矢が飛んできて、道に積まれた木に刺さり火がついた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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