第十一話、エルリムの壁内、斧槍

文字数 1,430文字

 南の壁が壊されたと聞き、司令官であるフロスは兵を南に回した。


「こっちはおとりか」


 フロスはつぶやいた。東の門でドロワーフがハンマーで扉を叩く音がする。

 石壁を作ったのはドワーフであると言う報告は受けていた。だからといってどうしようもなかった。石壁は信用できない、でどうしろと、石壁を使わずエルリムを守れというのか。ある程度壊されるという前提で、フロスは補修の部隊と壁の内側にも守りの部隊と拠点を用意しておいた。

 ドワーフの兵が半数ほど南に移動し始めた。

 残っているドワーフの兵の動きは鈍かった。人間の兵の様子を見ながら無理にのぼろうとはしなかった。ただ、ドロワーフだけは元気に扉をハンマーで叩いている。

 扉のさらなる補強と、他の壁の警戒を指示し、フロスは東の壁の指揮を部下に任せ、やぶられた南の壁へ移動した。


 くずれた南の壁には人一人通れる程度の穴があいていた。石壁は外側に倒れており、さらにその穴を広げようとドワーフの兵がハンマーを振るい石を削り、瓦礫をどかしていた。崩れた石壁の中にドワーフの兵が入り込んでいた。それをさせじと、人間の兵が大盾を手に押し返そうとしていた。

 ドワーフは斧を両手に、斬り込んだ。人間の兵は大盾の影に隠れながら、槍で突いた。ドワーフは鎧でそれを受け止め、斧で切り返す。盾は木製で表面に皮を張っている。二度三度、ドワーフが斧で切りつけると盾は壊れた。すぐに別の盾が押し返してくる。槍が四方から飛び出す。鎧で受ける。切り返す。

 ドワーフの斧はミスリル合金ではなく鋼で、できている。ミスリル合金は硬度と耐久性が高くよく切れるが、何度か使うと切れ味が落ちるため、使い続けると鋼の斧との差は大きくはない。補修の効く防具とは違い武器は消耗品である。そのため基本的に、ドワーフの使う武器は鋼の武器であった。


「密集して押し返せー! 奴らを中に入れるな! 奴らは女子供も町の人間を皆殺しにするぞ! 火を放ちすべてを灰にするぞ! エルリムを守るんだ!」


 指揮官のフロスがあらわれ兵をあおった。

 盾の圧力が増える。押す。盾の隙間から槍が飛び出しドワーフの体を少しずつ削り取っていく。盾ごと切られた腕が転がっている。人もドワーフも死んでいる。血の臭いが吹きだまる。

 ドワーフたちは押し返される。盾を切り裂いても、また別の盾が現れカバーする。なれてきたのか連携ができている。ドワーフたちにも疲労の色があった。


「斧槍隊いくぞ」


 先端に槍と斧がついた長柄武器を持ったドワーフの部隊が前に出た。

 先頭に立つ灰色のひげのドワーフは自身の倍ぐらいの長さがある斧槍を、高々と上げ飛び込んだ。振り下ろす。盾を切り裂き、その下の腕をも切り落とした。斧槍で突く。人間の兵の胸に突き刺さる。新たな盾の壁ができる前に、こじ開けるように何度か突きを入れる。ドワーフの王ドルフの次男、ダレムである。

 斧槍を持ったドワーフ兵が盾をはがすように切りつけながら、できた隙間に斧槍を突き入れる。斧では突くという動きができないため、どうしても攻撃が少し遅れてしまうが、斧槍は盾を壊しあるいは崩し、その後、突くことができた。大盾の連携が崩れていく。


 斧槍部隊を先頭に、後を続く兵が左右に広がりながら、徐々に入り込んでいく。


「下がれ。立て直すぞ!」


 フロスは兵を下げた。ドワーフは逃げる兵を何人か斬り殺したがその数はわずかだった。足が遅いため、追い打ちを仕掛けても逃げる人間に追いつけなかった。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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