第四十五話、ギリムの森
文字数 2,133文字
シャベルトは呆然と立ち尽くしていた。森が燃えていた。
ヘセントはソロンを見た。
ギリム山噴火について知るため、ギリム山へ向かう途中、フエネ平原の草原の中、野営をしていたところで異変に気づいた。
シャベルトは怒りに震えていた。普段、ギリム山周辺で生物の調査を行っている。そこを燃やされたのだ。ぼんやりとした男だがさすがに怒っていた。
ヘセントはドワーフがエルリムの町を燃やしたことを思い出した。
ソロンはエルフである。その時代を見てきた。
火は燃え広がり、一晩経っても消える気配がなかった。
報告を受けたイグリットは立ち上がり驚いた。
国軍には、人をつけ、行動を監視している。
「それは断るだろ。自分の領地を燃やすと言われて、断らん領主がいるか。だから言わなかったと、それは、わからんでもないが、いや、やはりおかしいだろ。いくらなんでも、私が治めている領地だぞ。勝手に火を放つのはおかしいだろう」
「抗議か。今、抗議か。なるほど、抗議したくても、今の状況では、援軍が欲しい状況ではろくに抗議もできんと、思われていると言うことだな、確かに、くそ! その通りだ。じゃあ、もう援軍はいらないんだな、余計なお世話だったな、などと言われたら、困るのは我々の方だ」
もはや、バリイ領には使える兵も金もない。とすれば、領民の人と財産を使わなければならない。各地にいる小領主が言うことを素直に聞いてくれるとは限らない。
「確かにな、いや、よく言ってくれた。何かしらの説明をしておかねばなるまい。ドワーフが燃やしたとでも言うか、それはいくら何でも無理か。やはり、そのまま、国軍がドワーフの援軍を防ぐため、勝手に燃やしたと説明するしかないだろう」
焼けた臭いに、動物の鳴き声、獣が逃げ惑い、鳥は木々をうつりながら様子を見ていた。森が燃えていた。
ガロムは頭をかいた。火事には慣れている。山の中に住み、四方を森に囲まれているのだ。火事なんてものは珍しいものではない。だが今は、忙しいのである。
移転の準備に忙しかった。山の噴火に伴い、鉱山の中から荷を外に出していた。せっかく出していたのに、この火事だ。荷を水場に移動させていた。
噴火の被害ができうる限り減るよう、連日連夜、ドワーフの鉱夫を使い、鉱山に溶岩の通り道を作っていた。皆疲れていた。
人為的に起こされた火事なら、付近の木が燃え尽きるまで火事は収まらないだろう。この火事では、たとえ鉱山の作業が終わっても、援軍は送れそうになかった。
ガロンは、煙に埋まる空を見つめた。