第四十五話、ギリムの森

文字数 2,133文字

「燃えてる」


 シャベルトは呆然と立ち尽くしていた。森が燃えていた。


「一体何が、噴火でしょうか」


 ヘセントはソロンを見た。


「いや、誰かが火をつけたのだろう」


 ギリム山噴火について知るため、ギリム山へ向かう途中、フエネ平原の草原の中、野営をしていたところで異変に気づいた。


「誰がこんなことを」


 シャベルトは怒りに震えていた。普段、ギリム山周辺で生物の調査を行っている。そこを燃やされたのだ。ぼんやりとした男だがさすがに怒っていた。


「ドワーフ、でしょうか」


 ヘセントはドワーフがエルリムの町を燃やしたことを思い出した。


「どうだろうな、森を燃やしても、ドワーフの利益にはならない。むしろ困るのはドワーフだろう。ギリム山との道を断たれることになる」


「とすると、人間が、イグリット様の命令でしょうか」


「それは、わからないな。軍人が勝手にやったことかもしれない。国軍が来たという話も耳にしている」


「イグリット様は、森林の保護に気を使っておられました。ずいぶん昔に、フエネ平原にあった森を切り尽くしてしまったことがあったとか、イグリット様がそのような命令をするとは考えられません」


「ふむ、確かにかつてフエネ平原は木に覆われていた。町ができ人が増え、家を建てたり、鍛冶場や暖房に使う薪や炭で木を使い。森は消えた」


 ソロンはエルフである。その時代を見てきた。


「軍人だかなんだか知らないが、一体どれだけの生物があの森にいるのか。人とドワーフの争いじゃないか。森を燃やすなんて、そんなことは絶対に許されない」


「身勝手、なのでしょう。人もドワーフも」


「生物というものは皆そう言うものだ。食べやすいものを食べ、増えるだけ増える。うまくなんてできていない。秩序もルールもなく、ただ許されているだけだ」


 火は燃え広がり、一晩経っても消える気配がなかった。








「森が燃えているだと」


 報告を受けたイグリットは立ち上がり驚いた。


「はい、かなり広範囲にわたって、国軍がやったみたいです」


 国軍には、人をつけ、行動を監視している。


「国軍が、なぜそんなことを」


「おそらく、ギリム山から援軍が来るのを阻止するためでしょう」


「なるほど、なるほど、火で道を塞さごうと考えたわけだな。勝手なことを! なぜ私の許可を得んのだ!」


「事前に言えば、断られると考えたのでしょう」


「それは断るだろ。自分の領地を燃やすと言われて、断らん領主がいるか。だから言わなかったと、それは、わからんでもないが、いや、やはりおかしいだろ。いくらなんでも、私が治めている領地だぞ。勝手に火を放つのはおかしいだろう」


 百年以上、管理してきた森である。計り知れないほどの恵みをこの地にもたらしてきた。

「確かにおかしなことです。抗議なさいますか」


「抗議か。今、抗議か。なるほど、抗議したくても、今の状況では、援軍が欲しい状況ではろくに抗議もできんと、思われていると言うことだな、確かに、くそ! その通りだ。じゃあ、もう援軍はいらないんだな、余計なお世話だったな、などと言われたら、困るのは我々の方だ」


「火は、いかがいたしましょうか」


「いかがだと、消せというのか。ああ、わかっている。火を消したらギリム山のドワーフが攻めてくるんだな。くそ、どうしようもないじゃないか。腹立たしい」


「付近の領民が不安がっています。何か説明をした方がよろしいのではないでしょうか」


「今、そんなことを気にしている状況か」


「この先のことを考えれば、戦況によっては、さらなる徴兵と接収の可能性を考えておかねばなりません。領民の不安を解消しておかねば、難しくなるかと」


 もはや、バリイ領には使える兵も金もない。とすれば、領民の人と財産を使わなければならない。各地にいる小領主が言うことを素直に聞いてくれるとは限らない。


「確かにな、いや、よく言ってくれた。何かしらの説明をしておかねばなるまい。ドワーフが燃やしたとでも言うか、それはいくら何でも無理か。やはり、そのまま、国軍がドワーフの援軍を防ぐため、勝手に燃やしたと説明するしかないだろう」


「では、そのように」


「国軍め」
 イグリットは、しばし国に対する愚痴を言った。







 焼けた臭いに、動物の鳴き声、獣が逃げ惑い、鳥は木々をうつりながら様子を見ていた。森が燃えていた。


「まいったねぇー。忙しいってのに」


 ガロムは頭をかいた。火事には慣れている。山の中に住み、四方を森に囲まれているのだ。火事なんてものは珍しいものではない。だが今は、忙しいのである。


「親方ー。荷物の移動終わりました」


「おおー、ごくろうさん」


 移転の準備に忙しかった。山の噴火に伴い、鉱山の中から荷を外に出していた。せっかく出していたのに、この火事だ。荷を水場に移動させていた。


「鉱山の方はどうだ」


「あと、一週間てとこですかねぇー」


 噴火の被害ができうる限り減るよう、連日連夜、ドワーフの鉱夫を使い、鉱山に溶岩の通り道を作っていた。皆疲れていた。


「どぐされどもが、余計なことをしやがって」


 人為的に起こされた火事なら、付近の木が燃え尽きるまで火事は収まらないだろう。この火事では、たとえ鉱山の作業が終わっても、援軍は送れそうになかった。

 ガロンは、煙に埋まる空を見つめた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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