第七十九話、話し合い

文字数 2,435文字

 アリゾム山山岳部隊は山の谷間に隠れるように潜んでいた。


「あー、くそ、やられちまったぜ」


 ファバリンは包帯を巻いた右胸を押さえながら言った。ゴキシンに刺された傷は、深く、肺にまで達していた。ファバリンは意識を失い、三日ほど寝込んだ。止血はしたが身動きは取れない。


「これからどうしますか」


 副司令官のエンペドが言った。


「兵の指揮はエンペド、お前が取れ、お前が死んだら、デノタスだ」


「わかりました」


「奴らは今何をしている」


「頭の行方を捜しています」


 デノタスが言った。


「司令官と言え、他は」


「私たちが燃やした山頂の砦を再建しているようです」


「あそこか、まぁ、今のところ放っておいてもいいだろう。他は」


「国軍の援軍が千人ほど来ているようです」


「ようやく動いたか、だが、バリイ領の兵と合わせても、千二百程度か。ドワーフは五百は、いる。うまく策を練らないと、返り討ちに遭うぞ。援軍の指揮官をここに呼んできてくれ」


「わかりました」








「山か、いやだなぁ」


 ダナトリルは、のろのろと進んでいた。国軍の指揮官として千人の兵を率いアリゾム山に向かっていた。


「ダナトリル様、もう少し急いだ方がよろしいのでは」


「慌てることはないよ。山には、ドワーフの王様がいるわけでもないんだしさ、適当に攻めてるふりして、ペックス様が、ドワーフの王様をやっつけてくれるまで待てばいいんだよ」


「そういうわけには参りませんよ。我らとて手柄を立てねばなりません」


「だが、モーバブ、ペックス様は無理に攻めなくていいといっていたぞ」


「確かにそう言っていましたが、お家のためにも、ここは、やはり手柄を立てておくのがよろしいかと」


 モーバブはダナトリルの家臣である。


「今更、ドワーフ倒したって手柄にはならないよ。もう戦の趨勢は決まっているんだからさ、僕らの仕事は、アリゾム山を押さえておくことだよ。ぶっちゃけ、バリイ領から、アリゾム山を奪い取っちゃうって、話。だから、無理せず、ゆっくり移動して、その間ドワーフとバリイ領の兵がつぶし合っていてくれた方が都合がいいわけよ」


「そのような話があったのですね。なんて汚い」


「そう、汚いんだよ。ドワーフと戦っている間に、自分の国の領地をかすめ取ろうって算段だ。ははっ、財布の中で小銭が転がっているようなものだね。中身はちっとも、変わらないって言うのにさ。僕らの役目は、戦後に備えてアリゾム山に拠点を作るのが仕事だよ」


「なるほど、では、そつなくこなし、その利権に少しでも関われるよう、努力いたしましょう」


「そゆこと」








「火が消えたのか」


 ペックスは報告を聞き、驚いた表情を見せた。


「完全に消えたというわけではありませんが、森に川ができています。油を投げ込み、火を強めていますが、水が木をなぎ倒してしまった地域もありますので、なかなか難しいかと」


 モディオルからの伝令は答えた。


「ドワーフの通り道ができたというわけだな」


「水でぬかるんでいますし、倒木もありますから、すぐには無理でしょうが、そうなります」


「わかった。少し考える。時間をくれ」


 伝令はペックスの営舎から出た。


「やばいなぁ」


 ペックスは上を向いた。








「ドワーフの援軍が来るのか」


 ザレクスは眉をしかめた。


「ええ、川の水をせき止め、水を燃えている森に流し込んだようです。火が一部消え、通行可能になるようです」


 ベネドは言った。


「戦況がひっくり返るな」


「ええ、かなり厳しくなるかと」


 最悪、二万のドワーフが来る。


「話し合いで何とかして貰いたいところだな」


「話し合いですか」


「戦いたいか」


「いやですね。ですが厳しいでしょう。国軍まで出てますからね」


「メンツがつぶれるか。もし、話し合いが成功して、休戦するとしたら、アリゾム山はどうなるんだ」


「ドワーフは領有権を主張するでしょう。バリイ領は渡さないだろうし、おそらく国も一枚噛んでくるでしょう。まとまりますかねぇこれ」


 ベネドは頭をかいた。


「難しいだろう。話し合っている最中にドワーフの援軍も来る。ドワーフの援軍とにらみ合いながらの話し合い、バリイ領も国も、大幅な譲歩を認めざるを得なくなる」


「ドワーフの一人勝ちということになりますね」


「それをわかってて、休戦を持ちかけるのか。厳しいな」


「背後に二万のドワーフがいますからね」


「そうだな、無条件でアリゾム山を渡すしかないのか。賠償金ぐらいほしいところだが、それも難しいだろうな。森は焼かれるわ、領地は取られるわ、あげくの果てに山が噴火。バリイ領、詰むんじゃないのか」


 ザレクスは暗い顔をした。


「バリイ領だけの問題じゃないですよ。国軍も関わっていますからね。おそらくアリゾム山のミスリル鉱山狙いでしょうが、相当出費がかさんだはずです。ただじゃ帰れんでしょう」


「ここまで出張っておいて、ドワーフに負けて山を取られましたじゃあ。さすがに困るよな」


「とすると、援軍が森を抜け出る前にドワーフの王を倒す。バリイ領と国軍の選択肢は、そうなりますかね」


「一体どれだけの人間が死ぬか」


「どちらも追い込まれていますからね」


「ドワーフは、王が死んだらどうなるんだ」


「王の長男が跡を継ぐことになるんじゃないですか」


 ベネドは首をかしげた。ドワーフの王政についてはよく知らない。


「確か山に軟禁されていたよな」


「ええ、戦争に反対していたとか」


「じゃあ、今の王が死ねば、反戦派の長男が跡を継ぐかもしれないってわけか」


「かもしれません」


「腹心が指揮を執る可能性もあるな。王の敵を取るとか言って、戦争を続けるかもしれん」


「そうなると、泥沼ですね」


「フエネ平原にいる王の次男はどうなる」


「当然邪魔ですね。主戦派だし」


「やらなきゃならんか」


「ええ、今のところドワーフが降伏する可能性が無いですから、生かしておいても意味はありません。再びあそこに集まられでも、やっかいなことになりますから、できるだけ早く殺した方がいいですね」


「そうなるよなぁ」


 ザレクスは深々とため息をついた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色