第三十九話、追い打ち

文字数 1,719文字

「人間だけが、傭兵を雇うと思うなよ」


 ムコソルは笑った。近くの林に人間の傭兵を伏せさせていた。レマルクの騎馬隊に南に押し込まれているように見せかけ、傭兵を伏せさている位置まで誘い込んだ。

 ドワーフの足の遅さは十分承知している。それをカバーするために騎馬隊が必要であったが、手足が短い割に体重が重いドワーフにとって馬に乗って戦うという行為はかなり難しいものがあった。そこでムコソルは人間の傭兵を雇うことにした。騎馬隊主体の傭兵でそれ相応の強さがなければ意味が無かった。いくつか当たりをつけ、一角馬団という傭兵を雇うことにした。


 騎士の家の次男坊以下の食い詰めを積極的に集めて作った傭兵団で、全員乗馬と剣の訓練をそれなりに受けている。団長のマヨネゲル自体どこぞの騎士の三男坊らしい。

 足元を見られ、かなりふっかけられたが、契約金の半分をミスリルの武具で支払うことで合意した。その分ドワーフが身にまとう予定だったミスリルの防具が減ってしまったが、ミスリルの武具で武装した人間の騎馬隊を手に入れることができたと考えれば大幅な戦力増強となる。傭兵側も滅多に手に入らないドワーフ製のミスリルの武具を手に入れることができ、互いによい取引をしたと言える。

 追い打ちをかけるよう、ムコソルは命令を下した。







「ああ、まずいまずい、どうしよう。ひ、ひけぇ」


 レマルクの死が伝わり、騎馬隊が崩れたことを知った歩兵の指揮官は、撤退の指示を出した。北に逃げるかリボルがいる西に逃げるか少し悩んだが、ドワーフがいる西に逃げるより、野営した北にとりあえず逃げることにした。


 北に逃げる歩兵をベリジの部隊が追いかける。足の遅いドワーフの部隊は追いつけなかったが、ドワーフに雇われた傭兵団が馬で回り込んできた。馬で引っかき回され足が止まる。ベリジの部隊が追いつき挟み込まれる。


「誰か、騎馬隊を、騎馬隊の傭兵をなんとかしろ! 盾持ち、前線に出てドワーフを止めろ」


 混乱しながらも指揮官は指示を出した。レマルクを失い、混乱していた騎馬隊は少しずつまとまりだしたが、ムコソルの軍が取り囲んでおり、身動きできず一騎ずつ減らしていった。

 ゴプリとプレドは戦いっていた。

「軽くでいい、槍で突いて牽制しろ」


「は、はい」


 プレドはゴプリの指示通り、ドワーフに対して槍で何度かついた。ドワーフは鬱陶しそうに頭を下げ、斧で払おうとした。


「せくなよ。おまえの腕じゃあ返り討ちじゃからな。よし、少し下がれ」


 言われたとおりプレドが一歩下がると、一体のドワーフが前に出た。そこをゴプリが槍で一つきした。槍は左の首に突き刺さり引き抜くとドワーフは血しぶきを上げて倒れた。


「お見事!」


「うむ、だがもう、くたくたじゃあ」


 ゴプリは後ろに下がり槍にもたれかかった。顔色が悪く頬がこけていた。兵の数は多いが、新兵や退役兵などが多く、ドワーフの兵に圧倒されていた。移動しようとすると、ドワーフ側に雇われた騎馬隊の傭兵が襲いかかり、足が止まる。そこをドワーフに食いつかれる。そのくり返しだった。ドワーフの数も少しずつ増えている。

 レマルクが指揮していた騎馬隊が三十騎ほどまとまり合流した。


「よし、騎馬隊を牽制しろ! 北へ移動するぞ!」


 歩兵の指揮官はレマルクが指揮していた騎馬隊に命じた。ドワーフの雇った騎馬隊にレマルクが指揮していた騎馬隊がすれ違うような形で何度かぶつかる。兵の数が少ないためあまり強くはぶつからない。その間に、人間の歩兵は北へ移動する。行く手を遮るように、ムコソルの部隊が北に先回りしていた。


「逃がさんよ」


 ムコソルは盾とメイスを手に立ちはだかった。ドワーフは横に広がっている。


「突っ切れ!」


 ぶつかる。ムコソルと同じように盾を持ったドワーフがいる。突っ切ろうとする人間の歩兵を盾で押し返す。


「こりゃ下手にまとまるより、潰走した方がいいかもしれんな」


 ゴプリは槍を杖に息を切らせなら言った。人間の兵の方が数が多い。ばらばらに逃げればドワーフは追いつけないし、騎馬隊も的を絞れない。指揮官はそれに気づかず、何とか兵をまとめようとする。足が止まる。ベリジの部隊が追いつく。挟み込まれさらに数を減らす。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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