第六十二話、牧場跡、フエネ平原、援軍
文字数 2,363文字
リボルの顔色は悪かった。壁の補修はあらかた片付いた。
スタミンは顔を曇らせた。あれだけの身長さ体重差があっても、ベリジという名のドワーフには、まるで歯が立たなかった。
前線の指揮を執っているのはスタミンである。指揮を任せられる人間はあまりいない。
兵の数は十分足りているが、半数以上が傭兵や民兵である。連携がうまくいっていなかった。必ずどこかが崩れる。そこを固めようとするが、遅い。さらに崩れ、防衛線を引かざるを得ない。ずるずると下がりながら、壁を使い何とか守った。連携を強めようにも時間が無かった。
頭数だけ増やしても厳しいかと、亡くなった副官のレマルクの言葉を思い出した。
リボル側の騎馬隊は傭兵も合わせ、二百騎程度いたが、正面からぶつかっては、マヨネゲル率いるミスリルの武具に身を固めた傭兵の騎馬隊に手も足も出なかった。こちらの攻撃はミスリルの鎧に阻まれ、あちらのミスリルの槍は易々と通る。これでは勝負にならなかった。バナックがやったように、灰を投げつけ馬の目を潰すか逃げ回るしかなかった。
リボルは迷ったような目を見せた。
リボルは静かに答えた。
ザレクスは、やや、あきれた声を出した。
フエネ平原では、夜間以外は三交代で休み無く責め立てた。五日ほどになる。ドワーフは衰えることなく、対応していた。
ベネドが疲れた顔で言った。常に全力で攻めるというわけではなく、相手に隙ができた瞬間ねじ込むように攻撃を加えていた。攻めると見せかけ攻めないときもあった。
徐々にだが、ドワーフの防壁が削れていた。
特に大型のリザードマンの負傷者は多かった。丸太の先端を削り、ロープで持ち手を作った破城槌を、二列に並んだ大型のリザードマンに持たせた。その回りを盾を持った重装歩兵隊でかため、ドワーフの砦の扉に破城鎚をぶつけた。息を合わせリザードマンの力で二度三度打ち込むと木材を組み合わせた扉がひび割れ内側に曲がる。
当然ながら狙われる。
破城鎚を持った大型のリザードマンが、もう一方の手に鉄板を貼り付けた大盾を上げ砦に近づくと、攻撃が集中した。時々飛んでくる片腕のドワーフ、メロシカムが投げた石がやっかいだった。狙いも正確で、盾の隙間を縫って頭や膝を狙って投げてきていた。全身鱗に覆われているとはいえ、ろくな防具を着けておらず、頭に当たり昏倒するリザードマンもいた。
ベネドが言った。
ベネドは小声で言った。
ザレクスは戦況を見つめた。
ハイゼイツは兵を千人ほど連れ、食糧と物資を馬車に詰め込み、ギリム山から北西、ヘドリル山のふもとの狭い道を移動していた。ほぼ不眠不休の行軍であった。
道の真ん中が石で埋まっていた。
ドワーフの一人が石をどかそうと兵を集めた。
ハイゼイツが言った。
左手には川があり、右手は山の急斜面だった。まるで道を埋めるように石が転がっていた。
ハイゼイツは爪を噛んだ。
ヘドリ山の石で閉ざされた道の周辺を調べると、斜面の岩陰に岩石が積み上げているのを見つけた。人の姿はない。ハイゼイツは少し悩んだが、道を通っている最中に落とされる可能性を考え岩を落とすことにした。岩は斜面を転がり、いくつかの岩がさらに道を塞いだ。