第六十二話、牧場跡、フエネ平原、援軍

文字数 2,363文字

「ここまで手強いとは、数の力で何とか退けているが、このままではいずれ崩れる」


 リボルの顔色は悪かった。壁の補修はあらかた片付いた。


「面目ありません」


 スタミンは顔を曇らせた。あれだけの身長さ体重差があっても、ベリジという名のドワーフには、まるで歯が立たなかった。


「ドワーフ相手によくやってくれている。君がいなければ、もっとひどいことになっていた」


 前線の指揮を執っているのはスタミンである。指揮を任せられる人間はあまりいない。


「いえ、力及ばず」


「問題は練度だな」


「すぐには難しいかと」


 兵の数は十分足りているが、半数以上が傭兵や民兵である。連携がうまくいっていなかった。必ずどこかが崩れる。そこを固めようとするが、遅い。さらに崩れ、防衛線を引かざるを得ない。ずるずると下がりながら、壁を使い何とか守った。連携を強めようにも時間が無かった。

 頭数だけ増やしても厳しいかと、亡くなった副官のレマルクの言葉を思い出した。


「せめて騎馬隊が使えればいいのだが奴らがいるからな」


「ミスリルの武具を身につけた傭兵団ですね」


 リボル側の騎馬隊は傭兵も合わせ、二百騎程度いたが、正面からぶつかっては、マヨネゲル率いるミスリルの武具に身を固めた傭兵の騎馬隊に手も足も出なかった。こちらの攻撃はミスリルの鎧に阻まれ、あちらのミスリルの槍は易々と通る。これでは勝負にならなかった。バナックがやったように、灰を投げつけ馬の目を潰すか逃げ回るしかなかった。


「フエネ平原では、ドワーフが守りに入っているそうだ。しばらくは援軍は期待できない」


「こちらで踏ん張るしかないということですね」


「守り切れるのか」


 リボルは迷ったような目を見せた。


「ここが落ちれば、フエネ平原もアリゾム山も、危うくなります。耐えるしかありますまい」


「そうだな」


 リボルは静かに答えた。








「すさまじい体力だな」


 ザレクスは、やや、あきれた声を出した。

 フエネ平原では、夜間以外は三交代で休み無く責め立てた。五日ほどになる。ドワーフは衰えることなく、対応していた。


「こちらの方が先にへばりそうですよ」


 ベネドが疲れた顔で言った。常に全力で攻めるというわけではなく、相手に隙ができた瞬間ねじ込むように攻撃を加えていた。攻めると見せかけ攻めないときもあった。


「精神的には守っている方が疲れるはずなのだが、ドワーフは例外らしい」


「壁は削れていますよ」


 徐々にだが、ドワーフの防壁が削れていた。


「けが人が多いな」


 特に大型のリザードマンの負傷者は多かった。丸太の先端を削り、ロープで持ち手を作った破城槌を、二列に並んだ大型のリザードマンに持たせた。その回りを盾を持った重装歩兵隊でかため、ドワーフの砦の扉に破城鎚をぶつけた。息を合わせリザードマンの力で二度三度打ち込むと木材を組み合わせた扉がひび割れ内側に曲がる。

 当然ながら狙われる。

 破城鎚を持った大型のリザードマンが、もう一方の手に鉄板を貼り付けた大盾を上げ砦に近づくと、攻撃が集中した。時々飛んでくる片腕のドワーフ、メロシカムが投げた石がやっかいだった。狙いも正確で、盾の隙間を縫って頭や膝を狙って投げてきていた。全身鱗に覆われているとはいえ、ろくな防具を着けておらず、頭に当たり昏倒するリザードマンもいた。

「完全に狙われてますね」


 ベネドが言った。


「ああ、もうちょっとまともな鎧でも着ていてくれていたらよかったのだがな」


「下げますか」


「そうだな、リザードマンは下げ、破城鎚は重装歩兵隊にやらせるか」


「無理をさせるのも一つの手だと思いますよ」


 ベネドは小声で言った。


「だめだ。これは俺たちの戦だ。トカゲのしっぽに隠れているわけにはいかんだろ。それに、壁が崩れてからの方が本当の戦だ。それまで大型のリザードマンは温存しておきたい」


 ザレクスは戦況を見つめた。








 ハイゼイツは兵を千人ほど連れ、食糧と物資を馬車に詰め込み、ギリム山から北西、ヘドリル山のふもとの狭い道を移動していた。ほぼ不眠不休の行軍であった。

 道の真ん中が石で埋まっていた。


「落石ですかね」


 ドワーフの一人が石をどかそうと兵を集めた。


「待て」


 ハイゼイツが言った。


「どうしました」


「罠かもしれん。全員回りを警戒しながら互いの距離を少しとれ」


 左手には川があり、右手は山の急斜面だった。まるで道を埋めるように石が転がっていた。


「まったく、急いでいるというのに」


 ハイゼイツは爪を噛んだ。




「罠だって、ばれちまったようだぜ」
 斜面の岩陰に男が数人隠れていた。
「そのようだな」
 カルデは言った。二人は国軍の兵である。上司のモディオルに命じられ、騎馬隊百と歩兵二百を率い、北西ルートからくるかもしれないドワーフを足止めするよう命じられた。
「しかし、隊長の予想通りだったな。たいしたもんだ」
「いや、予測していたのは、ペックス様だ」
「あの、いかつい眉毛の軍事顧問かい」
「そうだ、いや、そういう言い方をするんじゃない。ペックス様が今回の作戦を考えられたのだ」
「ふーん、で、どうする。警戒されちまったようだぜ」
 ドワーフが道を塞ぐ瓦礫を除去している最中に斜面に隠している岩石を上から落とす計画だった。
「そうだな、見つかる前にとんずらするか」
「岩は落としていかないのか」
「今、落としてもたいして意味は無いだろう。それより見つかりたくない。次の場所に行くぞ」
「了解」







 ヘドリ山の石で閉ざされた道の周辺を調べると、斜面の岩陰に岩石が積み上げているのを見つけた。人の姿はない。ハイゼイツは少し悩んだが、道を通っている最中に落とされる可能性を考え岩を落とすことにした。岩は斜面を転がり、いくつかの岩がさらに道を塞いだ。



「ああ、もう、罠だよ。邪魔くそ!」
 ハイゼイツは悪態をつきながら、道を塞ぐ石を撤去した。
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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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