第五十二話、対応

文字数 2,240文字

「リザードマンが敵に回ったようだ」


 フエネ平原に陣を構えるダリムは見張り台の上から人間の様子を見ながら言った。


「ああ、一番やっかいなのが出てきたな」


 メロシカムは言った。


「ほう、どれどれ」


 ドロワーフは見張り台から身を乗り出した。


「狭いから暴れるなよ」


「おっ、ずいぶんでかいのがいっぱいいるじゃねぇか」


「でかい上に力も強い、やっかいだぞ」


「あの大きさなら、壁をよじ登って乗り越えてきそうだな」


 木材と石を使い、二メートル程度の壁で周囲を囲んでいる。人を想定して作っている。


「壁に近づいてきたら矢で射殺すか、中に引きずり込んで殺すか。どちらかだな」


「ばかでかい盾を持っているな。盾で矢を防ぎながら、壁に近づいてこられるとやっかいだな」


「壁は頑丈に作り込んでいる。ちょっとやそっとじゃ壊れない。壁を盾に一人ずつ始末していくしかないんじゃないか」


 戦闘がないあいだ、壁の補強にいそしんでいた。


「外でやり合えばいいじゃねぇか」


「相手は人間じゃないんだぞ。リーチも長いし力も強い。近づく前に槍でどつき殺されるだろうが」


 人間の腕力なら、兜の上から槍でいくら殴られても、平気だが、リザードマンの腕力となると自信が無かった。


「うまいことよければいいじゃないか。ひょいってな」


 ドロワーフは頭を左右に動かした。


「奴らは普段からモリを使って魚を突いているんだろ。槍の扱いには慣れているんじゃないか」


「魚突くのとドワーフ突くのと一緒にしちゃいけねぇ。漁と戦争は別もんだ。素早く近づいてドカンよ」


 ドロワーフはハンマーを振り回す仕草をした。


「狭いから暴れるな」


「リザードマンは寒さには弱いが暑さには強い。夏場の兵力としてリザードマンの需要はある。戦闘経験がないとはいえない」


「いくら頭で考えたってよ。わからねぇもんはわからねぇぜ。一度試しに戦ってみるしかねぇよ。そうじゃなきゃ作戦も立てられねぇだろう」


 ドロワーフは言った。


「うーん、どうする。残念だが、ドロワーフの言うことは一理あるぜ。いきなり決戦なんてことになるより、相手の力を推し量っておいた方がいいんじゃないか」


「確かにな、ドロワーフの言う通りかもしれん」


「だろ、俺に任せておけ」


「それが一番不安なんだよ」


 メロシカムは眉をしかめた。








 山の中腹から見ると遠くまでよく見えた。ギリム山から離れた西と南西の森に火が放たれていた。森は水を蓄え風を和らげ、食べ物を与えてくれる。ガロム達はギリム山のドワーフは、森を守るため、噴火したさいの溶岩の通り道を作り、噴火の被害をやわらげるよう、不眠不休で穴を掘っていた。最初から人間が森を燃やすことがわかっていたら、溶岩の通り道など掘らず、もっとたくさんの兵で攻め込むこともできた。ガロムは歯がみした。

「通れそうなところはなさそうだな」


 ガロムが言った。風もなく、火が森を静かに呑み込んでいた。

 


「近づけるところまでいってみましたが、道は完全に火でふさがってました」


 ガロムの部下が言った。国軍は森の街道を重点的に燃やしていた。


「森の中を突っ切るしかないんじゃないか」


 白髪のドワーフが言った。


「ハイゼイツ殿、それは難しい。火は広範囲にわたって放たれている。森を移動中に火に巻き込まれる可能性がある。火をかいくぐって兵が移動できたとしても、食糧が移動できない。背に物資を担いでもっていくことも考えたが、いくらドワーフの力が強くても、武器鎧を着けての移動となると、たいして運べない。兵が増えて食糧が足りなくなるなら、いない方がいい」

「だが、行かないことには、この戦は負けだ。雨が降る気配もない。いそがないと」


 ハイゼイツは鼻をむずむずと動かした。


「焦られる気持ちはわかるが、そう易々と討ち取られるような人たちではないでしょう」


「それはわかっておる。わかっておるが、心配なんじゃ。こんなことなら王とともに行くべきだった」


 体を揺らした。ハイゼイツは長年ドルフに使えてきた男だ。少し落ち着きのないところがあった。


「むしろ、問題はフエネ平原のダリム殿でしょう」


 伝書鳩を使って連絡は取り合っている。リザードマンが参戦したという話も聞いている。


「ダリムか、確かにそうだ。精兵とはいえ、数は少ない。何とかしなくては、森を迂回して、北側のルートをとればどうだ」 


「いけると思うが、ちと、遠回りになります」


「フエネ平原まで、どれぐらい時間がかかる」


「いくら急いでも十日ほど、ヘドリル山を通らなければならないので、かなり険しい道になるでしょう」


「わしにいかせてくれないか。ここで、待っているより動いた方がましだ」


「わかりました。援軍と物資を用意しましょう」


「おお、ありがたい。わしに任せておけ、なんとしても援軍と物資を届けてみせる。十日か、フエネ平原の連中がそれまでもってくれればいいが」


 ハイゼイツは、うろうろとその場を歩き始めた。








 ザレクスも、リザードマンの取り扱いに悩んでいた。傭兵として出稼ぎに出ていた者もいるらしく、個々の強さは目を見張るものがあったが、団体での戦闘となると、まとまりがなかった。装備も心許なかった。


「父上の知り合いとなると、捨て石にもできんしな」


 しばし悩み、いろいろ使ってみるしかないと結論づけた。

 ザレクスは胸元に手を入れ首から鎖でぶら下げているロケットを取り出した。少し大きく、手の平ぐらいの大きさである。ふたを開けると、女の肖像画があった。ザレクスの妻の肖像画である。

「マデリル」


 にやけた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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