第五十六話、埋葬
文字数 1,864文字
傷の手当てを行い食事をした後、ドロワーフ達は兵舎で集まった。
「ああ、まだ味わっちゃいねぇが、槍なんて目じゃねぇ。間違いなく、あれが本命だ」
「なら次は間隔を開けて、包み込んでくる可能性があるな」
「間隔を開けたところで振り回す武器は、難しいぞ。斧ぐらい短ければ別だが、あんな長ぇもん戦場じゃ使いにくい。上から叩きつけてくるだけだったら、軌道が読みやすいからなんとかなるんじゃないか」
「だが、槍と組み合わせられるとやっかいだぞ。手数が増える」
「力が強いし、上背がありますから、なかなかの攻撃力です。ただ、まとまりがなく、技術的にはたいしたことが無いので盾を使えばしのげます。統率がとれている人間の方がやっかいですね」
「脅威になるのは大型のリザードマンか。小型のリザードマンは参加しなかったようだが、予備兵と考えればいいのだろうか」
「だろうな、まだ若いリザードマンなんだろう。経験を積ませるために連れてきたんじゃないか」
「次出てくるときは、尾による打撃も戦術に組んでくるだろう。外に出て戦うのは不利なのかもしれんな」
「おいおい、また籠もるのか。そんなんじゃいつまで経っても勝てないぞ」
「俺たちの目的は勝つことじゃない。相手の、のど元で敵を引きつけることだ」
「しかしよー、この壁じゃ乗り越えてくるんじゃないか」
「だが、しっぽによる打撃の心配はしなくてすむ。しばらくは壁を盾に相手の出方を見る」
メロシカムは眉をしかめた。援軍は当面期待できない。壁は厚みを増したとはいえ、いずれは崩れる。
「そのうち火は消えるだろう。壁が崩れればうって出ればいい。壁があるうちは無理をする必要性はない。ああ、それから、トンペコ、よくドロワーフを止めてくれた。礼を言うぞ」
ダリムが肩を叩くと、トンペコはげんなりとした表情をした。
ピラノイは何に怒ればいいのかわからなかった。
亡くなった仲間の遺体を埋めていた。十八人のリザードマンが死んだ。怪我をしたものの数はもっと多い。死者はもう少し増えるかもしれない。亡くなったリザードマンの中には知りあいもいた。
ドワーフに殺されたのだから、ドワーフを恨めばいい話なのだが、リザードマンは湖の漁業権欲しさに人とドワーフの争いに首を突っ込んだのだ。ドワーフが悪いとは言えない。
人にだまされたというわけでもなかった。取引なのだ。
魚が捕れなければリザードマンはいずれ死に絶える。人の法の下で、自らの利益を確保するため取引を行い戦争に参加したのだ。長老達の判断も間違ってはいない。
にもかかわらず、ピラノイは怒りを抱えていた。何が悪いとは明確に言えなかった。ただ、その結果が。
ルドルルブがいった。ザレクスとルドルルブは、たき火の前で話していた。夜、兵を交代で休ませていた。
ザレクスは見上げた。人としてザレクスは大きい方だったが、ルドルルブとくらべるとずいぶん小さかった。
「我らの背の半分ほどしかないはずなのに、その力は我らと変わらぬ。我らより力が強い者もいた」
「あの赤毛のドワーフは別格ですよ。ちょっと手がつけられない」
「それよりもドワーフ相手に崩れなかったことが重要です。我々は鉄の板を張り付けた盾を使っています。それでも、あのドロワーフとかいう、赤毛のドワーフには、壊されますがね」
「鉄の板か。我々の盾にもつけてもらえないだろうが」
「なるほど、いくつかできるかもしれませんが、正直時間がおしい。奴らの援軍が来る前に決着をつけておきたいので、あまり数は用意できませんがよろしいですか」
ザレクスはリザードマンの長盾に鉄の板を張り付けるよう指示を出した。
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