第五十六話、埋葬

文字数 1,864文字

「あのしっぽは、やばいな」


 傷の手当てを行い食事をした後、ドロワーフ達は兵舎で集まった。


「それほどのものか」


「ああ、まだ味わっちゃいねぇが、槍なんて目じゃねぇ。間違いなく、あれが本命だ」


 ドロワーフは少しうれしそうな顔をした。


「密集隊形が原因で使いづらかったということか」


「俺らと一緒だな、斧振り回すから詰めて並べねぇ」


「なら次は間隔を開けて、包み込んでくる可能性があるな」


「間隔を開けたところで振り回す武器は、難しいぞ。斧ぐらい短ければ別だが、あんな長ぇもん戦場じゃ使いにくい。上から叩きつけてくるだけだったら、軌道が読みやすいからなんとかなるんじゃないか」


「だが、槍と組み合わせられるとやっかいだぞ。手数が増える」


「なるほど」


「中型のリザードマンはどうだった」


 ダリムはトンペコに聞いた。


「力が強いし、上背がありますから、なかなかの攻撃力です。ただ、まとまりがなく、技術的にはたいしたことが無いので盾を使えばしのげます。統率がとれている人間の方がやっかいですね」


「脅威になるのは大型のリザードマンか。小型のリザードマンは参加しなかったようだが、予備兵と考えればいいのだろうか」


「だろうな、まだ若いリザードマンなんだろう。経験を積ませるために連れてきたんじゃないか」


「次出てくるときは、尾による打撃も戦術に組んでくるだろう。外に出て戦うのは不利なのかもしれんな」


「同感だな。壁を盾に戦った方がいい」


「おいおい、また籠もるのか。そんなんじゃいつまで経っても勝てないぞ」


「俺たちの目的は勝つことじゃない。相手の、のど元で敵を引きつけることだ」


「しかしよー、この壁じゃ乗り越えてくるんじゃないか」


 二メートル程度の高さしかない。


「だが、しっぽによる打撃の心配はしなくてすむ。しばらくは壁を盾に相手の出方を見る」


 つまらんねぇ、とドロワーフはそっぽを向いた。


「問題はどこまでもつかだな」


 メロシカムは眉をしかめた。援軍は当面期待できない。壁は厚みを増したとはいえ、いずれは崩れる。


「そのうち火は消えるだろう。壁が崩れればうって出ればいい。壁があるうちは無理をする必要性はない。ああ、それから、トンペコ、よくドロワーフを止めてくれた。礼を言うぞ」


「ええ、まぁやるといいましたからね」


 トンペコは鼻をぴくぴくと動かした。


「これからも頼むぞ」


 ダリムが肩を叩くと、トンペコはげんなりとした表情をした。





「くそ」


 ピラノイは何に怒ればいいのかわからなかった。

 亡くなった仲間の遺体を埋めていた。十八人のリザードマンが死んだ。怪我をしたものの数はもっと多い。死者はもう少し増えるかもしれない。亡くなったリザードマンの中には知りあいもいた。

 ドワーフに殺されたのだから、ドワーフを恨めばいい話なのだが、リザードマンは湖の漁業権欲しさに人とドワーフの争いに首を突っ込んだのだ。ドワーフが悪いとは言えない。

 人にだまされたというわけでもなかった。取引なのだ。

 魚が捕れなければリザードマンはいずれ死に絶える。人の法の下で、自らの利益を確保するため取引を行い戦争に参加したのだ。長老達の判断も間違ってはいない。

 にもかかわらず、ピラノイは怒りを抱えていた。何が悪いとは明確に言えなかった。ただ、その結果が。


「くそ」


 なのである。




「恐ろしく強いものだな、ドワーフは」


 ルドルルブがいった。ザレクスとルドルルブは、たき火の前で話していた。夜、兵を交代で休ませていた。


「ええ、やっかいなことにそうなんですよ」


 ザレクスは見上げた。人としてザレクスは大きい方だったが、ルドルルブとくらべるとずいぶん小さかった。


「我らの背の半分ほどしかないはずなのに、その力は我らと変わらぬ。我らより力が強い者もいた」


「赤毛のドワーフですね」


「ああ、何人も仲間がやられた」


 ルドルルブは目を細め鼻息を一つ出した。


「あの赤毛のドワーフは別格ですよ。ちょっと手がつけられない」


「あのまま戦っていたら私も殺されていただろう」


「それよりもドワーフ相手に崩れなかったことが重要です。我々は鉄の板を張り付けた盾を使っています。それでも、あのドロワーフとかいう、赤毛のドワーフには、壊されますがね」


「鉄の板か。我々の盾にもつけてもらえないだろうが」


「なるほど、いくつかできるかもしれませんが、正直時間がおしい。奴らの援軍が来る前に決着をつけておきたいので、あまり数は用意できませんがよろしいですか」


「それでいい。よろしく頼む」


 ザレクスはリザードマンの長盾に鉄の板を張り付けるよう指示を出した。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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