第六十六話、牧場跡、アリゾム山
文字数 2,248文字
ロワノフはつぶやいた。
マヨネゲル率いる傭兵の騎馬隊は、ほぼ全滅した。生き残ったものは捕虜になった。
逃げる人間の兵に追いつき、多少の打撃を与えたが、失ったものは大きかった。
ロワノフは顔をしかめた。
牧場跡の守りは、当然ながらすべて人間に合わせて作られている。ドワーフにとっては使い勝手が悪かった。食糧のたぐいもほとんど無かった。あらかじめ、逃げることを想定していたということになる。
オオカミ避けに作られた石壁はドワーフにとっては、高く、人間にとっては低い高さであった。守る側に変わってもそれは変わらなかった。
さほど広い牧場跡というわけではないが、ドワーフの兵は千三百人程度しかいない。
この拠点をとるために大勢のドワーフが血を流した。
「難しいところだな、リボルの兵がまだずいぶん残っている。西はオラノフに任せておけばいいだろう。北上し、ダレムに援軍を送りたいところだが、中途半端な兵力では騎馬隊に潰される。マヨネゲルの騎馬隊が消えたのは痛い」
人間の歩兵は何人いようがドワーフにとってはさほどの脅威ではない。問題は騎馬隊だ。歩兵で足止めされ騎馬隊に切り刻まれる。前に進むのは難しくなる。マヨネゲルの騎馬隊がいれば、少数の歩兵でも、敵の騎馬隊に対応することができた。
北東に国軍もいる。
ドルフは空を見た。日差しは薄く、雲が少し出ていた。
北、フエネ平原、ダレムがつぶやいた。
メロシカムが答えた。
重装歩兵隊が破壊鎚で扉を破った、なだれ込んできた重装歩兵隊をドロワーフが一人で押さえた。ちょうど兵を交代させようとしていたため、手薄になっていた。
連日の攻撃にさすがのドワーフも皆疲れていた。
あいつのおかげで命拾いした。ダリムは付け加えた。
ダレムはドルフ王の次男である。連絡は伝書鳩と鏡の反射を使った信号をつかって取り合っている。
眉をしかめた。
少し笑った。
アリゾム山、山中、オラノフ達は周囲を警戒しながらも、狭い山道を行軍していた。今だアリゾム山山岳部隊との交戦はない。
音がした。何かを切ったような音。ドワーフの兵が飛ばされた。山の木の隙間から丸太が滑るように落ちてきた。一本ではない。山の斜面、複数の丸太が木と木の隙間を抜け滑り落ちてきた。
と、オラノフは言った。避けろではなく、受けろと言った。滑り落ちる丸太をドワーフの兵は鎧の胸当てで受け止めた。何人かの兵がはじき飛ばされた。
山の斜面、木と木の間から二十人ほどの人間が滑り落ちるように現れた。
ドワーフの兵が身構えた。
人間の兵は矢をつがえていた。
放たれた。
矢は木々の間をすり抜け、オラノフに向かった。
オラノフはなぎなたを短めに持ちはじいた。
静かに、木々の間をすり抜けるように人間の兵は退いた。
ノードマンは言った。
ゴキシンが記録したものに、この罠は無かった。
ゴキシンは言った。