第四十四話、火
文字数 1,817文字
カルデは言った。
モディオルは目を細めた。煙が辺りに充満している。
森が燃えていた。モディオル達が燃やしたのだ。
モディオルの部下であるスルガムヌは油壺をくくりつけた火矢を放ちながら言った。
ギリム山から二十キロほど離れた南の森である。
ここ、だけではない。モディオルは部下に命じて、ギリム山周辺の森とドワーフの軍につながる道に火を放った。
冬になると、暖房用の薪が必要になる。
ギリム山周辺に火を放ち援軍を止める。最初、モディオルが軍事顧問のペックスに、この策をつげられたとき、カルデと同じような反応だった。他に方法がないと言われれば、確かに方法はなかった。
スルガムヌはゲラゲラと笑った。
カルデは山育ちだ。木の大切さをよくわかっている。
カルデはしぶしぶ、油壺をつけた火矢を森にはなった。
最初にその異変に気づいたのは、物資の運搬を手伝っていたジクロだった。道中馬車では通りにくい難所が何カ所かあった。荷を馬車から運搬用のゴーレムに入れ替え運んでいた。険しい坂道になっている。煙の筋が、いくつか見えた。森の方からである。それは徐々に増え、大気は熱を帯びた。
ムコソルは日の落ちた東の空を見ながら行った。赤く燃えていた。
ドルフは怒りに顔をゆがめた。山に住むドワーフにとって木は大切なものだ。信仰の対象にもなっている。
ギリム山からここまで、森を通った道を使っている。森の中を通らねば、ここに来るのは難しい。それは、フエネ平原方面でも同じことだった。
リボルも東の空を見ていた。
スタミンは困惑した表情を浮かべた。
民は困るだろうがな。リボルは付け加えた。
「食糧も援軍も期待できないとなれば、犠牲を気にせず、ここを、一挙に攻め潰そうとするかもしれん。もしくは、兵を一部のこし、我々を無視して、アリゾム山に向かう。あるいは全軍アリゾム山に向かうという選択肢もある」
「ここにとどまるしかあるまい。数で勝っているとはいえ、ドワーフ相手に兵を分けるような余裕はない。アリゾム山に向かうドワーフに追っ手を出しても、返り討ちに遭うだけだ。ドワーフが北上する可能性もある。アリゾム山にさく兵力は残念ながら無い」