第六十四話、牧場跡、力押し

文字数 1,896文字

 フエネ平原南、牧場跡、ドワーフの兵は、土嚢に作った拠点に梯子や弓矢を運び込んでいた。
「近いな」
 牧場跡の石壁から、二百メートルほどの距離にドワーフたちは拠点を作っていた。矢で牽制しているがあまり効果は無い。

「あそこから、順次攻められると、かなり厳しいことになりそうですね」


 今までは、ドワーフの兵は塊となって攻めてきていたが、拠点を作ることによって、持続して攻めることができる。


「かといって、あれをつぶせるだけの兵力は無い」


 拠点をつぶすために、牧場跡の外へ出なければならない。それこそドワーフの思うつぼである。

「耐えるしかなさそうですね」


 スタミンはつらそうな顔をした。


「耐えきれるのか」


 沈んだ声を出した。



 昼が過ぎ体制が整ったのか、ドワーフは戦支度を始めた。牧場跡から見て、南と東に五百人ずつ兵を集めた。土嚢で作った拠点にいるドワーフが土が入った土嚢袋を振り回し、放り投げた。土嚢袋は放物線をえがき、石壁の前で落ちた。二百メートルほど離れているが易々と届いた。拠点のドワーフたちは石壁目がけ土嚢袋を振り回し投げた。


 石壁周辺は土嚢で埋まった。取り除こうとしたが取り除く速度より投げてくる速度の方が早く取り除けなかった。東の五百が前に出た。人間の兵は矢を放つが盾に拒まれる。ゆっくりとその短い足で、ドワーフの兵が近づいてくる。

 東からきたドワーフの兵五百は、石壁の前に重なった土嚢をふみ、石壁を乗り越えてくる。人間の兵は槍で突く、ドワーフは斧を振るう。南のドワーフはまだ動かない。

 徐々に人間の兵は耐えられなくなっていく。


「退け、後ろに下がれ」


 スタミンは兵を後ろの壁に下がらせた。土嚢と木材を使い、その回りには溝を掘っている。

 五百のドワーフは、すぐに攻めず、石壁に投げ積まれた土嚢袋を手にそれを溝に投げた。何カ所かの溝が埋まった。拠点から若いドワーフの兵が梯子持ってきた。それを次々と渡していく。


 その間、人間の兵は盛んに矢を放つが、盾に拒まれ、鋼の鎧兜にはじかれ、たまに刺さるが、命に別状がなければいいと、ドワーフは、さほど気にした様子もなく、体に刺さった矢をへし折り作業を進めた。



 梯子を使い壁をのぼる五百の兵の側面から叩こうと、人間の兵が北側から回り込み矢を放った。何人か横から射られ梯子から落ちる。盾を持ったドワーフの兵が、一部北側に移動する。その兵を壁の内側から人間の兵が矢を射かける。

 南にいたドワーフの兵五百が前に出た。ベリジが先頭に立っていた。両手に戦鎚をもっている。


「先頭のミスリル合金の鎧を着たドワーフを狙え」


 スタミンは命じた。

 ベリジが石垣を乗り越えたところで、複数の矢が飛んできた。ベリジは頭を下げ、戦鎚を顔の前に出した。クロスボウから放たれた矢は、ベリジの鎧兜と戦鎚にはじかれる。

 矢は連続して放たれる。すべてベリジに集中している。


「こざかしい!」


 矢を両手の戦鎚ではらいながら、前に進む。


「だめか」


 これだけの数の矢を受けながら、ベリジはほとんど無傷だった。いくつか、鎧の隙間に引っかかるように突き刺さったようだが、鎧の下に鎖帷子でも着ているのかダメージを受けた様子はなかった。

 ベリジは土嚢の壁にたどり着き、飛び上がった。両手に持つ戦鎚を短めに持ち、先端が尖った部分を、土嚢の壁に突き刺した。交互に戦鎚を突き刺し土嚢の壁をよじ登った。

 よじ登るベリジに、人間の兵は槍を逆手に突き刺した。ミスリルの兜に当たりはじかれる。気にせず、のぼってくる。人間の兵は恐怖に駆られ槍を振り下ろす。背を頭を槍で叩く。


「痛えじゃねぇか」


 ベリジはよじ登り、お返しとばかりに戦鎚の尖った部分で人間の兵の太ももを突き刺す。


「ひぃいい」

 悲鳴が上がる。


「どけ!」


 スタミンが駆け寄り、槍をベリジの頭目がけ両手で振る。ベリジの兜、後頭部に当たる。首がかしげる。


「おまえさんか」


 上を向き、ベリジが笑う。


「くそ!」


 スタミンは太ももを戦鎚で貫かれた兵のベルトを掴み、壁の下に投げ落とした。兵の太ももに戦鎚が深く刺さっていたため、つられてベリジも落ちた。 


「すまんな」


 落ちた兵に向かって言った。 



 南と東、兵を時々休ませながら、ドワーフは攻め続けた。

 防壁は崩されていく。


「これが本物の力押しか。これだけの数で守れば何とかなると思っていた自分が恥ずかしい」


 数の上ではまだまだ圧倒的に上だが、壁を崩されると、兵がおびえた。


「がんばってはいますが、難しい状況かと」


 ドワーフにも相当数の犠牲が出ている。


「ここを捨てるぞ」


 撤退する準備は内々に進めていた。


「はっ」


 スタミンは答えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色