第八十五話、懸念

文字数 1,276文字

「国軍の連中は、何を考えているだ」


 アリゾム山山岳部隊のファバリンは胸の傷を押さえ顔をしかめた。


「何度も、こちらに来ていただけるように使者を出したのですが、無用だと断るばかりです」


 エンペドはあきれた表情を見せた。


「それで何で山の砦を攻めているんだ」


「燃やした砦をドワーフから取り返そうとしているみたいです」


「何でそんなことを国軍はしようとしているんだ」


「さぁ、わかりません」


「手柄を焦っているのか」


「いえ、なんというか、手柄を焦っているという感じではなかったですね。どこかのんびりとした雰囲気というか、ただ、こちらのことを警戒しているようでした」


「ドワーフじゃなくて、俺たちをか」


 ファバリンは驚いた表情を見せた。


「ええ、そんな気がしました」


「訳がわからんな」


 ファバリンは顔をしかめた。


「しかし、お頭、取り返せるなら、それはそれでいいんじゃないんですか。多少は犠牲は出るでしょうが」


 デノタスが言った。


「司令官と言え。柵や建物を焼いたとはいえ、道は一本しかなく、背後は崖だ。力づくで取り返そうとすればかなりの犠牲が出る。すぐには落ちないだろう。その間に、砦の外にいるドワーフに背後を襲われることになる。そもそもあそこは千人の兵が立てこもれるような場所じゃない」


「それは、だめですね」


「なんとかしないと、負けちまうぞ」








 ダナトリルがアリゾム山山頂を攻めていると聞き、ペックスも驚いていた。


「無理に攻めるなと言っておいたはずなのだが、人選を誤ったか」


 ダナトリルは臆病な男で、このような行動を起こすとは思ってもいなかった。アリゾム山に関しては膠着状態に持ち込み、その間に牧場跡のドワーフを片付ける。ペックスはそう考えていた。

 


「手柄でも焦ったんですかね」


「利権か。アリゾム山の利権に欲を出したのかもしれないな」


 確か名ばかりの名家で、懐事情はそれなりに厳しかったはずだ。


「派手に負けたりしたら、士気が落ちますね」


「そうだな。東側からドワーフの援軍、西のアリゾム山では国軍の敗北、追い込まれてしまうな」


「どうします。引くようにアリゾム山に早馬を飛ばしますか」


「今更、手遅れだろうが、まぁ一応伝令は出しておくか、それより、問題はこちらの方だ」


 三日ほど夜間以外は休み無く攻めているが、牧場跡は落ちてはいなかった。最初の頃は鎌槍の働きに翻弄されていたドワーフだったが、徐々に慣れていき、あまり効果は無くなっていた。人間の兵の犠牲はずいぶん増えていた。


「じわじわとですが追い込んでますよ。特に東側はもうすぐ崩れそうです」


 牧場跡のドワーフを北と東と西から攻めていた。


「倒せそうな感じはするが、果たして倒してしまっていいのかどうか。それがわからんな」


 ドワーフの王を倒した後の和平交渉の心配をしていた。


「倒せなかった場合どうなりますか」


「二万のドワーフが駆けつけてきて、我々を蹴散らし、ドワーフはそのまま西へ、アリゾム山へ移動し、そこに新たな国を建てることになるだろうな」


「では、倒すしかないのでは」


「そうだよな」


 何度もこの話をしているが、すっきりしなかった。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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