第四十三話、取引の材料

文字数 1,863文字

「よくやった。見事な戦いっぷりだったぞ」


 スタミンは帰ってきたバナックを褒めた。


「へぇ、どうも」


 バナックは笑いながら頭をかいた。


「まさかあのような戦い方があるとはな、我々も見習わなければならないな」


 リボルは言った。

「へへっ、そんな俺の戦いなんて、へへっ、泥臭いだけですよ」


 褒められ、うれしそうに笑った。


 とはいえ戦況は厳しかった。レマルクの騎馬隊はほぼ全滅した。レマルクの後を継いだ歩兵の指揮官は凡庸だと聞く。けが人も多く、半数ほどの数に減ってしまった。騎馬隊がいないのであれば北に残しておく必要性もないため、リボルはこちらに合流させるつもりだった。三十騎ほどに減ったバナックの騎馬隊は、バナックに任せることにした。


 兵の数は合わせて四千人程度、まだドワーフの倍以上いる。だが、ギリム山には二万近くのドワーフがおり、フエネ平原にも四百人程度いる。守りに入っているだけでは勝ちはまず無い。かといって、ドワーフにも騎馬隊がいるため騎馬隊を使ってドワーフを崩すという作戦が使えない以上、勝ちは薄い。


(どうしたものか)

 レマルクに相談できればと、リボルは思った。








「騎馬隊というものは強いものなのだな」


 ドルフとムコソルは幕舎で話していた。


「ええ、どちらにとっても」


「今回は、我々に利したようだ」


「そうですね」


「レマルクといったか。騎馬隊と騎馬隊の指揮官を葬れたのは大きい」


「ええ、これでずいぶんやりやすくなります」


 背後を騎馬隊で襲われる心配は無くなった。


「あの、マヨネゲルとか言う傭兵、存外働き者だ」


「ミスリルの武具を与えたのがよかったのでしょう。あれは人の欲を刺激しますから」


「なるほど、手柄を立てればいくらでもくれてやると伝えておけ」


「喜ぶでしょう」


「しかし皮肉なことだな。人とドワーフ、協力してこそ、大きな力が出せる」


「ええ、昔からそうです」


 ムコソルは目を伏せた。








 バリイの領主の館に、ザレクスの父、オラム砦の副司令官であるジダトレが訪れていた。


「サロベル湖のリザードマンか」


 領主のイグリットは思案下につぶやいた。


「ええ、彼らなら十分な戦力になります」


 ジダトレはサロベル湖のリザードマンに援軍を頼むという案を領主であるイグリットにした。


「それはわかるが、ただでは味方にはならないだろう」


 金は、無かった。戦は金がかかる。元から裕福な領地ではない。ドワーフとの戦で資金を使い果たし商人に借金までしている。


「そりゃあ、まぁそうでしょう」


 そこが問題だった。

「どうしたものか」


「その、とりあえず頼んでみるというのはどうでしょう」


「頼む? 頭を下げ、人間のために戦ってくれと、そんなもので戦ってくれるなら、いくらでも下げるが、まぁ無理だろうな」


 リザードマンはあまり感情的な生き物ではないと聞いている。しかも他種族の問題だ。情に訴えてどうかなるものではないだろう。脅すのは最悪な手だ。逆にドワーフに味方しかねない。


「何か取引できる材料でもあればいいのですが」


「取引か、確か、サロベル湖は、何かもめていたな。リザードマンが魚を捕りすぎているとか何とか」


 実際は逆である。サロベル湖の人間の漁師が網に使って乱獲したことにより魚の数が減っている。それを、サロベル湖の漁師がリザードマンの所為にしていた。


「ええ、魚のことで、漁師から、取れる量が減ったから何とかしてくれと陳情がありました」


「魚の数が減ったか。そういうことなら、リザードマンも困っているだろうなぁ」


「それは、まぁそうでしょう。リザードマンは魚が主食のようですから」


「漁業権を餌に味方につけられないか」


「リザードマンにですか」


「おそらく人間の漁師との間で魚の奪い合いが起きているのだろう。ならそれを解消してやればいい。サロベル湖の漁業権を一定数認めるから、人間の味方をして欲しい。それならどうだ」


「よい考えかと、それなら、交渉の余地が生まれます。それで、いかほど、与えるおつもりですか」


「時間が無い、落としどころとしては、半分。最悪、サロベル湖を全部くれてやってもいい」


「しかし、それではサロベル湖の漁師が干上がってしまいます」


「仕方ないだろ。ドワーフが攻めてくれば、どのみち何もかも失う。奴らを何とかしないと、湖の一つや二つですむなら安いものだ」


 申し訳ないとは思うよ。イグリットは付け加えた。


「それで、誰が行くのですか」
 交渉ごとなどジダトレは不向きだ。
「ふむ、私の息子をいかせよう。あれは法律を学んでいる。それなりの事務経験も積ましている。君も一緒に行ってくれ」
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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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