第四十三話、取引の材料
文字数 1,863文字
スタミンは帰ってきたバナックを褒めた。
バナックは笑いながら頭をかいた。
褒められ、うれしそうに笑った。
とはいえ戦況は厳しかった。レマルクの騎馬隊はほぼ全滅した。レマルクの後を継いだ歩兵の指揮官は凡庸だと聞く。けが人も多く、半数ほどの数に減ってしまった。騎馬隊がいないのであれば北に残しておく必要性もないため、リボルはこちらに合流させるつもりだった。三十騎ほどに減ったバナックの騎馬隊は、バナックに任せることにした。
兵の数は合わせて四千人程度、まだドワーフの倍以上いる。だが、ギリム山には二万近くのドワーフがおり、フエネ平原にも四百人程度いる。守りに入っているだけでは勝ちはまず無い。かといって、ドワーフにも騎馬隊がいるため騎馬隊を使ってドワーフを崩すという作戦が使えない以上、勝ちは薄い。
レマルクに相談できればと、リボルは思った。
ドルフとムコソルは幕舎で話していた。
背後を騎馬隊で襲われる心配は無くなった。
ムコソルは目を伏せた。
バリイの領主の館に、ザレクスの父、オラム砦の副司令官であるジダトレが訪れていた。
領主のイグリットは思案下につぶやいた。
ジダトレはサロベル湖のリザードマンに援軍を頼むという案を領主であるイグリットにした。
金は、無かった。戦は金がかかる。元から裕福な領地ではない。ドワーフとの戦で資金を使い果たし商人に借金までしている。
リザードマンはあまり感情的な生き物ではないと聞いている。しかも他種族の問題だ。情に訴えてどうかなるものではないだろう。脅すのは最悪な手だ。逆にドワーフに味方しかねない。
実際は逆である。サロベル湖の人間の漁師が網に使って乱獲したことにより魚の数が減っている。それを、サロベル湖の漁師がリザードマンの所為にしていた。
申し訳ないとは思うよ。イグリットは付け加えた。