第六十三話、アリゾム山、フエネ平原の攻防

文字数 2,036文字

 スープの中にはわずかな肉が入っていた。味も薄い。ゴキシンが取ってきたのか、山菜が入っていた。アリゾム山の中腹でドワーフの兵が食事をしていた。

「やはり苦いな」


 オラノフは緑色の細い山菜をつまみながら言った。


「オロノフ様、少しお話が」


「どうしたノードマン」


 ノードマンはオラノフが軍人であった頃からの部下である。


「ゴキシン殿のことですが、信用してもいいんですか」


 ノードマンはオロノフの近くに座り小さな声でしゃべった。


「ゴキシンか、グルミヌの手のものであるというのは少し気になるが、信用してもいいと思っている。何かあるのか」


 実際のところ、どこか信用できない部分があったが、部下に余分な疑惑を植え付けかねないと、ひかえた。


「裏切るとまで思ってはいませんが、ゴキシン殿は、人と、いすぎたのでは、五十年は長い、情が移ってしまうこともあるのでは無いでしょうか。どこかでそれが徒となることもあるのではないでしょうか」


 ノードマンは真剣な面持ちで言った。ゴキシンには、ときどき、アリゾム山の山岳部隊を懐かしむような言動があった。


「ふふっ、あるかもしれんな」


「なら、あまり信用なさらぬ方が」


「それを言うなら、私たちも同じではないか」


「どういうことです」


「軍人として人に使えていた」


「確かに」


 目をそらした。あまり思い出したくもない記憶もあった。


「人とドワーフの縁は深い。よき隣人であり、友でもある。我らにとって、それが徒となることもあるだろう。そういうこともある。そう思うしかないだろうな」


 オラノフは言った。








 フエネ平原では、大型のリザードマンが、手槍を投げていた。

 ルドルルブがザレクスに手槍を投るのはどうだろうがと提案した。リザードマンは銛で魚を突くため、手槍の技術を持っていた。ザレクスはおもしろいと、試してみることにした。

 重装歩兵を前に進ませ、少し離れたところから、盾を持った大型のリザードマンが、ドワーフの矢を防ぎながら、手槍を防壁の上にいるドワーフに向かって投げた。壁の高さは二メートル前後、三メートル前後の大型リザードマンの方が高い。ミスリル合金の鎧を身につけたドワーフに、致命傷とはならないが、上から、うち付けるように投げられた手槍に当たったドワーフは、防壁の上から落ちた。手槍の補給は、小型のリザードマンが行った。


「ほう、いいじゃないか」


 手槍でひるませている間に、重装歩兵隊は近づき、破城鎚を扉に打ち込んだ。幾度か打ち付けていると、扉のかんぬきがへし折れる音がした。

 扉が内側に開いた。

 重装歩兵隊がなだれ込む。

 吹き飛んだ。

 鎧兜に鉄の板を張った盾を持った大柄の重装歩兵が一人、後ろに吹き飛んだ。


「へんぐらー!」


 扉の内側でドロワーフが待ち構えてた。ハンマーを振るう。縦に貼り付けた鉄の板が歪み、中の木材が割れる。重装歩兵隊は砦の中に入り、左右に展開し、兵を送り込む。ドロワーフは少し下がりながらも、ハンマーを振るう。重装歩兵隊はそれに耐えながらも少しずつ中に入り込んでいく。それをさせじと、ドワーフとの押し合いになる。

 どうしたものかと、ザレクスは悩んだ。

 重装歩兵隊が中に入り、盾を構え拠点を確保し、兵を送り込んでいく。そのまま総攻撃を仕掛け押しつぶせばいいのだが。


「待ち伏せっぽいよな」


 つぶやいた。

 相手はドワーフだ。しかもミスリルの鎧を着ている。兵を中に入れ、少数対少数に持ち込まれれば、不利になるのは人間の方だ。砦の中となると、大型のリザードマンも動きにくい。扉が開いたのも怪しい。何か策があるのでは無いかと、不安になった。


「そうじゃない可能性もありますよ」


「そうなんだよな」


 慎重に行きたいところだが、時間を掛ければ、ドワーフの援軍が来る。ひょっとしたら二度来ないチャンスなのかもしれない。だが、失敗したら、砦をつぶせるだけの兵力を失うかもしれない。

 扉を壊し中に重装歩兵が入っている。歩兵に梯子を持たせ、大型のリザードマンに、壁を乗り越えさせ、一気に攻めれば、かなりの犠牲は出るが、落とせる。かもしれない。この戦いが終われるのだ。

 悩んだ。

 奇声と共に、また一人、重装歩兵が飛んだ。


「退かせろ」


 命令した。








 フエネ平原から南、牧場跡、夜、暗闇の中、かがり火の光から外れたところで、ドワーフが何かをしていた。

 人間の兵がたいまつを投げた。

 半円状に矢盾が建てられていた。その後で、ドワーフたちは土嚢を積み上げていた。

 人間の兵は、矢を斜め上に放ち、矢を上空から落とした。ドワーフは棒のついた木の板を上に掲げ防いだ。土嚢は着々と積み上げられていく。


「攻める。わけにもいかんよな」
 リボルは悔しげにつぶやいた。

 暗闇である。どれだけの伏兵が隠れているのかわからない。

 ドワーフが落ちているたいまつに近づき、足で火を消した。暗闇の中、土嚢を積み上げる音が聞こえた。

 朝になると、牧場跡地の壁の近く、南と西に二つ、土嚢を積み上げ壁にした拠点ができていた。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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