第六十三話、アリゾム山、フエネ平原の攻防
文字数 2,036文字
オラノフは緑色の細い山菜をつまみながら言った。
ノードマンはオラノフが軍人であった頃からの部下である。
ノードマンはオロノフの近くに座り小さな声でしゃべった。
実際のところ、どこか信用できない部分があったが、部下に余分な疑惑を植え付けかねないと、ひかえた。
ノードマンは真剣な面持ちで言った。ゴキシンには、ときどき、アリゾム山の山岳部隊を懐かしむような言動があった。
目をそらした。あまり思い出したくもない記憶もあった。
オラノフは言った。
フエネ平原では、大型のリザードマンが、手槍を投げていた。
ルドルルブがザレクスに手槍を投るのはどうだろうがと提案した。リザードマンは銛で魚を突くため、手槍の技術を持っていた。ザレクスはおもしろいと、試してみることにした。
重装歩兵を前に進ませ、少し離れたところから、盾を持った大型のリザードマンが、ドワーフの矢を防ぎながら、手槍を防壁の上にいるドワーフに向かって投げた。壁の高さは二メートル前後、三メートル前後の大型リザードマンの方が高い。ミスリル合金の鎧を身につけたドワーフに、致命傷とはならないが、上から、うち付けるように投げられた手槍に当たったドワーフは、防壁の上から落ちた。手槍の補給は、小型のリザードマンが行った。
手槍でひるませている間に、重装歩兵隊は近づき、破城鎚を扉に打ち込んだ。幾度か打ち付けていると、扉のかんぬきがへし折れる音がした。
扉が内側に開いた。
重装歩兵隊がなだれ込む。
吹き飛んだ。
鎧兜に鉄の板を張った盾を持った大柄の重装歩兵が一人、後ろに吹き飛んだ。
扉の内側でドロワーフが待ち構えてた。ハンマーを振るう。縦に貼り付けた鉄の板が歪み、中の木材が割れる。重装歩兵隊は砦の中に入り、左右に展開し、兵を送り込む。ドロワーフは少し下がりながらも、ハンマーを振るう。重装歩兵隊はそれに耐えながらも少しずつ中に入り込んでいく。それをさせじと、ドワーフとの押し合いになる。
どうしたものかと、ザレクスは悩んだ。
重装歩兵隊が中に入り、盾を構え拠点を確保し、兵を送り込んでいく。そのまま総攻撃を仕掛け押しつぶせばいいのだが。
つぶやいた。
相手はドワーフだ。しかもミスリルの鎧を着ている。兵を中に入れ、少数対少数に持ち込まれれば、不利になるのは人間の方だ。砦の中となると、大型のリザードマンも動きにくい。扉が開いたのも怪しい。何か策があるのでは無いかと、不安になった。
慎重に行きたいところだが、時間を掛ければ、ドワーフの援軍が来る。ひょっとしたら二度来ないチャンスなのかもしれない。だが、失敗したら、砦をつぶせるだけの兵力を失うかもしれない。
扉を壊し中に重装歩兵が入っている。歩兵に梯子を持たせ、大型のリザードマンに、壁を乗り越えさせ、一気に攻めれば、かなりの犠牲は出るが、落とせる。かもしれない。この戦いが終われるのだ。
悩んだ。
奇声と共に、また一人、重装歩兵が飛んだ。
命令した。
フエネ平原から南、牧場跡、夜、暗闇の中、かがり火の光から外れたところで、ドワーフが何かをしていた。
人間の兵がたいまつを投げた。
半円状に矢盾が建てられていた。その後で、ドワーフたちは土嚢を積み上げていた。
人間の兵は、矢を斜め上に放ち、矢を上空から落とした。ドワーフは棒のついた木の板を上に掲げ防いだ。土嚢は着々と積み上げられていく。
暗闇である。どれだけの伏兵が隠れているのかわからない。
ドワーフが落ちているたいまつに近づき、足で火を消した。暗闇の中、土嚢を積み上げる音が聞こえた。
朝になると、牧場跡地の壁の近く、南と西に二つ、土嚢を積み上げ壁にした拠点ができていた。