第二十話、騎馬戦

文字数 2,041文字

「はっ!」


 プロフェンは馬の速度を上げた。ドワーフが体制を整える前に攻撃を仕掛けようと考えたからだ。

 槍を脇に締め、ドワーフの軍とすれ違う。何度か突きを入れた。金属がぶつかる音、穂先に血がついていた。

 ドワーフの軍は少しずつ固まりつつあった。プロフェンは馬の息を整え、背後を突く。分断するように突き抜ける。中央に行くほど抵抗が激しくなる。横にそれた。何騎かやられていた。何度か突入の構えを見せ、横にそれるように外側からドワーフの兵を削り取っていく。斧槍の長さの所為で騎馬隊にも犠牲が出ている。リーチの短い斧兵を狙って、攻撃を仕掛ける。背後から矢が飛んできた。丘の上から、クロスボウをもったドワーフの部隊が出てきた。距離を取る。

 ザレクス率いる重装歩兵隊が、ドワーフの軍の前まで進んだ。前列の兵には鉄板を張った大盾を持たせている。木の盾に、鉄板を鋲で固定している。ドワーフが盾を壊してしまうと聞き、急遽作らせた。重量は増すが、そう易々とは破壊できない。

 ドワーフの斧兵とぶつかる。盾を地面につけ体で固定する。ドワーフが斧を振り回す。当たる。耐える。盾は少し歪曲しており力を逃しやすい構造をしている。隙を見て、ドワーフに盾ごとぶつかる。バランスを崩したドワーフを槍で突く。横に広がり、ドワーフの兵を包み込もうとする。


 傭兵や民兵を中心とした歩兵が迂回して、丘の上、ドワーフの本陣へ移動していた。手には、はしごを持っている。

 柵の中からドワーフの兵が矢を射た。木の盾で矢を防ぎながら近づいた。

 何かが飛んできた。木の盾が割れ、それを持っていた歩兵の顔がつぶれた。石である。


「むん!」

 メロシカムがこぶし大の石を投擲している。台の上に乗り、柵の上から投げている。木の盾が割れ、その後ろのいる人間に当たる。

 人間の兵は矢を放った。メロシカムは左腕に装着した盾で矢を防いだ。メロシカムは戦場で左の肘より上を失った。失った腕の代わりに楯をくくりつけている。隙を見て石を投げつける。盾が割れ、石塊が人間に当たる。人間の兵は少し距離を取りながら、蛇行するように、本陣の回りをうろついた。

 プロフェンはいったん下がり、馬を休ませた。

 代わりに第二騎馬隊のネルボが出た。


「ご苦労だった。なかなか見事な戦いっぷりだったぞ」


 ネルボはプロフェンをねぎらった。
「ありがとうございます。休ませて貰いますよ」
「おう」

 ネルボは馬を走らせた。






「でらんだーん!」


 ドロワーフが重装歩兵隊の盾目がけハンマーを振るっていた。

 鉄をへこまし、中の木を割っている。二度三度で盾が割れ、四度目で、その後ろにいた兵が吹き飛ぶ。


「隙間を埋めろ!」
 空いた隙間に入り込もうとするドワーフを別の盾兵が押し返す。ドワーフは押しながらも後にじりじりと下がった。ダリムは中央をドロワーフに任せ、左右に兵を多めに配置し囲まれないようにしながら、丘の上へ、引こうとしていた。それをさせないよう、ネルボ率いる騎馬隊が背後や側面を突いていた。本陣を攻めている人間の歩兵は、攻めるそぶりを見せながらも、丘の回りをうろうろしていた。
「しゃあ!」

 ネルボは矢を警戒しながら、ドワーフがまとまりきらないよう、背後と側面を攻撃した。

 徐々にだが、ドワーフの兵は囲まれつつあった。


「しゃがめ!」


 ダリムは目の前の斧兵に命じた。騎馬隊の前にいるドワーフの兵が一斉にしゃがんだ。

 ネルボは一瞬何が起こったかわからず、たずなをひいた。

 しゃがんだドワーフの背中の上をダリム率いる斧槍部隊が駆けた。飛んだ。斧槍を後にめいいっぱい引きながら、飛んだ。


「むっ」


 ネルボは槍を上にあげ防ごうとした。ダリムの斧槍は槍を断ち、右の肩から入り腹まで切り裂いた。ネルボは馬から滑るように落ち絶命した。

 指揮官を失い騎馬隊の動きが止まる。 

 丘の上から、手斧を持ったドワーフの兵が駆け下りてきた。


「ほい」


 手斧を持ったドワーフが、足の止まった騎兵に飛びついた。ドワーフの中でも身の軽い者を選んで作った部隊である。若者が多かった。ドワーフは年を追うごとに重く頑強になっていくが、まだひげも生えそろわない若いドワーフの中には身の軽い者がいた。馬によじ登り、騎手に手斧を叩きつけ、あるいは手斧を投げつけた。

「助けに行くぞ!」


「お待ちを!」

 馬で駆けようとする、リボルを止め、レマルクとプロフェンは騎兵を率い、第二騎馬隊救出に向かった。救出に向かう騎馬隊に向け、メロシカムは矢を射かけ、石を投げた。本陣を狙っている人間の歩兵は攻めるそぶりを見せるがやはり動かなかった。

 混戦になる。こうなるとドワーフは強い。手当たり次第に切りまくった。馬では近づけなくなる。

 ザレクスは隊を二つに分け、一つは、ドワーフの兵を押さえ、もう一つは、第二騎馬隊の救出に向かった。

 その隙を突いて、ダリムはドロワーフのひげを引っ張るようにして、本陣に撤退した。互いに兵を引き上げ、遺体の埋葬のため、しばし休戦となった。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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