第七十五話、牧場跡、雨
文字数 1,353文字
フエネ平原南、牧場跡を占拠したドワーフは、北側と西側の石垣を崩し、その崩した石で守りを固めていた。
国からの使者が来ていたが、ドルフは会わなかった。代わりに側近のムコソルが会った。
ムコソルは使者が持ってきた書簡を渡した。
ドルフは眉をしかめた。
ドワーフは仕事を好むが、命令は好まない。人間の奴隷になるぐらいなら戦って死ぬと実行するだろう。
言葉を濁した。ダレムはドルフの息子である。
ドルフはこめかみを揉んだ。
ハイゼイツ率いる援軍のドワーフ兵は疲労困憊していた。狭い山道に罠を仕掛けられ、数々の妨害を仕掛けられた。いくつかの荷車は焼け焦げ、荷車を引いていた馬も何頭かやられた。油をまかれ火矢を射かけられた。馬が足りなくなった荷車はドワーフが引いた。罠を仕掛けてきた人間の兵の姿は最後まで見ることはできなかった。
ぽつりと、兜が濡れた。
分厚い雲が見えた。雨粒がドワーフの兵の鎧兜の煤や汚れを落とす。
ハイゼイツは雨でさらに重くなった体を前に進めた。
夕暮れ、雨に視界を奪われながら、しばらく進むと、柵といくつか旗が見えた。
国軍の旗とバリイ領軍の旗が雨に濡れて垂れ下がっていた。
夕方から降り始めた雨は、夜になっても降り続いていた。
東の燃える森を見ながら、モディオルは不安げにつぶやいた。
雨に火勢が少し落ち着いたが、暗闇の中、オレンジ色の光と煙が森一帯で吹き出ていた。
ダレムは雨の音で目が覚めた。営舎で倒れ込むように眠っていた。
外側の防壁はすでに無いようなもので、土を掘り積み上げた防壁が二、三あるだけだった。
兵の数はさらに減り、動ける兵は五十程度だった。
メロシカムが言った。
ダレムはドロワーフとトンペコを呼んだ。