第七十五話、牧場跡、雨

文字数 1,353文字

 フエネ平原南、牧場跡を占拠したドワーフは、北側と西側の石垣を崩し、その崩した石で守りを固めていた。


「使者はなんと言っていた」


 国からの使者が来ていたが、ドルフは会わなかった。代わりに側近のムコソルが会った。


「アリゾム山の利権に食いついたようです。和平の条件を提示してきました」


 ムコソルは使者が持ってきた書簡を渡した。


「ずいぶん厳しいな、まるで降伏勧告のようでは無いか」


 ドルフは眉をしかめた。


「交渉の余地はあるでしょうが、現状ではあまり高望みはできますまい」


「奴らは何もわかっていない。ドワーフの寿命は長い。多少のことは我慢するが、隷属は無理だ。ドワーフの反乱など起こったら、わしとて手は付けられん」


「でしょうね」


「人に対して多少の後ろめたさはある、賠償金を払えと言われれば、納得はする。だが人間の監視の下で働くのは無理だ」


 ドワーフは仕事を好むが、命令は好まない。人間の奴隷になるぐらいなら戦って死ぬと実行するだろう。


「ただ、今の状況では、あまりいい条件で和解はできませんよ」


「わかっておる。やはり、森を焼かれたのは痛い。二万のドワーフという脅しが使えん」


「逆に人間側は援軍を送り込んできました。強気になるというものです」


「頼りは、北から遠回りしているハイゼイツか。足止めをくらっているようだが、あいつがダレムと合流してくれれば戦況をひっくり返せるのだが」


「難しいでしょう。オラム砦の兵が国軍五百と合流して、迎え撃とうとしています。その上、国軍五百が、ダレム殿の砦に向かっています」


「持たぬか」


「それは、なんとも」


 言葉を濁した。ダレムはドルフの息子である。


「なにかないのか」


 ドルフはこめかみを揉んだ。








「やっと抜けた」


 ハイゼイツ率いる援軍のドワーフ兵は疲労困憊していた。狭い山道に罠を仕掛けられ、数々の妨害を仕掛けられた。いくつかの荷車は焼け焦げ、荷車を引いていた馬も何頭かやられた。油をまかれ火矢を射かけられた。馬が足りなくなった荷車はドワーフが引いた。罠を仕掛けてきた人間の兵の姿は最後まで見ることはできなかった。

 ぽつりと、兜が濡れた。


「雨か」


 分厚い雲が見えた。雨粒がドワーフの兵の鎧兜の煤や汚れを落とす。


「森の火事が、少しは収まってくれればいいが」


 ハイゼイツは雨でさらに重くなった体を前に進めた。

 夕暮れ、雨に視界を奪われながら、しばらく進むと、柵といくつか旗が見えた。

 国軍の旗とバリイ領軍の旗が雨に濡れて垂れ下がっていた。








 夕方から降り始めた雨は、夜になっても降り続いていた。


「この程度の雨では、火は消えないよな」


 東の燃える森を見ながら、モディオルは不安げにつぶやいた。

 雨に火勢が少し落ち着いたが、暗闇の中、オレンジ色の光と煙が森一帯で吹き出ていた。








「雨か」


 ダレムは雨の音で目が覚めた。営舎で倒れ込むように眠っていた。

 外側の防壁はすでに無いようなもので、土を掘り積み上げた防壁が二、三あるだけだった。

 兵の数はさらに減り、動ける兵は五十程度だった。


「国軍と領主軍がハイゼイツの援軍を止めたようだ」


 メロシカムが言った。


「そうか」


「どうする」


「敵は」


「動きは無い。暗闇と雨、動けないだろう」


「そうだな」


「チャンスでもある」


「そうだな」


 ダレムはドロワーフとトンペコを呼んだ。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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