第三十一話、勝機

文字数 1,531文字

「アリゾム山を狙っているのか」


 リボルが言った。リボルの陣に、ソロン一行が立ち寄った。幕舎の中に案内された。


「そういう可能性があるという話です」

 ヘセントは、アリゾム山にミスリルがあるのではと言う、シャベルトの推測を説明した。


「なるほど、鉱物狙いか。噴火の話と合わせれば、納得がいく話だ」


 噴火の件も、ヘセントは話した。


「では、我々は急ぎ、領主様の元へ行きますのでこれで失礼します」


 ヘセントは席を立った。


「待たれよ。ドワーフの兵の様子を聞きたい。士気はどうであった」
「士気は、殺気立っている者もいましたが、全体的に見れば落ち着いてました。陣容は歩兵がほとんどでした。一部、低めの短馬に乗っている者もいましたが、あれは移動用でしょう。装備品に関しては、ほとんどの兵が鋼の板金鎧、ドルフ王は鎖帷子でしたが、ミスリル製でしたね。ミスリルの鎧を着ている兵はあまり見かけなかった気がします」
「鋼か。ミスリルではないのか」
 少し安堵した表情を浮かべた。
「ではこれで」
 ヘセントは幕舎を出た。

「まったく、慌ただしい」


 ソロンとシャベルトは追いかけた。








「どう思う」


 ソロン一行が去った後、リボルは副官のレマルクに問うた。


「戦略を立て直さなければなりません」


「ああ、どうしたものか。アリゾム山が目的なら、山に立てこもるというのも一つの手だが」


「それはまずいでしょう。フエネ平原に、まだ四百程度のドワーフがいます。あちらに合流し、オラム砦を攻め、館を領主様の命を奪うという選択肢もあります」


「そうだな、狙いがアリゾム山であると決まったわけでもないしな」


 ここに住む気なんじゃないですかね。フエネ平原でプロフェンが言った言葉をリボルは思い出した。フエネ平原よりは、アリゾム山の方がドワーフにとっては住みやすいかもしれない。


「先回りして、迎え撃つか。兵を二手に分け、一方をアリゾム山へ向かわせ守りを固め、ドワーフを挟み撃ちにするという方法もあります」

「ここで、ドワーフの兵二千とぶつかるという方法もある」


「それは」


 心許ない。レマルクはそう思った。


「難しいか。どちらにしろ、少し勝機が見えてきたな」


「ええ、すぐに、アリゾム山の山賊、いや、山岳部隊に知らせましょう。フエネ平原に残る兵にも知らせましょう」


「頼む」


 早馬を出した。







「あこぎな商売ですね」


「何がだい」


 領主の館からの帰り道である。 


「ドワーフに穀物を売ったお金を、その戦争相手の領主に貸すなんて、あこぎな商売ですね」


 秘書のメリアは横目でルモントを見ながら言った。


「否定はできんよ」


 武具や穀物、国外から仕入れるだけ仕入れた。値が上がるのを期待してため込む商人もいたため、おもしろいように売れた。領主の軍に穀物を仕入れていると領主の部下から声をかけられ、傭兵や民兵の給料を払うための資金援助を頼まれた。少し悩んだが、金を寝かせておくぐらいなら貸した方がいいと考え、貸した。罪悪感から少し安めの利息にすると、領主のイグリットは喜んだ。


「でも、大丈夫なんですか」


「なにがだ」


「領主様が負けてしまうと、お金を取り返せなくなりますよ」


「ドワーフが勝つと思うか」


「さぁ、今のところドワーフさん達が勝っている感じですけど」


 町を一つ焼かれ、フエネ平原に陣を構え、南の道をドワーフの軍が進軍中と聞いている。


「局地的に勝ったって意味は無いさ、国家相手に勝てるとは思えないし、最終的にどうなるかだ。数の少ないドワーフが人間を支配することはできない。だから、ドワーフが多少勝とうが、バリイ領は負けないと思うよ」


「バリイ領が安泰でも、領主様が生きているかどうかは別じゃないのですか」


「うん、それは、うん、そうだな」


 ルモントは少し困った顔をした。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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