第十三話、エルリム炎上
文字数 2,744文字
フロスは矢継ぎ早に指示を出した。
声が大きい。軍を指揮する者にとって、それは大切なことだった。フロスは子供の頃から声が大きかった。生まれた時から、大きかったと聞いている。
ドワーフの動きを止め、住民の避難を進め、負傷者の避難準備も進めた。ドワーフは住民を襲わない、負傷者もおそらく見逃してくれるだろう。だが武器を持つもの、戦う者には容赦はしない。あちこちで兵が殺されていた。中でもドロワーフの働きがすさまじく、前に立つ兵はことごとくやられた。先頭に立ち、兵を五十人ほど引きつれ奇声と共にハンマーを振るった。
住民と負傷兵を逃しながら、フロスはドロワーフを倒す計画を進めていた。兵の数はこちらが上、ドロワーフさえ倒せば、まだ勝ち目はある、そう考えていた。
町の地形はある程度理解していた。ドロワーフの一団を狭い路地に誘い込み、前後から挟み撃ち、建物の中にも兵を伏せさせ、包囲し殲滅しようと考えていた。
同時に様々な報告が舞い込んでくる。逃げ出す兵も出てきた。住民の中から共に戦おうとする者も現れた。傭兵団が町の商店を襲っているという報告もあった。間違った指示も正しい指示も出している。迷っている暇は無い。指示を出し続けなければ軍は死ぬ。フロスは指示を出し続けた。
フロスは背後から圧力を感じた。
斧槍を持った一団が、兵の中を斬り込んでくる。兵をかためぶつけた。止まらない。逃げ場を探した。今、指揮官であるフロスがうたれればこの戦いは終わる。
少数のドワーフがいくつかある逃げ道をふさいでいた。一番広い道を選択し、兵に攻撃を命じた。ぶつかる。ドワーフの兵は斧と鎧兜で攻撃を受け、兵を止めた。抜くことができない。押し合いになる。斧槍部隊が兵を切り捨てながら一直線にフロスの元に近づいてくる。血しぶきが跳ね上がる。フロスは剣を抜いた。声を上げ兵を鼓舞した。止まらない。目の前に来た。フロスは首をはねられた。
指揮官を失うと、ちぎれるように人間の軍は統率を失った。
それでもいくつかの塊が、根強く抵抗した。そういう兵をドワーフは徹底的に潰した。後々やっかいになる、そう考えたからだ。逃げる兵は放置した。略奪を働く傭兵団は殺した。建物に隠れて抵抗しようとする者もいたが、ドワーフが街に火を放ち始めると、逃げた。
エルリムの町は燃えた。
エルリム陥落の報を受け、バリイの領主であるイグリットが最初に発した言葉がそれである。
重臣が答えた。
総司令官のリボルが言った。
バリイの城周辺にも避難した住人が押し寄せている。軍のテントを建てそこに収容している。各地で同様のキャンプが張られている。
首をかしげた。
リボルは唇を噛みしめた。
イグリットはこめかみをもんだ。
斧を持ったドワーフに近づくな。昔から言われている格言である。
サロベルは近くに湖があり、漁業が盛んではあるが、人口はそれほど多くなく、木の柵程度のものしかない。
リボルは執務室から出て行った。
リボルが出て行き、しばらく思案げな顔をした後、イグリットが家臣のギャバロに言った。
バリイの領主であるイグリットには、相応の権限が与えられている。国王の臣下の中には王権の強化を図っている者もおり、なにかと口を出してきた。
王の命令が無い限り、トレビプト内の各領主は自国領以外に、勝手に軍を派遣することを禁じられている。
困った顔をした。
リボルがいた時に言えばいいのに、そんな顔をした。