第二十六話、進行

文字数 1,620文字


 ドワーフの王、ドルフは馬上にいた。馬と言っても人間が乗るような大きな馬ではなく、ドワーフ用に改良された背の低い短馬といわれる品種である。

 ドルフは二千の兵を率いていた。兵の士気はいいとはいえなかった。戦に興奮している者もいれば、顔を下に暗い雰囲気を持っている者もいた。


「もう少し、明るい顔をなされよ」


 ドルフの側近ムコソルが言った。


「そうだな」


 ドルフはため息をつき背筋を伸ばした。


「そうであるぞドルフ王、これから戦というのに、辛気くさい顔をしてはいかん。勝機が逃げてしまう」


 同じく短馬に乗った白髪を頭の後ろでまとめた筋骨たくましいドワーフが言った。


「わかっているベリジ殿。だが、気が乗らないものは乗らないのだ。戦になれば、シャンとなるだろう」


「それは楽しみだ。アデル族との戦いでの活躍、聞き及んでおりますぞ。共に戦えるのは楽しみだ」


 ベリジはうれしそうに笑った。


「はるか昔のことだ」


 ドルフは再びため息をついた。








 領主のイグリットからの親書を携え、ソロン一行は、ドルフに会うため、ギリム山に向かい馬を走らせていた。

 途中、領主からの使者が追いついてきて、ドルフ王が、ギリム山を出発したと連絡があった。


「南下しているのか」


 ドルフ王率いる二千のドワーフは、西のフエネ平原に向かわず、南西に向かっていた。


「援軍ではないのでしょうか」


 ヘセントは首をかしげた。フエネ平原ではドワーフの兵とリボル率いる騎馬隊が戦っていると聞いていた。援軍ならば、まっすぐ、西に行き、味方に合流するはずだ。


「寄り道でもしているのでしょうか」


 シャベルトは言った。


「確かに、あの辺りは、絶滅危惧種に指定されている樹上手長カメの生息地ではあるが、私たちではあるまい。寄り道などしないだろう。ドルフは素直な男だが、その配下のムコソルは知恵の回る男だ。何か策があるのかもしれんな」


「どんな策でしょうか」


「わからん。それも聞いてみればわかる」


 ソロンは馬を急がせた。







「どこに行こうというのだ」


 ギリム山を出発したドワーフの軍が南西に向かっているという報告を、リボルも受けていた。


「南西から迂回する理由もないでしょうし、南に抜けて、港を攻める気でしょうか」


「フネイルか、だが、そこまで行くと別の領地だぞ。バリイ以外に宣戦布告をしたという話も聞いていない。敵をわざわざ増やすようなことをするだろうか」


「南に太い道がありますが、そこを通ってどこか行こうとしているのかもしれません」


 レマルクは地図を見ながらいった。


「その道を進めばどこに出るのだ」


「いくつか道は分かれています。南に行けばフネイル、西に進めばアリゾム山でしょうか」


「付近にいる兵に警戒するように命じよう。アリゾム山には山岳部隊がいたはずだ」


「われわれはどうしますか」


「フエナ平原のドワーフと合流する気なら、歩兵を置いて、騎馬隊でドワーフの兵二千を足止めしようと思っていたが、こちらに合流する気が無いとすると、どうしたものか」


「フエナ平原のドワーフを叩くというのもよいでしょうが、二千のドワーフを放っておくというのも、恐ろしいものがありますな」


「そうだな、かといって、騎馬隊だけで、狙いのわからん二千のドワーフと戦うのも、正直いやだ。どこか明後日の方向にでも行ってくれればありがたいぐらいだ」


「道にでも迷って遭難でもしてくれればいいですがね」
 レマルクは少し笑った。
「ドワーフの王はフエナ平原の兵をどうする気なのだろうか。捨て石にする気なのか」

「わかりません。そもそもなぜ攻めてきたのかわかりませんので奴らが何をしたいのかわからないのです」


 ギリム山噴火の件を、領主であるイグリットは伝えなかった。不確かな情報であるということと、兵がドワーフに同情し、士気がさがるのを防ぐためである。


「ドワーフの目的はわからないが、フエナ平原に残っているドワーフは全員死ぬまで戦う気なのだろうな」


 リボルは心底いやそうな顔をした。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色