第二十七話、矛先

文字数 2,246文字

「ドワーフはどこへ行く気なのだ」


 バリイの領主イグリットは南西に移動した二千のドワーフに少しほっとしていた。


「南のゼルヤテ領に攻撃を仕掛ける気でしょうか」


 ゼルヤテはバリイの南にあり、海洋貿易が盛んな土地である。


「だとしたらありがたいがね。ゼルヤテで始末をつけてくれればどんなにうれしいか」


「そうではないということですか」


「ゼルヤテが目的なら、うちに宣戦布告なんてしないだろう。わざわざ宣戦布告をしてきたんだ。バリイ領を攻めるのが目的とみるべきだろう。それとも、そう思わせておいて、実は、なんてこともあるかもしれないな」


 少し考え込んだ。


「噴火の件と関係があるのでしょうか」


「わからんな、そもそも噴火するのかどうかもわからんしな」


「ゼルヤテ側には通告をなさいますか」


「そうだな、少し大げさに言っておいて、ドワーフとの戦いに巻き込むのもいいかもしれない。どいつもこいつも人ごとのように様子見しやがって」


 近隣の領主にも援軍を請う手紙をイグリットは出しているが、他の領地に軍を出すのは好ましくない、内政干渉になるなどと、やんわりと断られている。国王も、他の領主に兵を出すよう要請を出しているが、よい返事をもらえていないようだった。


「ゼルヤテを巻き込めれば、北と南で挟み撃ちにできるということですな。それはよい考えです」


「うまくいけばな、ドワーフが港町にでも攻め込んでくれればいいが、まずしないだろう。ドワーフに海は似合わんしな」


 イグリットは鼻で笑った。


「そうですね。どちらかというと山の方が似合っていますね」


「そうだな」


 イグリットは地図を見つめた。








 リボルは、フエナ平原にザレクスとベネドが率いる重装歩兵隊二百と歩兵二百、プロフェン率いる騎馬隊五十を置いて、残りの五百の騎馬隊と四百の歩兵を連れ南西にいる二千のドワーフに向かって出発した。ザレクスには無理に攻めるなと命じた。

 リボル率いる騎馬隊は途中兵を増やしながら、二千のドワーフの元へ向かった。エルフがドワーフの王に親書を渡すという話があるため、その結果が出るまでは二千のドワーフと戦うわけにはいかず、動きは遅かった。


「使者は何度か送っているはずだが、そもそもなぜエルフなのだ」


「ドワーフの王と知り合いだそうです」


 リボルとレマルクは馬で併走していた。


「あまり期待はできないが、軍を立て直す時間ができたのはありがたい」


「そうですね」


 だが、その分相手にも時間を与えていることになる。


「イグリット様は他にもいろいろ動いてらっしゃられるようだな」


「援軍の話ですな」


 戦場にいても様々な情報は入ってくる。


「ああ、国軍や他の領主の手を借りるのは気に入らん」


「ええ、私も好ましいとは思っておりませんが、致し方ないのではないでしょうか」


「まだ負けたわけではない。兵もいるのだ」


 リボルは各地に使者を出し、兵を集めていた。


「しかし、頭数を集めただけでは厳しいかと」


 レマルクは顔をしかめた。兵の数だけならすでに四千を超えている。まともな兵も集まっているものの、税の代わりに槍を渡された民兵や、年を取った退役軍人もいた。フエナ平原で使用した金属の板を張り付けた大盾を、急遽作らせているが、まだ時間がかかる。その他の武具も十分にそろってはいない。兵糧はまだ余裕があるものの長期化すればどうなるかわからない。


「敵を引きつけてくれるだけでもいい。何かの役には立つだろう」


「だといいですが」


 数は重要だ。人数が多ければ敵はひるむ、取り囲んでしまえば、まず負けない。だが、相手はドワーフだ。人数が多いからとひるむだろうか。囲まれたからと負けを認め武器を捨てるだろうか。そうは思えない。敵の人数が多ければ、たくさん斬り殺そうとする。囲まれたなら斧を振り回して切り抜ける。攻めるときは兜を前にじりじりと進む。足が遅い分、ドワーフには後に逃げるという発想がないのだ。おそらく、そういう連中だ。圧倒的な数の差があれば別だが、中途半端な雑兵が集まれば死者が増えるだけだ。ドワーフ相手の戦だ。どのような犠牲を払ってでも勝てばいいという戦ではない。領民が減ればそれだけ領地が荒れることになる。ドワーフに勝ったところで得るものは、おそらく少ないだろう。

 だからといって、数を増やす以外に何かいい方法があるのかといわれれば、レマルクは何も思い浮かばなかった。







(兵隊になるとはいったけど)


 プレドはリボルの軍に加わっていた。

 こんなにすぐに戦争に連れて行かれるとはプレドは思っていなかった。周りを見渡すと、新兵や老兵が多かった。

 いつものように町の入り口で立っていると、上役に呼ばれ、そのままドワーフと戦う軍に編入された。町の警備とかだったんじゃあ、といってみたが、配置転換だといわれ、家族と話す時間も無いまま、列に加わっている。


「おう、あんちゃん、景気の悪そうな顔してんな。戦争は初めてかい」
「ええ、軍に入ったのもついこないだです」
「そいつはついてないな! だが安心しな、恐いことなんて何もねぇ、十二の頃から戦に出ること、三十数回、わしが、ゴプリ様が戦のやり方ってのを教えてやるぜ」
「いや、べつに」


「いいか、槍ってのは、こうじっくり狙ってだな、軽く押し込む感じでいいんだ。まかり間違っても、突いちゃいけねぇ。体重かけて押すんだ。突くと腰が残っていけねぇ。な、わかるか」

 ゴプリは槍を手によたよたと倒れるような突きを見せた。
「なぁ!」
(漁師やってた方がよかったな)

 プレドは後悔した。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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